「くるま」と言うと怒った息子。ASD息子のこだわりがのばした「社会とつながる武器」【読者体験談】
お子さんのプロフィール
絵本を開けば、ページをめくる手が止まらない。……といっても、それは「次を読んで」ではなく、読み聞かせをスルーして好き放題めくっているだけ。「しゃしゃしゃっ」という音が切なさを増す日々。そんな、発語のない息子が繰り返し持ってくる絵本がありました。
それは車の絵本です。工事現場で働く車たちが一生懸命働いた後、夜眠る、というお話で、必ず「おやすみ○○(働く車の名前)、おやすみ」と、おやすみを2回くりかえす特徴的なフレーズがあります。
初めて読み聞かせた時から、息子はこの絵本に釘付けになりました。読み終わると、絵本をひっくり返し(表紙に戻し)、「もう1回」をアピールします。
毎回、何回も何十回もねだられ、さすがに疲れましたが、「自分から意思表示することがほぼないのに、ここで断ったら何かの芽をつんでしまうかもしれない」という思いもあり、嫌な態度はとらずに満足するまで続けました。
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1年ほどたち、やっと発語が出てきたくらいのある日、この絵本を自分で開いてブツブツ言っている姿が目に入りました。耳を澄ますと、「……おじたい、くれーんしゃ、おじたい」とあのフレーズを発しているのです。そして、ほかの部分は全然言葉になっていないものの、ときどき聞き取れる擬音やこのフレーズまでの「ブツブツ」の長さが、まるで文字を追って読んでいるようにぴったりなのです。空で読めるようになっていた私からしたら「ばっちり全部読んでる!」と分かりました。
単語の発語もままならないのに、「絵本を読んでいる風」な光景がほほえましかったのを覚えています。
「くるま」と答えたら息子が怒った。そのワケは……
この絵本のように、息子は「くるま」に関することをとことん追求しています。
車好きなパパの影響で、本物の車を模したミニカーを手にしたのは2歳くらいですが、明らかに興味を示すのでどんどん数が増えていきました。「発語を増やすために、子どもの遊びの実況中継や、手に取ったものの名前を伝えるとよい」という情報をもとに、息子が手に取ったときに「きゅうきゅうしゃ」「しょうぼうしゃ」「くるま」と伝えていたのですが、パパは「トヨタ プリウス」「ホンダ ステップワゴン」など、律儀にメーカーと車種まで伝えていました。当時の私は正直「そんなの無理でしょ」と冷めた目で見ていました。
そんな一方通行の声かけが続いたある日、たくさんのミニカーをずらーっと一列に整列させる遊びをしていたときのことです。
「あ」。
並べ終わった列の端っこのミニカーを手に取り、息子がこちらをじっと見ています。
さぐりさぐり「しょうぼうしゃ?」と言ってみると、満足げにおろし、次に並んでいるのをとってまた「あ」の声が。「名前を教えて、ってことね!」とうれしくなり、「あ」→「名前」のやり取りでのコミュニケーションになったのですが、「くるま」と答えたところで「わーーーー!」と少しお怒りモードに。
息子の求めているものややりたいことは、私が思うよりはるか高いレベルにあることに気づかされました。絵本を繰り返し読まされたのは「このお話聞きたい」ではなく「自分で読みたい」であり、ミニカーの名前を「くるま」では許さなかったのは「総称じゃなくてちゃんと正しい名前を教えて」だったのです。
「子どもに分かるよう簡単に」「ステップは順を追って」という常識は息子には通用しないということも痛感しました。パパに話したら、「息子は自分なりの判断材料で見分けていて、しかもあながち間違ってないよ」と言っていました。
6歳現在、驚くほどの数の車種を理解しています。「これは昔のスカイラインだよ」など、同じ車種でも今と昔で形が違うことまで私に教えてくれます。(私には違いがさっぱり分からず、息子と夫に置いていかれています)
「いんぷたたた」「ほったい」「あみにー」当時あった車種の「かわいい言い間違い」もいい思い出です。
大好きなもので広がっていく息子の世界。「車」のおかげで「妥協」もできるように
車への情熱は、これまでずっと息子の原動力になっています。
例えば、息子は初めての場所やできごとに極度の不安がありますが、出初式や車の展示会など「車に関するイベント」には、喜んで足を運びます。事前にイベントサイトなどを見せて「人が多いから疲れちゃうかもしれない、行く?行かない?」と聞きますが、「行かない」を選択したことは一度もありません。実際に行ってみると、やはり人混みを目の当たりにして固まってしまうものの、車を隅から隅まで観察し、車の前でポーズをとり(写真撮っての合図)、目を輝かせて楽しんでいます。苦手なことを克服とまではいかずとも、ネガティブ要素があるものにも挑戦できるのは、大好きな車だからだと思います。
