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コーチに隠れて仲間が「キモい」と言ってくる問題

サカイク
息子が2人のチームメイトから暴言を吐かれている。「きもい」「おまえは消えろ」とコーチがいない時に言ってくる子たち。「言い返せ」と言っているが相手は口が達者で「口では勝てない」とのこと。

中学に行っても同じチームなので同じようなことが続くのでは、という心配ともう6年生なので自分で解決しないといけない年齢だなぁという感情で揺れているお母さんからご相談をいただきました。

皆さんならお子さんがそのような状況にあったらどうされますか?

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験に基づいたアドバイスを送りますので参考にして下さい。(文:島沢優子)

コーチに隠れて仲間が「キモい」と言ってくる問題

(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

<<人手不足で3学年一緒の活動に。チーム混乱の少年団をやめるべきか問題

<サッカーママからのご相談>

はじめまして。
今、悩んでいる事があり相談させてください。


息子が2人のチームメイトから暴言を吐かれています。

チームメイトはコーチが近くにいる時は至って普通に、楽しく過ごしているのですが、コーチがいない時に「お前は消えろ」「きもい」など、急に言ってくるようです。

私が息子に「ちゃんと言い返してるの?」と聞くと、息子なりに言い返しているようですが、その子たちは口が達者らしく「なかなか口では勝てない」と言っています。

チクリだ、とか言われるのが嫌なので息子からコーチに言う選択肢はないようです。

私がコーチに相談しようかな?とも思ったのですが、もう6年生なので、自分でどうにかしないといけないよなぁ、とも思っています。

ほかのチームメイトとは仲良く楽しくしていて特定の2人だけがいつもコーチがいなくなると文句を言ってくるようです。

その子たちは中学に行っても同じチームなので今後も同じような事が続くのでは、とすごく悩んでいます。

親としてどうすればいいでしょうか?「言い返せ」だけでなく具体的な方法をレクチャーできればいいのでしょうが、どんなことをすればいいのか、何を助言すればいいのかなどがわからなくて......。


アドバイスいただけませんでしょうか。

<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。

いただいたご相談の文章だけでは、実際どの程度息子さんが傷ついているか、困っているかという窮状は正確に把握できません。よって、こちらの推測でお答えするという前提でご理解くださいね。

■親の前ではいい子なのに......という子はいる


お母さんの悩みはよくわかります。私も似た経験をしました。

息子が小学3年生。サッカーではありませんが、わが家で同級生とカードゲームをして遊んでいました。
最初は楽しそうにやっていましたが、同級生が突然声を荒らげ「おまえ、バカか」と息子をなじり始めました。「脳みそない」「もう遊ばない」と暴言が続きます。息子は黙って下を向いていました。

二人は2階のリビングで、私は吹き抜けになっている3階の仕事場にいました。

「どうしたの?」

私が声をかけたら、息子をなじっていた同級生は本当にびっくりした顔でこちらを見上げました。私が仕事場にいたことに気づいていなかった。だから、息子に暴言を吐いていたわけです。いつもはとてもいい子で、お母さんは非常に教育熱心。
早くから大手の塾に通い、遊んでいて「早く帰ってきなさい」と電話があると、息子さんは血相を変えて帰っていきました。

彼が帰宅した後、息子に気持ちを聴いたら「少し悲しいけど、別に大丈夫。いつもあんなふうになるわけじゃないから」と言いました。

私は息子を抱きしめて「そうか。じゃあ、嫌なことがあったときは言ってね。力になるよ」と伝えました。

■お母さんに捧げる3つのアドバイス


そこで本題。お母さんには三つアドバイスがあります。


まず、チームメートからの「消えろ」「キモい」は、ある意味「いじめ行為」です。みんなでふざけているなかで、「おまえ、もー、消えろよお~」とか「キモいんだよ~」とげらげら笑い合っている、という状況ではありませんよね?

