「やめたいのに出ちゃう」チック・家庭での対応とCBIT/「こどものクセ外来」―小児科医による行動療法―
「やめたいのに出ちゃう」と、子ども自身もコントロールに苦労している「チック」の症状とは?
「またやってるよ」「やめなさい」と、子どものまばたきや咳払いが気になって、つい注意してしまう。「わざとやっているのでは?」と悩む保護者の方も多いのではないでしょうか。実は、そうした行動は単なるクセではなく、「やめたいのに出ちゃう」と、子ども自身もコントロールに苦労している「チック」の症状かもしれません。
シリーズ「こどものクセ外来」。今回も獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、チック症状の正しい理解と、ご家庭での安心できる見守り方や、専門的な行動療法(CBITなど)についてご執筆いただきました。
Upload By 井上 建
チックとは?
チックとは、まばたきや首振り、肩すくめなどの「動き」や、咳払い、鼻すすり、声を出すなどの「音」が、突然、素早く、繰り返し出てしまうものです。動きとして出るものを「運動チック」、音として出るものを「音声チック」と呼びます。代表的なチックには、表のようなものがあります。
Upload By 井上 建
チックは、本人がわざとしているわけではありません。「やめなさい」と言われても完全に止めることは難しく、一方で短時間なら我慢できることもあるため、周囲から誤解されることがあります。小学生の時期に目立ちやすく、症状は増えたり減ったりしながら経過します。多くは成長とともに軽くなるため、まずは不安になりすぎず、どのようなことで本人が困っているかを見ていくことが大切です。
チックで困るのは、症状そのものだけではありません
チックの前には、「ムズムズする」「違和感がある」「チックを出したい感じがする」といった感覚があることがあります。これは「前駆衝動」と呼ばれ、チックを出すことで一時的に楽になることがあり、そのため本人にとっては簡単に止めにくいものになります。チックは単なる癖ではなく、本人もコントロールに苦労している症状です。
チックは、緊張、不安、興奮、睡眠不足などで一時的に増えることがあります。
一方で、ゲームや動画などでリラックスしている時に目立つこともあり、ストレスだけが原因と考えるのは適切ではありません。抜毛症コラムで紹介した「きっかけ(=先行刺激)」を見ることも大切ですが、それだけでなく、本人がどんなことで困っているのかにも目を向けることが大切です。
チックで困るのは、症状そのものだけではありません。首振りが続いて首が痛くなる、まばたきや声が気になって授業や宿題に集中しにくい、周囲からからかわれる、「やめなさい」と注意されてつらくなる、ということもあります。
Upload By 井上 建
※図はAIの支援を受けて執筆者が作成しました
家庭でまずできることは、チックを注意しすぎないことです。「またやってるよ」「やめなさい」と繰り返し指摘されると、本人はチックを必要以上に意識し、緊張や不安が高まって、チックが増えることもあります。もちろん、保護者として気になるのは自然なことですが、チックは本人がわざと出すものではありませんので、家庭はチックが出ても見守られる場所にしてあげると良いでしょう。
次に、きっかけ(=先行刺激)について考えます。
観察することで、睡眠不足や不安、緊張、興奮など、チックが増えやすい先行刺激を整理できたら、その対応について考えます。例えば、早めに寝る、予定を詰め込みすぎない、宿題や勉強は短く区切る、ゲームや動画は休憩を入れるなどの小さな調整が役立つことがあります。学校でからかわれたり、指摘されたりしている場合には、本人と相談しながら、担任の先生や養護の先生に状況を伝えることも大切です。
また、こうした工夫だけでは困りごとが減りにくい場合には、専門家の助言を受けながら、行動療法の考え方を家庭で少しずつ試していくこともあります。
Upload By 井上 建
※図はAIの支援を受けて執筆者が作成しました
チックがあっても、症状の程度が軽度で、生活への影響が小さい場合には、経過を確認しながら様子を見ることもあります。一方で、首や肩の痛みがある、授業や宿題に集中しにくい、からかいや不登校につながっている、本人が強くつらさを感じている、といった場合には相談をするとよいでしょう。
近年は、専門的な対応として、ハビットリバーサルトレーニング(HRT)や、チックのための包括的行動的介入(CBIT)が注目されています。HRTでは、チックそのものや、チックの前に生じる感覚(=前駆衝動)に気づき、チックと同時にはできない別の動き(=拮抗反応)を練習します。
例えば咳払いのチックの場合、「口をすぼめて息を吸い、ゆっくり鼻から吐く」という呼吸が拮抗反応の一つとなります。この呼吸をしている間は咳払いをすることはできず、前駆衝動が落ち着くまで、ゆったりと繰り返すことで咳払いのチックをやり過ごしやすくなる、という具合です。
CBITは、HRTを中心に、心理教育、リラクセーション、生活場面に合わせた工夫などを組み合わせた治療プログラムです。
CBITは、各国のガイドラインでも推奨される第一選択の介入法の一つですが、実施できる施設が限られている、コストが高いなどの課題がありました。そこで私たちは、より多くの方にCBITを届けるため、オンラインかつグループ形式で行うRG-CBITを開発し[注1.2]、実践しています。RG-CBITについてご関心のある方は、「こどもの心と行動らぼ」のサイトもご参照ください[注3]。
症状が強く、日常生活への影響が大きい場合には、薬物療法を検討することもあります。症状の強さ、本人の年齢や希望、併存症、副作用の影響などについて相談して行われます。
https://www.frontiersin.org/journals/psychiatry/articles/10.3389/fpsyt.2022.890866/full
[注1] Inoue, T., et al. (2022). Open-case series of a remote administration and group setting comprehensive behavioral intervention for tics (RG-CBIT): a pilot trial. Frontiers in Psychiatry, 13, 890866.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41240071/
[注2]Inoue, T., et al. (2026). A randomized clinical trial of remote Group-Based comprehensive behavioral intervention for tics. European Child & Adolescent Psychiatry, 35(3), 1031-1038.
https://childlab.jp/cbit/
[注3] こどもの心と行動らぼ.RG-CBIT(チックのための包括的行動的介入)
まとめ
チックは単なる癖ではなく、本人もコントロールに苦労している症状です。まずは、無理に止めさせるより、家庭は、チックが出ても安心して見守られる場所であってほしいと思います。困りごとが続く時には、CBITなどの専門的な対応もあります。叱るより、理解する、チックと戦うより、お子さんが少し楽に過ごせる作戦を、一緒に探していきましょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。