小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない
という考えを持っているように感じるのです。「テクノロジーがあるから絵本をつくる」ということに主眼を置いていて、子どもがどういうふうに使うかとか、それが子どもの学習をどう助けられるのかという観点が足りていないのではないかと思います。
いずれにせよ、現時点のデジタル絵本は紙の絵本での生の読み聞かせには勝てないでしょう。やはり、質という点では、生のコミュニケーションにはかなわないからです。とくに小さな子どもというのは、直接の生のコミュニケーションをとおしてもっともよく理解し、学ぶことができることが多くの研究で実証されています。
もちろん、子どもにとって学びになるコミュニケーションは、絵本の読み聞かせだけではありません。普段の会話もとても大切です。そのなかで、子どもの理解度を見極めながら、同じことを別のいろいろないい方で話すように心がけてみてください。
使う言葉を変えてもいいですし、構文を変えてみるのもいいでしょう。
そのような対話の中で、子どもは「わからない」言葉にたくさん出会います。じつは、子どもの学びにとって「わからない」ことがあるのはすごく大切なことです。わからない言葉を聞き、会話の内容や文脈からその意味を推論する。そうやって子どもは学んでいくのです。語彙力、推論力が高い子どもの親御さんはそういうことを日常で自然にやっている場合が多いのです。親をはじめとしたまわりの大人の語りかけの量と質が子どもの言葉力に大きな影響を与え、それがさらに思考力を磨いていくのです。
『科学が教える、子育て成功への道』
キャシー・ハーシュ=パセック、ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ 著
今井むつみ、市川力 翻訳/扶桑社(2017)
■ 慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ先生 インタビュー一覧
第1回:我が子の「成功」を願う親が、絶対に伸ばしてやるべき子どもの“力”
第2回:小さな子どもが喜ぶ「デジタル絵本」に、実は“学びの効果”は期待できない
第3回:「コミュニケーション能力を重視しすぎ」な親が、犯しかねない過ちとは(※近日公開)
第4回:家庭での学びが「アクティブ」で「プレイフル」になる、いちばんの方法(※近日公開)
【プロフィール】
今井むつみ(いまい・むつみ)
慶應義塾大学文学部西洋史学科卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了、ノースウェスタン大学心理学部博士課程修了。