学歴よりも重要? 経済学者・中室牧子氏が「卒業から10年後の収入が高い」と語るスキルとは
中高生時代にリーダーシップを発揮した人は、卒業から10年後の収入が高い
そもそも非認知能力とはどういうものなのでしょう? 中室氏は、「学力テストやIQテストではかることができない能力で、コミュニケーション能力や勤勉性、誠実さ、チャレンジする力などを全部含めて、非認知能力だ」と話します。それらがもたらしたリーダーシップが将来の収入に影響を与える、という日本や海外の研究結果も出ているのだそう。
「リーダーシップとは、天賦の才能ではなくスキル」だと中室氏。「リーダーシップを発揮する機会を子どもに与えるにはどうすればよいのか」という藤野氏の質問に対し、中室氏はアメリカで行われた研究を挙げました。その研究によると、中高生時代に(さまざまな形で)リーダーシップを発揮したと答えた人や、実際に役職に就いた人が、卒業してから10年後の収入が高くなっていることも判明しているのだとか。たとえば、学生時代に生徒会の会長、部活の部長などで身につけた経験などがそれにあたります。社会に出て管理職やマネージャー、社長など、リーダー職に就いたときに高い生産性や高い地位を獲得することにつながるのだそうです。
しかし、組織のなかで全員がリーダーになることは現実的に難しいでしょう。
リーダーではないけれど、リーダーの行動を考えてフォローすることにより、チームをまとめるために協力する人(=フォロワーシップ)も重要だと中室氏。リーダーシップもフォロワーシップもとれる人を企業の中でランダムに配置したところ、そのような人が入ったチームは部署全体で生産性が上がることも研究によってわかったのだと語ります。「チームで働くときにコミュニケーションを円滑にしたり、意欲を高めたり協調したり、議論をまとめあげていく。そういったチームプレーヤースキルの高い人を企業は雇用したがる」とも明かしました。
音楽や美術などが非認知能力の育成に好影響
将来に大きく影響する非認知能力は、どのように伸ばしたらいいのでしょうか。認知能力に必要な学力は塾などで勉強することで伸ばすことができますが、非認知能力はそうとはいきません。また、勉強は個人プレー。チームで何かをする経験はテストや受験勉強ではなかなか得られません。
アメリカで有名になった研究に「GRIT(グリット:困難に負けず、目標をやり抜く力)」があります。企業の社長やオリンピックに出場したアスリートなどが共通して身につけているという研究が出ており、「(GRITを)どのように身につけたのか私たち研究者も関心を持っている」と中室氏は話し、確たるものはこれから少しずつ明らかになっていくのかもしれません。
幼少期からピアノを習っていたという藤野氏
中室氏の「自身の経験で、これが非認知能力を育む機会だったと思うことはあるか」との質問に対し、藤野氏は「子どもの頃からピアノを習い、将棋をしていた。これらが結果的に自分の非認知能力にプラスに働いたと今では思う」と回答。「音楽は、楽譜を見て指を動かして耳で聞いて、リズムをとっていかないといけない。言語以外の部分を総合的に使わないといけない、という経験が長期に(非認知能力の育成に)効いてきたんじゃないかと思う」とも語りました。
藤野氏の経験を聞いた中室氏は「就学期に音楽をやっていた人は認知能力にも非認知能力にもいい影響があるというドイツの研究がある」と紹介。「音楽は意思決定の連続。
それによって認知能力が鍛えられるという面もあるし、継続して練習するという経験も得られる。一方で、先生の話を吸収して活かしていかないといけない」と、さまざまな利点があるのだそうです。
また、美術においては海外の研究があり、「新しい美術館が作られたときに、美術館に通えるチケットをランダムに近所の小学生に配った。通った子と来られなかった子を追跡してみると、小さいときに継続して美術館に通っていた子のほうが、非認知能力が高いという研究が出ている」と明かします。親は受験に必要な5教科を重視する人が多く、音楽や美術は「副教科でしょ」と思う人が多いですが、中室氏は「音楽や美術はめちゃくちゃ大事な教育活動だと思う」と断言しました。
認知能力が人生のうちに功を奏しているのは比較的早い段階ですが、非認知能力は人生の後半になるほど大事だという研究もあるのだとか。「40~60代にかけて非認知能力が賃金に与える効果が大きくなっているという研究がある」と中室氏。非認知能力は長期に効く力なのだそうです。
第一志望校でのビリと第二志望校でのトップは、どちらがいいか?
続いては少しテーマを変え、「第一志望校のでビリと第二志望校でのトップは、どちらがいいか?」という問題について。「ほとんどの人は第一志望に滑り込んでほしいと思っているけど、必ずしもそれがいい結果になるわけではない」と中室氏。第一志望校で成績最下位よりも第二志望校でトップになるほうが良い結果になるということを示す研究があり、考えられる効果には「自分に自信がつくことによる効果」と「周りから優秀だと思われることによる効果」があるが、中室氏は前者だと断言。「周囲の人は思っているほど(最下位の人とトップの人とで)態度を変えていない。先生は1位でも最下位でも対応を変えることはないし、親は最下位ほどお金を投資する」と話し、「子ども本人が自分のことをどう考えるか」が大事だと明言します。また、自分と人と比べない物差しを持つことも大切だと明かし、話を締めくくりました。
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(マイナビ子育て編集部)