6歳までの育ちの違いがその後を決める? 改めて幼児教育が注目されるワケ
社会的差別になりかねないので、大きな声を上げることはできませんでした。
それから、貧困が要因で社会的な立場が分かれるなどして、さまざまな場面で差が「貧困」という言葉で説明されるようになり、客観的な事実として「格差」というものが生じてきました。特に日本はバブルの崩壊やリーマンショック、3.11などをどう克服するか考えるときに「格差問題」はどうしても認めざるを得ませんでした。そうなれば、もっと積極的に格差をどうやって解消していくか知恵を集めなければなりません。格差問題が深刻化する一方で、そうやって冷静に見つめることができるようになったのでしょう。
幼児教育に学問の光を
私はもともと小学生、中学生、高校生の学力問題を専門としていましたが、途中で幼児教育のほうに移りました。幼児の段階から教育が大事だと考えるようになった、あるきっかけがあったからです。
数十年前、学力が低い区の学校に勤める先生たちと行っていた勉強会で、興味深い調査をしてくれた先生がいました。
当時その学校の通知表は1から5までの5段階評価。そうすると、小学1年生でも1や2をつけなくてはいけない子が、必ずクラスの数%いるのだそうです。それで、そういう子どもたちが6年生になったときに3や4がどれくらいとれているかを調べてみると、その結果は、なんと0人。つまり、1年生で1や2の成績の子どもが、学校の授業による教育によって3や4のレベルに上がっていくことはほとんどないというのです。だったら、私たち教師は何をやっているんだろうと、その先生は落胆していました。
学年が上がるごとに、勉強をおもしろいと感じる子や、勉強が好きな子はどんどん伸びていきます。子どもたちのためを思ってやっていたことが、格差を広げていたのかもしれないのです。
その話を聞いたとき、根本的な部分を見つめなければならないと強く思いました。学校で教えてもらったことがまだ定着していない小学1年生ですでに学力差があるということは、生まれてからの6年間の体験の違いが、学校での学力に決定的な影響を与えているはずです。でも教育学では、0歳から5歳までの育ちを学問的に学ぶことをまったくやりません。私が大学でやっていた教育学は、“学校教育学”だったわけです。
幼児期の子どもが、まわりに愛され、心が安定する。安心して様々なことに挑むことができ、それによっていろいろな能力を身につけていける。