また、数年前から「車のプラモデル」を作っているのですが、当初、無理に自分でやろうとしてパーツを壊してしまったのをきっかけに、パパの手伝いを許せるようになりました。「自分でやりたい」と「完成させたい」の間で自分なりに折り合いをつけ、手伝ってもらうという判断ができるようになったり、自分でやって失敗しても癇癪をおこさず妥協できるようになったりしているな、と思います。
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「何かに秀でた天才」ではなくても、好きなことが「社会とつながるための武器」に
決して「何かに秀でた天才」ではありません。
息子にとって車が「社会とつながるための武器」となり、これからも役に立てばいいなと思います。
あの時、パパの伝え方に口を出さなくて本当に良かった。
親の思い描くステップとは違うかもしれませんが(そして「それはどう考えたって難しすぎ」で折り合いをつけるのに苦労するときもありますが)、「子ども向けの低いハードル」を提示するのではなく、息子が「やりたい」「こうなりたい」のハードルを越えられるように、できることを考えていこうと思います。
※本文中の車名・ブランド名は各社の商標または登録商標です。
イラスト/keiko
エピソード提供/でぽこん
息子さんにとって「車」が社会とつながる大切なきっかけになっていった過程に、とても温かい気持ちになりました。子どもは、その子自身のペースで、好きなものを入り口にしながら少しずつ世界を広げていくものなのだと改めて感じます。息子さんの「好き」が何なのかをしっかり理解し、その興味を大切にされていたことが、とても素敵だと思いました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
- 診断名:ASD(自閉スペクトラム症)
- 診断時期:3歳頃
- エピソード当時の年齢:2~3歳頃
単語を飛び越えて文章を話し始めた息子。きっかけはある一冊のくるまの絵本でした
絵本を開けば、ページをめくる手が止まらない。……といっても、それは「次を読んで」ではなく、読み聞かせをスルーして好き放題めくっているだけ。「しゃしゃしゃっ」という音が切なさを増す日々。そんな、発語のない息子が繰り返し持ってくる絵本がありました。
それは車の絵本です。工事現場で働く車たちが一生懸命働いた後、夜眠る、というお話で、必ず「おやすみ○○(働く車の名前)、おやすみ」と、おやすみを2回くりかえす特徴的なフレーズがあります。
初めて読み聞かせた時から、息子はこの絵本に釘付けになりました。読み終わると、絵本をひっくり返し(表紙に戻し)、「もう1回」をアピールします。
意思表示がうれしくて、要望通り繰り返し読みました。
毎回、何回も何十回もねだられ、さすがに疲れましたが、「自分から意思表示することがほぼないのに、ここで断ったら何かの芽をつんでしまうかもしれない」という思いもあり、嫌な態度はとらずに満足するまで続けました。
Upload By ユーザー体験談
1年ほどたち、やっと発語が出てきたくらいのある日、この絵本を自分で開いてブツブツ言っている姿が目に入りました。耳を澄ますと、「……おじたい、くれーんしゃ、おじたい」とあのフレーズを発しているのです。そして、ほかの部分は全然言葉になっていないものの、ときどき聞き取れる擬音やこのフレーズまでの「ブツブツ」の長さが、まるで文字を追って読んでいるようにぴったりなのです。空で読めるようになっていた私からしたら「ばっちり全部読んでる!」と分かりました。
単語の発語もままならないのに、「絵本を読んでいる風」な光景がほほえましかったのを覚えています。
「くるま」と答えたら息子が怒った。そのワケは……
この絵本のように、息子は「くるま」に関することをとことん追求しています。
車好きなパパの影響で、本物の車を模したミニカーを手にしたのは2歳くらいですが、明らかに興味を示すのでどんどん数が増えていきました。「発語を増やすために、子どもの遊びの実況中継や、手に取ったものの名前を伝えるとよい」という情報をもとに、息子が手に取ったときに「きゅうきゅうしゃ」「しょうぼうしゃ」「くるま」と伝えていたのですが、パパは「トヨタ プリウス」「ホンダ ステップワゴン」など、律儀にメーカーと車種まで伝えていました。当時の私は正直「そんなの無理でしょ」と冷めた目で見ていました。
そんな一方通行の声かけが続いたある日、たくさんのミニカーをずらーっと一列に整列させる遊びをしていたときのことです。
