【専門家コラム】「育て方が悪いの?」と自分を責める前に。診断前やグレーゾーンでも試したい親子がラクになる3つのステップ
「育てにくい」と感じたときに知っておいていただきたい視点、診断がつく前から試せる具体的なヒントとは?
「どうしても癇癪がひどくて、毎日ヘトヘト……」
「何度同じことを言っても伝わらない」
「周りの子と比べて、どうしてうちの子はこんなに手がかかるんだろう」
そんなふうに、わが子に対して「育てにくい」と感じる瞬間はありませんか。そして、そう思ってしまうご自身に対して、「育て方が悪いのかもしれない」「私の愛情不足なのかな」と、密かに自分を責めてしまうこともあると思います。
日々の診療を通じて多くのご家族とお話ししていると、同じような悩みを抱え、誰にも言えずに孤独を感じている保護者の方が本当にたくさんいらっしゃいますし、私が運営しているNPO法人そらいろコアラのLINE相談でも同様の相談が日々寄せられます。今回は、「育てにくい」と感じたときに知っておいていただきたい視点と、医療機関で診断がつく前であっても、今日からご家庭で試せる具体的なヒントをお伝えします。
「育てにくさ」は、誰のせいでもありません
まず一番にお伝えしたいのは、「育てにくさ」は、子どものせいでも、保護者の育て方のせいでもないということです。では、あの毎日の大変さはどこから来るのでしょうか。
「育てにくさ」は、子ども自身が持っている「生まれつきの特性(気質や発達のペース)」だけで決まるものではありません。家庭や園での過ごし方、周囲の関わり方など「周囲の環境」とうまく噛み合っていない、いわば「ミスマッチ」から生まれることがあります。
つまり、お子さん自身も「今の環境が自分に合っていなくて、どうしていいか分からず困っている」状態なのです。「育てにくい」と感じたときは、親子で一緒にこのミスマッチを紐解いていくサインだと捉えてみてください。
見えている姿は「氷山の一角」かも?
子どもが激しく泣き叫んだり、指示に従わなかったりすると、どうしてもその「困った行動」ばかりに目がいってしまいますよね。
「スーパーでひっくり返って泣き続ける……」
「靴下がうまく履けなくて大パニックに……」
しかし、それは海面から突き出た「氷山の一角」に過ぎません。水面下には、その行動を引き起こしている「根っこの理由」が隠れていることがあります。・発達年齢のギャップ
実年齢は5歳でも、言葉の理解や感情のコントロールは3歳くらいということがあります。手先の発達がまだ未熟かもしれません。「5歳だからできるはず」という関わり方は、子どもにとってハードルが高すぎることがあります。
・特定の苦手さ、感覚の過敏さ
「特定の音が耳を塞ぎたくなるほどつらい」「素材がチクチクして耐えられない」など、周囲には分かりにくい感覚の違いがストレスになっていることもあります。
「どうしてこんなことをするの!」と叱りたくなる気持ちをグッとこらえて、「この子には今、何が難しくて、どんなふうに見えているんだろう?」と、水面下の理由を想像することが、状況を好転させる第一歩になります。
診断前でもできる!親子がラクになる3つのステップ
「まだ病院に行っていないけれど、どう関わればいい?」「グレーゾーンと言われたけれど……」という場合でも、日常の関わり方を少し変えることで、お子さんも保護者の方もずっとラクになる3つのステップをご紹介します。
- 1.「困りごと」を整理して、的を絞る
- 2.行動を3つに分けて対応を変える
- 3.「環境」をお子さん特注に整える
1.「困りごと」を整理して、的を絞る
あれもこれも直そうとすると、お互いに疲弊してしまいます。まずは「今、一番困っている行動は何か?」を一つだけ選び、そこに集中してみましょう。将来への不安や、今すぐには解決できない悩みは、いったん横に置いておくことも大切です。目の前の困りごとを小さく分けて考えることで、取り組みやすくなります。
2.行動を3つに分けて対応を変える
子どもの行動を客観的に観察し、次の3つに分けて対応を工夫してみましょう。
・増やしたい行動→しっかり「ほめる・注目する」
当たり前にできていること、たとえば静かに座っている、ご飯を食べている、少し待てている、といった行動を見逃さず、「座って待てているね」「自分で食べられているね」と肯定的な声かけを増やします。
・ 減らしたい行動→ 安全を確認したうえで、少し「注目を外す」
気を引くためのぐずりや、軽いふざけなどには、怒ったり長く説得したりせず、いったん視線や反応を減らします。
これは、子どもを突き放すことではありません。「その行動では注目を得にくい」と伝えるための関わり方です。その代わり、落ち着けた瞬間や切り替えられた瞬間を見逃さず、すぐに肯定的に声をかけます。
・危険な行動→短く、はっきり止める
自分や他者を傷つける行動は、感情的に叱り続けるのではなく、真剣な表情で短く「ストップ」と伝え、まず安全を確保します。
3.「環境」をお子さん特注に整える
子どもが変わるのを待つのではなく、周囲の環境を変える「環境調整」がとても有効です。
・視覚的に伝える
視覚的に情報をキャッチするのが得意なお子さんは、言葉だけで指示するより、イラストや写真、タイマーなどを使って「見て分かる」ように伝えます。
・刺激を減らす
気が散りやすい子なら、おもちゃを箱にしまって見えないようにする、落ち着ける静かなスペースを作るなどの工夫をします。
・スモールステップにする
最初から完璧を求めず、「靴下を片方履けたらOK」など、必ず成功できるレベルまでハードルを下げます。
ひとりで抱え込まず、まず一言をこぼしてみて
お子さんの特性に合わせた関わり方のコツが分かってくると、ミスマッチが減り、驚くほど日常が穏やかになることがあります。医療機関での「診断」も、決して子どもにレッテルを貼るためのものではありません。お子さんの特性を理解し、必要な環境調整やサポートを受けるための「一つの道具」と考えていただければと思います。
もし今、「育てにくい」と悩み、ご自身の心と身体が限界に近づいているなら。どうかひとりで抱え込まず、保健センターの保健師さんや、かかりつけの小児科医、子育て支援センターのスタッフなどに、「実は、毎日本当に大変で……」とこぼしてみてください。
「何に困っているかうまく説明できないけれど、とにかく毎日しんどいです」
この一言からで大丈夫です。
あなたのSOSを受け止め、一緒に考えてくれる人は、地域の中にきっと見つけられます。まずは保護者の方自身がホッと一息つける環境を作ることも、お子さんの笑顔につながっていきます。
また別のコラムでも子どもの発達や子育ての工夫、家庭だけで抱え込まないための地域の支援について、一緒に考えていきたいと思います。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。このコラムが、皆さまの安心やヒントにつながれば幸いです。https://npo-sorairokoala.jimdofree.com/
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。