過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている
これまでの価値観や人生モデルが崩壊し、「考える力」が求められるとされる昨今、中学入試においてもいわゆる「思考型入試」が導入されるケースが増えつつあります。それにより、中堅以下の学校、そして難関校においても変化が起きているそうです。育児や教育に関する執筆活動の他、各種メディアで活躍する教育ジャーナリストのおおたとしまささんにお話を聞きました。
構成/岩川悟(slipstream)取材・文/清家茂樹(ESS)写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
オーソドックスだった開成中が出した変化球問題
いま、中学入試は過渡期にあります。その象徴のひとつが、教育界でいうところの「開成ショック」。2018年2月、開成中が国語の問題として出したのは、かいつまむと以下のようなものでした。「ふたつの支店でおこなったカニ弁当の販売について、それぞれの支店の売れ行きを示したグラフを基に、ひとりの社員を評価する部長に対し、その意見を否定する社長の考えを読み取る」という内容です。
問いは、「社長は、部長の報告のどの表現に、客観性が欠けたものを感じたのでしょうか。二つ探し出し、なるべく短い字数で書きぬきなさい」というものでした。
この問題の模範解答や採点基準を見たわけではないのではっきりとはいえませんが、おそらくはディベートに求められるような力を試したのではないでしょうか。ディベートには自分の意見と関係なく、賛否双方の立ち場から論理を組み立てる力が必要とされます。これは、それこそ「思考型」と呼ばれるタイプの問題といえるでしょう。
これまで割とオーソドックスな問題を出してきた開成中が、こういった「変化球」の問題を出したことで、「2020年にはじまる大学入試改革を先取りしているのではないか」と大きなトピックになったわけです。
首都圏では「適性検査型入試」が激増
ただ、わたしは単純にそうだとは思いません。大学入試改革に合わせたわけではなく、「世のなかが求める学力観」に合わせた変化なのだと思います。
いま、世のなかが求める学力とは、大きくは3つだと見ていいでしょう。
【1】相手のいわんとしていることを正確に読み取る「読解力」
【2】知識の量に関係なく考えられる力、いわゆる「論理的思考力」
【3】自分の考えをアウトプットする「表現力」
教育界では、知識を詰め込むのではなく、この3つのサイクルを鍛えることにもっと力を入れないとならないといわれています。