「45分座っていられない」は当たり前。小学校の授業時間に体が慣れるまでの脳科学的タイムライン
「うちの子、45分間じっと座っていられるかしら」
小学校の入学が近づくと、こんな心配が頭をよぎる方は多いのではないでしょうか。でも、安心してください。小学1年生が45分間ずっと集中し続けるのは、脳の発達から考えると、とても難しいことなのです。
集中力を司る前頭前野 (ぜんとうぜんや)は6歳ではまだまだ成長の途中。この時期の子どもが高い集中を保てるのは15分くらいが目安と言われています。*1
では、子どもの脳と体はどんなペースで「45分の授業」になじんでいくのでしょうか。この記事では、脳科学と発達心理学の知見をもとに、入学前後の保護者の方に知っておいてほしい「座る力」の育ち方と、家庭でできるサポートをお伝えします。
6歳の脳に「45分集中」を求めるのが難しいワケ
集中力の中枢を担っているのは、おでこの奥にある前頭前野という脳の領域です。
前頭前野は判断や計画、衝動をぐっとこらえる力、そして注意を持続する力をコントロールしている、いわば「脳の司令塔」。ところが、この司令塔が完全に出来上がるのは25歳前後と言われています。*2
なかでも6 〜 7歳は、前頭前野がぐんと伸びる時期にあたります。神経回路を包む「ミエリン」という絶縁体が少しずつ増えることで、脳内の信号がスムーズに伝わるようになり、注意を保つ力が徐々に育っていきます。
ただし、この髄鞘化(ずいしょうか)と呼ばれるプロセスはすぐに完了するものではありません。前頭前野の白質(ミエリンに覆われた神経線維)は、4歳 〜 13歳にかけてゆっくりと増え続けることがMRI研究でわかっています。
つまり、6歳の子どもの脳はまさに「集中できるようになる途中」。15分くらいで集中が途切れるのはとても自然なことなのです。
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子どもが授業時間に「慣れていく」プロセスは、大きく3つのフェーズに分けられます。
フェーズ1入学前〜入学直後(4月)「15分の壁」
入学したばかりの子どもにとって、椅子に座り続けること自体がひと仕事です。この時期の集中力は15分前後が目安で、それを過ぎると体がもぞもぞし始めたり、隣の子に話しかけたくなったりするのはごく当たり前のこと。 じつは、小学校の先生方もこのことをよくわかっていて、それを前提に授業を組み立てています。
1年生の授業は「15分以内の活動を複数つなげる」スタイルになっていることが多く、先生の話を聞く時間、ノートに書く時間、手を動かす時間……と使う感覚を切り替えながら、集中の波を上手につないでいるのです。
フェーズ21学期後半〜夏休み前(5〜7月)「体幹の基盤づくり」
入学から2 〜 3か月もすると、少しずつ変化が見えてきます。学校生活のリズムに体がなじみ、「授業が始まったら座る」「先生が話し始めたら前を向く」という流れが自然にできるようになってきます。
この時期、じつは体の面でも大きな成長が起きています。長い時間座り続けるには、背骨を支えるおなかや背中のインナーマッスル(深部体幹筋)の持久力が欠かせません。それまで走り回って遊んでいた子どもにとって、椅子でじっと姿勢を保つのは、筋肉そのものが違うだけでなく、脳からの指令の出し方が切り替わるイメージが伝わりやすくなります。
1学期の間に少しずつ「座るための筋力」が育ち、だんだん姿勢が崩れにくくなっていきます。 ちなみに、椅子と机の高さが体に合っているかどうかもポイントです。座ったときに足の裏がしっかり床につき、膝が約90度に曲がる高さが理想的。足がぶらぶら浮いている状態だと体が安定せず、姿勢を保つだけで余計な力を使ってしまいます。
フェーズ32学期以降(9月〜)「注意の切り替え」が上達する
2学期に入ると、子どもの脳にうれしい変化が起き始めます。
7歳前後は前頭前野がぐっと伸びる節目の時期で、まわりの刺激に振り回されにくくなる力(選択的注意)がぐんと育ちます。
隣の席の子が動いていても気にならなくなったり、先生の指示にさっと反応できるようになったりするのは、この脳の成長のおかげです。
これはあくまで「だいたいの目安」。育ちのペースは子どもによってさまざまで、2年生になってからぐっと落ち着く子もいれば、もともと集中しやすいタイプの子もいます。まわりの子と比べるよりも、「先月のわが子」と比べて小さな成長を見つけてあげてくださいね。▼ あわせて読みたい
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家庭でできる3つのサポート
