ランドセルの色は「好きな色」でいい!「赤=女の子」は昭和に生まれた思い込みだった
「男の子なのに赤がいいって言い張ってる」「女の子なのに黒がいいと聞かない」——ランドセル選びの季節になると、こんな戸惑いの声が聞かれます。「周りの子と違う色で大丈夫かな」「高学年になって後悔しないかな」と心配になるのも無理はありません。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。そもそも「男の子は黒、女の子は赤」というルールは、いつ、誰が決めたのでしょうか。
「男の子は黒・女の子は赤」はいつ生まれたのか
ランドセルが全国の家庭に普及したのは、戦後の高度経済成長期にあたる昭和30年代(1950年代後半 〜 60年代)のことです。このとき普及したランドセルに使われていたのは天然皮革で、革をムラなく美しく染める技術は当時まだ未熟でした。
比較的きれいに仕上げられる色が「黒」と「赤」に限られていたため、2色体制が生まれた——というのが定説のひとつです。
この2色の割り当てに、じつのところ明確な根拠はありません。
男女を一目で見分けやすくするために色分けされた、という説もありますが、いずれにせよ「製造上の都合」から生まれた慣習にすぎませんでした。
転機が訪れたのは2001年のことです。大手小売りチェーンが24色にわたるランドセルを発売したことで、カラフルなランドセルはあっという間に受け入れられていきました。現在、通学路は水色・緑・ラベンダー・キャメルなど多彩な色で溢れており、「男の子は黒、女の子は赤」という固定観念はここ20年あまりで大きく薄れています。
じつは「赤」は長い間、権力ある男性の色だった
では、昭和30年代より前の時代、「赤」はどのような色だったのでしょうか。
日本において赤(紅)が特別な色として扱われてきたのは、はるか縄文時代まで遡ります。赤は「明るい」「明ける」を語源とし、太陽や生命の象徴として人々に崇められてきました。
平安時代になると、紅花で染めた「紅色(くれない)」は、大変高価で希少なため、高位の官人にのみ着用が許された「禁色(きんじき)」とされます。
濃い紅は「最も選ばれた人のみが身に着けられる色」であり、男女を問わず権威の象徴でした。『源氏物語』では、光源氏自身が今様色(紅)を纏う姿として描かれています。鎌倉時代から戦国時代にかけては、男性的な力強さを象徴する色として赤が武士に好まれ、甲冑を赤く統一した「赤備え(あかぞなえ)」の武将が各地に登場しました。江戸時代の庶民も紅色への強い憧れを持ち続け、幕府が繰り返し「赤い着物の禁制」を設けなければならないほどの人気があったことが記録に残っています。
つまり「赤は女の子の色」になったのは、日本の歴史からみればごく最近——昭和の高度成長期のことにすぎません。ランドセルに使える色が2色しかなかったという製造上の事情が、色とジェンダーの結びつきをつくり出したのです。
子どもの色の好みは「社会から学ぶ」もの
では、なぜ子どもたちは特定の色を「自分の性別らしい色」として好むようになるのでしょうか。
発達心理学者のビグラー氏とリベン氏が提唱した「発達的集団間理論」は、そのプロセスを明確に示しています。
おもちゃ売り場でピンクと青に色分けされた商品棚を見るように、社会はいたるところでジェンダーをカラーコードによって「見える化」しています。
幼い子どもはこうした環境の手がかりに敏感に反応し、色の分類を繰り返し学習していきます。その学習が積み重なることで、色の好みにもジェンダーの枠組みが入り込んでいくのです。*1
言い換えれば、子どもの色の好みは固定された生物学的特性ではなく、育った環境から学ばれる部分が大きいのです。そもそもランドセルの色に性別のルールなどなかったことを思い出せば、不思議でもなんでもありません。
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「好きな色を一緒に選ぶ」ことの発達的意味
子どもの「好き」を尊重することには、感情に寄り添う以上の発達的な意味があります。
心理学者ライアン氏とデシ氏が提唱した「自己決定理論(SDT)」によれば、人間の健全な発達と内的動機づけのためには、「自律性(autonomy)」「有能感(competence)」「関係性(relatedness)」という3つの基本的な心理欲求を満たすことが重要です。
*2
ただし、自律性の支援は「放任」とは異なります。同理論の育児研究では、子どもの自律性を支援する親の関わり方として、「行動の理由を説明する」「子どもの気持ちや視点を受けとめる」「選択肢を提示して主体的な決定を促す」という具体的な関わりが挙げられています。*3
ランドセルを選ぶ場面でいえば、「何色でもいいよ」と丸投げするのではなく、「どうしてその色が好きなの?」と問いかけたり、候補を3色に絞って一緒に悩んだりすることが、この関わりにあたります。子どもは「自分の気持ちをちゃんと聞いてもらえた」「親と一緒に決めた」という体験を通じて、選んだランドセルへの愛着と自信を育てていきます。
「周りと違う色」への不安を手放すために
もし子どもが選んだ色に途中で飽きたり、「やっぱり違う色がよかった」と思ったりする場面が来たとしても、それは親が向き合うチャンスです。「そうか、今は違う色が好きなんだね。でも自分で選んだんだから、大切に使い続けてみよう」と話すことで、選択と責任を一緒に考えることができます。選び直せないからこそ生まれる会話があります。
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「赤は女の子の色」「黒は男の子の色」——そのルールが昭和の製造事情から生まれた偶然であり、歴史的にも根拠のないものだと知ったとき、親が感じる不安の多くは自然と軽くなるのではないでしょうか。色への固定観念を手放したぶんだけ、子どもの「好き」に向き合う余裕が生まれます。
FAQ(よくある質問)
Q. 男の子がピンクや赤のランドセルを選びたがっています。周りの目が心配です。
A. 「男の子は黒・女の子は赤」という慣習は昭和30年代に生まれたもので、歴史的に見れば赤はむしろ武将や貴族も好んだ色です。現在は多様な色が広く普及しており、ランドセルの色で周囲から浮くケースは以前より大幅に少なくなっています。「自分で選んだ」という経験が子どもの自律性を育てます。親がおおらかに受け入れる姿勢を見せることが、最大の安心感になります。
Q. 子どもが選んだ色に、6年間飽きずに使えるか心配です。
A. 6年間使い続けることを考えると心配になる気持ちは自然です。ただ、「自分で選んだもの」は愛着が持ちやすいという面もあります。途中で「やっぱり違う色がよかった」と感じたとしても、それ自体が選択と責任を学ぶ経験になります。どうしても心配な場合は、最終的に子どもが納得して選べるよう、事前にいくつかの候補を一緒に見に行くのがおすすめです。
Q. 子どもに選ばせると、あとで後悔しそうな色を選びます。どう関わればいいですか?
A. 完全に子どもだけに委ねるのではなく、「この3色の中から選ぼう」など、ある程度の選択肢を親が設けたうえで選ばせる方法が有効です。「あなたが選ぶ」という体験を残しながら、親として現実的な範囲を設けることは矛盾しません。
(参考)
*1 Current Directions in Psychological Science|Developmental Intergroup Theory: Explaining and Reducing Children’s Social Stereotyping and Prejudice
*2 American Psychological Association|Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being
*3 Canadian Psychology|A Self-Determination Theory Perspective on Parenting
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