「あ」。
並べ終わった列の端っこのミニカーを手に取り、息子がこちらをじっと見ています。
さぐりさぐり「しょうぼうしゃ?」と言ってみると、満足げにおろし、次に並んでいるのをとってまた「あ」の声が。「名前を教えて、ってことね!」とうれしくなり、「あ」→「名前」のやり取りでのコミュニケーションになったのですが、「くるま」と答えたところで「わーーーー!」と少しお怒りモードに。
え、もしや……と思い、「ごめんね、ママ車種が分からないから裏をみせて」と言って息子が手に持っているミニカーを借りて車の裏を確認、「トヨタ プリウス」と言いながら渡すと機嫌がなおり元の場所に戻したのです。
息子の求めているものややりたいことは、私が思うよりはるか高いレベルにあることに気づかされました。絵本を繰り返し読まされたのは「このお話聞きたい」ではなく「自分で読みたい」であり、ミニカーの名前を「くるま」では許さなかったのは「総称じゃなくてちゃんと正しい名前を教えて」だったのです。
「子どもに分かるよう簡単に」「ステップは順を追って」という常識は息子には通用しないということも痛感しました。パパに話したら、「息子は自分なりの判断材料で見分けていて、しかもあながち間違ってないよ」と言っていました。
6歳現在、驚くほどの数の車種を理解しています。「これは昔のスカイラインだよ」など、同じ車種でも今と昔で形が違うことまで私に教えてくれます。(私には違いがさっぱり分からず、息子と夫に置いていかれています)
「いんぷたたた」「ほったい」「あみにー」当時あった車種の「かわいい言い間違い」もいい思い出です。
(車好きの方ならお分かりでしょうか……?インプレッサ、フォルクスワーゲン、ランボルギーニでした)
大好きなもので広がっていく息子の世界。「車」のおかげで「妥協」もできるように
車への情熱は、これまでずっと息子の原動力になっています。
例えば、息子は初めての場所やできごとに極度の不安がありますが、出初式や車の展示会など「車に関するイベント」には、喜んで足を運びます。事前にイベントサイトなどを見せて「人が多いから疲れちゃうかもしれない、行く?行かない?」と聞きますが、「行かない」を選択したことは一度もありません。実際に行ってみると、やはり人混みを目の当たりにして固まってしまうものの、車を隅から隅まで観察し、車の前でポーズをとり(写真撮っての合図)、目を輝かせて楽しんでいます。苦手なことを克服とまではいかずとも、ネガティブ要素があるものにも挑戦できるのは、大好きな車だからだと思います。
また、数年前から「車のプラモデル」を作っているのですが、当初、無理に自分でやろうとしてパーツを壊してしまったのをきっかけに、パパの手伝いを許せるようになりました。「自分でやりたい」と「完成させたい」の間で自分なりに折り合いをつけ、手伝ってもらうという判断ができるようになったり、自分でやって失敗しても癇癪をおこさず妥協できるようになったりしているな、と思います。
Upload By ユーザー体験談
「何かに秀でた天才」ではなくても、好きなことが「社会とつながるための武器」に
決して「何かに秀でた天才」ではありません。
でも、好きなことを突き詰められる息子を、一人の人間として尊敬しています。
息子にとって車が「社会とつながるための武器」となり、これからも役に立てばいいなと思います。
あの時、パパの伝え方に口を出さなくて本当に良かった。
親の思い描くステップとは違うかもしれませんが(そして「それはどう考えたって難しすぎ」で折り合いをつけるのに苦労するときもありますが)、「子ども向けの低いハードル」を提示するのではなく、息子が「やりたい」「こうなりたい」のハードルを越えられるように、できることを考えていこうと思います。
※本文中の車名・ブランド名は各社の商標または登録商標です。
イラスト/keiko
エピソード提供/でぽこん
息子さんにとって「車」が社会とつながる大切なきっかけになっていった過程に、とても温かい気持ちになりました。子どもは、その子自身のペースで、好きなものを入り口にしながら少しずつ世界を広げていくものなのだと改めて感じます。息子さんの「好き」が何なのかをしっかり理解し、その興味を大切にされていたことが、とても素敵だと思いました。
また、「子ども向けの低いハードル」を用意するのではなく、本人の「やりたい」「こうなりたい」という思いを大事にしながら、どうすればそこへ近づけるかを考えていく姿勢にも深く共感しました。(監修:小児科医藤井明子先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。