1. 「座る練習」ではなく「体を動かす遊び」を増やす座る力を伸ばしたいなら、ちょっと意外かもしれませんが「たくさん体を動かすこと」がいちばんの近道です。公園でのぼったり走ったりジャンプしたりする遊びは、座る姿勢を支える体幹の筋力やバランス感覚を自然に育ててくれます。*3
おうちで「座る練習」をがんばらせるよりも、放課後に思い切り体を動かす時間をつくってあげるほうが、ずっと効果的ですよ。
2. 家庭学習は「15分×2セット」で区切る
宿題をだらだら続けるより、脳のリズムに合わせて「15分やったら5分休憩」のペースをつくってみましょう。キッチンタイマーなどで時間を「見える化」すると、お子さん自身が「あと少しで休める」と見通しを持てるようになり、集中が続きやすくなります。
「15分でここまでできたね」とがんばった過程をほめてあげると、「自分はやれる」という気持ちにもつながります。3. 「座れなかったこと」を叱らない
たとえば「授業中にふらふらしていたみたいで……」と先生から聞くと、つい「ちゃんとしなさい」と言いたくなりますよね。でも、この時期の落ち着きのなさは脳がまだ育っている途中だからこそ起きるもので、本人の「やる気がない」わけではありません。叱っても改善しにくいうえに、「学校って怖い場所なんだ」というイメージがついてしまうことも。
「今日はどんなことやったの?」と授業の中身に関心を向けてあげるほうが、子どもは「ちょっと座って聞いてみようかな」という気持ちになりやすいですよ。
「慣れる」のではなく「脳が育つ」のを待つ
45分座っていられるようになるのは、「しつけ」や「慣れ」の成果というよりも、前頭前野の成長、体幹の筋力アップ、そして学校という環境への心の適応が重なり合った結果です。
その道のりは数週間では終わらず、半年から1年、ときにはそれ以上かかることもあります。
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入学したばかりのわが子が椅子でもぞもぞしているのは、脳と体が「45分の世界」になじもうと一生懸命がんばっている最中の証拠。焦らず見守りながら、おうちを安心できる場所にしてあげること。それが、いちばんの近道になるはずです。
FAQ(よくある質問)
最後に、小学校の授業時間と子どもの集中力について保護者の方からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 入学前に「座る練習」はしておいたほうがいいですか?
A. 「45分座る練習」をわざわざする必要はありません。それよりも、絵本の読み聞かせや折り紙など、お子さんが夢中になれる活動を10〜15分楽しむ経験を増やしてあげるほうがずっと効果的です。「座ること」自体をゴールにしてしまうと、座る=つらいものというイメージがついてしまいかねません。
Q2. 1年生の途中でも授業中に立ち歩いてしまいます。発達障害の可能性はありますか?
A. 1年生の1学期に立ち歩きが見られること自体は、発達の個人差の範囲であることがほとんどです。ただ、2学期以降も頻繁に続いたり、集団での指示がなかなか届かなかったり、おうちでも学校でも落ち着きのなさが気になる場合は、かかりつけの小児科や学校のスクールカウンセラーに気軽に相談してみてください。相談することは「問題がある」ということではなく、お子さんに合った関わり方を一緒に考えてもらうための第一歩です。
Q3. 集中力を高めるために食事で気をつけることはありますか?
A. 脳のエネルギー源はブドウ糖なので、まずは朝ごはんをしっかり食べることが基本です。炭水化物(ごはんやパン)にタンパク質(卵や納豆など)を組み合わせると血糖値が安定しやすく、午前中の集中力をキープしやすくなります。特別なサプリメントや食品は必要ありません。規則正しい食事と十分な睡眠が、いちばんの集中力の土台になりますよ。
(参考)
*1 | Diamond, A. (2002)|Normal Development of Prefrontal Cortex from Birth to Young Adulthood: Cognitive Functions, Anatomy, and Biochemistry(PDF)
*2 | IntechOpen (2018)|Development Period of Prefrontal Cortex
*3 | de Sá, C. S. C., et al. (2018)|Development of postural control and maturation of sensory systems in children of different ages: A cross-sectional study
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