つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える
我が子に立派な人間になってほしい――。そう願うのなら、子どもが好ましくない行動をとったときにはある程度叱ることも必要だと考えるのは当然のことかもしれません。ところが、「基本的に、子どもは叱らなくても大丈夫」と言うのは、株式会社子育て支援代表取締役の熊野英一さん。その真意はどんなものなのでしょうか。日本アドラー心理学会/日本個人心理学会の正会員でもある熊野さんが、アドラー心理学の観点から教えてくれました。
構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人
ほめるも叱るも、子どもを「操作」しようとしているだけ
「ほめて育てる」子育てが注目されている昨今ですが、アドラー心理学に基づく子育てでは、基本的に子どもをほめません。それなら、子どもを叱り飛ばしてばかりいるのかというとそうではなく、アドラー心理学では子どもを「叱らない」ことも大切にしています。
子どもをほめないのは、「子どもを自分の思い通りにしよう」という「操作」の下心によって親子の信頼関係が壊れてしまわないようにするため。
または、ほめすぎることで子どもの人格形成に悪影響を与えないようにするためです(インタビュー第3回参照)。
では、「叱る」という行為はどうかというと、これもまた「操作」なのです。親が怒りやイライラなどの感情を子どもに対してぶちまけて叱ることには、「怖い顔をして大きい声を出せば、この子は言うことを聞くだろう」といった、操作の下心があります。その点で、叱ることもほめることと同様に、親子の信頼関係を壊してしまう危険性をはらんでいるのです。
ほめるのも叱るのも、親が子どもを思い通りに操作するための作戦の違いに過ぎません。子どもに早く起きてほしいとき、多くの親は、「いい子だから、早く起きようね」と、まずほめる作戦から始めます。そして、どんどん時間が過ぎていくと、「なにやってるの!早く起きなさい!」と今度は叱る作戦を使うという具合です。
もちろん、ほめることも叱ることも、たいていは子どものためを思っての親の行動です。
「我が子にきちんとした人間に育ってほしい」と思って、ほめてみたり叱ってみたりと、親は一生懸命なのです。でも、結果はというと……親子の信頼関係を壊してしまったり、子どもの人格形成に悪影響を与えてしまったりと、あまり好ましくない方向に向かいます。つまり、その作戦自体が間違っていると考えるべきです。