であれば、息子さんが暴言を吐かれていることを最初に知ったときの対応。つまり、お母さんの初期対応(初動)は、お子さんのこころに寄り添うことが必要です。

「そうなの?それはつらかったね。どんなときに言われたの?どんな気持ちだった?」

そのように尋ねて、彼の怒りや辛さ、もしかしたら上手く言い返せなかった自分への情けなさなどさまざまな感情を吐き出させてあげること。今からでも遅くないので、まずは息子さんの辛さに共感してあげてください。

「ちゃんと言い返してるの?」は、非常に抽象的です。消えろとか死ねなどと言われたら、同じように消えろ、死ねと言え、ということではありませんよね?おそらくお母さんの「言い返す」は、「そういうの、やめてよ」とか「言わないでよ」というものかと思います。
そのあたりが「ちゃんと言い返して」では伝わっていないかもしれません。

息子さんなりに、暴言を無視するとか、「やめろよ!」と忽然と向かって行けたらいいのですが、それができる子をいじめっ子たちは標的にはしません。息子さんはきっと優しいお子さんなのでしょう。

■お母さんに捧げる3つのアドバイス


ふたつめ。

「チクリだ、とか言われるのが嫌なので息子からコーチに言う選択肢はないようです」とあります。お子さんがそのように話したのなら、そこでお母さんから息子さんに人生において大切なことを伝える良い機会です。

「いじめられていることを大人や周囲の人に伝えるのは、チクリではないよ」

=これは正義のとらえかた。

「自分でやめてほしいと言ってもやめないのなら、どうしたらやめてくれるか、お母さんと一緒に考えない?コーチに相談するのはひとつの選択肢だよ」

=こちらは課題解決能力。


「あなたが我慢していても、ほかの子も言われて嫌な思いをしているかもしれない。そうすると、ストップがかからないね。誰かが勇気を出して解決したほうがいいと思うよ」
=「同調圧力」のマイナス面を教える

丁寧に問いかけて、息子さんの意見を聴きながらそんなことを話してください。暴言を吐かれたことはお子さんにとって辛い出来事ですが、お母さんはそこに共感しながらも子どもとは違う視点で物事を見るようにしましょう。

例えば、お子さんに「消えろ」「キモい」と言ってしまう二人のお子さんは、どんな家庭で育っていますか?いじめる子は寂しかったり、親御さんから管理されていたり、過度に干渉されていたり、要求が高かったりと、重いストレスを背負ってるケースがほとんどです。問題が起きるときは、必ずそこに背景があります。ぜひ大人として、起きた事象を俯瞰で見る習慣をつけてください。

理想は「社会で子どもを育てる」という視点を持てるといいですね。息子さんに「あの二人はこうだから」などと悪口を言うのではなく、そこはスルーしてご自分の胸にしまったうえで、彼らを攻撃するのではなく、この問題を息子さんが自分の力でどう解決できるかを一緒に考えてあげてください。

■親は子どものけんかしゃしゃり出ないこと

コーチに隠れて仲間が「キモい」と言ってくる問題

(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

三つめは、子どものけんかに親がしゃしゃり出ないこと。

「私がコーチに相談しようかな?とも思ったのですが、もう6年生なので、自分でどうにかしないといけないよなぁ、とも思っています」は、その通りです。ただ、6年生だから、ではなく、何年生でも自分でなんとかしてもらいましょう。

息子さんがコーチに相談したと報告してきたら、それを受けて、お母さんからコーチに息子の相談を聴いてもらったお礼かたがた家での様子などを報告する。その後の息子さんやチームメートの様子もそのときに尋ねればよいかと思います。

「親としてどうすればいいでしょうか?言い返せだけでなく具体的な方法をレクチャーできればいいのでしょうが、何を助言すればいいのか」とあります。

が、ここまで三つのアドバイスを読んでもうお気づきですよね。

親の役目は「言わなきゃ、より、聴かなきゃ」です。

そういえば、息子は暴言を吐いた子とはずっと仲良しです。大学生になって、道で会うとその子は私にもあふれる笑顔で挨拶をしてくれます。

コーチに隠れて仲間が「キモい」と言ってくる問題
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。

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