「らしさ」ってなんだろう。親子ではじめるジェンダーの話
「男の子なんだからメソメソしない」「女の子はおしとやかにね」。子育てのなかで、こんな言葉がふと口から出て、あとで小さく引っかかったことはありませんか。あるいは、子どもが「ピンクは女の子の色でしょ」と言うのを聞いて、どう返そうか迷ったことも。
ジェンダーの話は、なんだか難しくて身構えてしまいがちです。でも、特別な知識も、完璧な正解もいりません。今日は、親子で「らしさってなんだろう」と一緒に考えはじめるための入り口をお話しします。
「男の子でしょ」がつい出てしまう理由
まず知っておきたいのは、性別で子どもを見てしまうのは、自分自身が「男の子は青、女の子は赤」といった枠組みのなかで育ってきたことが大きな理由です。その枠は、意識して身につけたものではなく、生活のなかで自然と身に付いたもの。
だから、ふとした瞬間に口に出そうになるのは、むしろ当たり前のことなのです。
そして、子どもが「男のくせに」「女なのに」と言うのも、わがままや意地悪ではありません。子どもは幼いうちに、まわりの世界から「男らしさ・女らしさ」の情報をどんどん吸収し、いったんはそれを強く信じる時期を通ります。
研究で分かっていること | 5歳から10歳までの子ども64人を毎年追跡した研究では、性別についての決めつけは5 〜 6歳ごろに一番かたくなになり、その後、7 〜 8歳にかけて考えがぐっと柔らかくなっていくことが示されました。これは一時的な発達の通過点で、早く始まった子は早くやわらぐ傾向がありました。(ヴッパータール大学、ハンス・トラウトナー博士ら)*1
つまり、子どもが口にする決めつけは、「間違った性格」ではなく「成長の途中の一場面」。そう思えると、少し肩の力が抜けませんか。叱って正そうとするより、この時期をどう一緒に過ごすかのほうが、ずっと大切なのです。
叱るのではなく、「そういう子もいるね」を足す
では、子どもが「男の子がピンクなんてヘン」と言ったとき、どうすればいいのでしょうか。ここで頭ごなしに「そんなこと言っちゃダメ」と叱ると、子どもは反発して、かえって考えを固くしてしまうことがあります。
おすすめは、否定するのではなく、選択肢をひとつ足すこと。「ピンクが好きな男の子もいるよ」「電車が大好きな女の子もいるね」と、例外をそっと差し出すだけでいいのです。
これは研究でも支持されています。
研究で分かっていること | イギリスで6 〜 10歳の子どもたちに、週1回30分ずつ4か月にわたって「ピンクが好きじゃない女の子もいる」といった性別のなかの多様性を伝える授業を行ったところ、おもちゃや職業に対する決めつけがやわらぎ、性別をこえた見方ができるようになりました。(サリー大学、ローレン・スピナー博士ら)*2
ポイントは、「みんな同じ」と教えるのではなく、「同じ性別のなかにも、いろんな子がいる」と伝えたことでした。
ポイント | 「〜はダメ」と打ち消すより、「こういう子もいるよ」と足すほうが、子どもはすんなり受け取れます。
否定されると守りに入りますが、新しい例を知ると世界が広がる。叱る言葉を、ひとつの「例の紹介」に置きかえてみてください。
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子どもの決めつけの多くは、まわりの大人の言葉や態度から学ばれます。とくに強い影響を持つのが、「これは男の子用だよ」「女の子はこっちね」といった、何気ないラベリングです。
研究で分かっていること | 就学前の子どもを対象にした研究では、おもちゃに「これは女の子用」「男の子用」というラベルをつけると、子どもはそのラベルに合わせて興味を持ったり避けたりすることが分かりました。色やラベルという外側の手がかりが、子どもの「好き・きらい」を左右していたのです。(ウィスコンシン大学スティーブンスポイント校、エリカ・ワイスグラム博士ら)*3
逆に言えば、大人が「これは男の子用」と言わずに、ただ「楽しそうなおもちゃだね」と手渡すだけで、子どもの選択肢は広がります。色や性別のラベルを外して差し出す。
それだけで、子どもは自分の「好き」で選べるようになるのです。
とはいえ、身に付いた言葉やクセは、意志の力だけではなかなか消えません。おすすめは、口に出す前に「いま自分は性別で決めようとしたな」と心のなかで実況すること。気づくだけで、次の言葉を選び直す余裕が生まれます。完璧を目指さず、気づけた回数を少しずつ増やしていければ充分です。
正解を教えなくていい。「どう思う?」で一緒に考える
ジェンダーの話でいちばん肩の荷が下りるのは、「親が正しい答えを教えなくていい」と知ることかもしれません。多様な性のあり方や、複雑な社会の話を、すべて説明できる必要はないのです。
子どもが「男どうしで結婚なんて変」と言ったら、慌てて論そうとせず、「〇〇はどう思う?」「どうしてそう思ったの?」と問いを返してみる。
答えを与えるより、一緒に考える時間そのものが、子どもの視野を広げていきます。絵本を使うのもよい方法です。いろいろな家族、いろいろな生き方が描かれた本を、ただ一緒に読むだけでいい。
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そして、子どもと一緒に考えるうちに、親自身の「らしさ」の枠も緩んでいきます。ジェンダーの学びは、子どもに教えるものというより、親子で一緒に考えていくもの。どちらが先生でもありません。
今日、親子でできるひとつのこと
今日、子どもが性別についての決めつけを口にしたら、叱る代わりに「でも、こういう子もいるよ」と例をひとつ足してみてください。
あるいは、おもちゃや服を手渡すとき、「男の子用・女の子用」という言葉を一度だけ飲み込んでみる。小さな置きかえですが、その積み重ねが、子どもの「好き」を自由にしていきます。
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「らしさ」は、いつのまにか身についているもの。だからこそ、親子で一緒に「これってほんとかな」と考える時間に、大きな意味があります。正解を教える必要はありません。叱る必要もありません。「そういう子もいるね」と、選択肢をひとつずつ足していく。その先で、子どもは性別ではなく「自分」で選べるようになっていきます。
今日のいちばん近い一歩は、決めつけの言葉に、例をひとつ足してみることです。
FAQ(よくある質問)
Q. つい「男の子でしょ」と言ってしまった日は、どうすればいいですか?
A. 自分を責めなくて大丈夫です。大切なのは、言ってしまったことより、「あ、いま性別で言ったな」と気づけること。気づいた回数が増えるほど、次の言葉を選び直せるようになります。完璧でなくて構いません。気づけた自分を、まずは認めてあげてください。
Q. 何歳ごろから、ジェンダーの話をしたらいいですか?
A. 特別に「話す時間」を設ける必要はありません。決めつけがかたくなりやすい5 〜 6歳ごろは、絵本を一緒に読んだり、「こういう子もいるね」と例を足したりする自然な会話がとくに効果的です。もっと小さい年齢でも、「男の子用・女の子用」という言葉を減らすだけで充分。日々の暮らしのなかで、少しずつで大丈夫です。
Q. 子どもの質問に、うまく答えられる自信がありません。
A. 正しく答えられなくて大丈夫です。むしろ「〇〇はどう思う?」と問いを返したり、「一緒に調べてみようか」と並んで考えたりするほうが、子どもの視野は広がります。親は答えを教える先生ではなく、一緒に考える仲間。分からないことは、分からないまま一緒に考える。それでいいのです。
(参考)
*1 Trautner, H. M., Ruble, D. N., Cyphers, L., Kirsten, B., Behrendt, R., & Hartmann, P. (2005)|Rigidity and flexibility of gender stereotypes in childhood: developmental or differential? Infant and Child Development, 14(4), 365-381.
*2 Spinner, L., Tenenbaum, H. R., Cameron, L., & Wallinheimo, A.-S. (2021)|A school-based intervention to reduce gender-stereotyping. School Psychology International, 42(4), 422-449.
*3 Weisgram, E. S., Fulcher, M., & Dinella, L. M. (2014)|Pink gives girls permission: Exploring the roles of explicit gender labels and gender-typed colors on preschool children’s toy preferences. Journal of Applied Developmental Psychology, 35(5), 401-409.
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