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同学年でもレベル差があってデコボコ。チームの底上げを図る練習メニューはある?

サカイク
身長差やサッカーの理解度の差があって同じ学年でもレベル差が大きい中学年の指導に悩むコーチから、チームの底上げを図れるトレーニングメニューなどはある?とご相談をいただきました。

池上さんは、これまで見てきた中で欧州の子どもはそれほどレベル差がついてないといいます。その原因は、日本とは真逆の「指導の順番」なのだそうです。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、チームの底上げを図ってください。(取材・文:島沢優子)

同学年でもレベル差があってデコボコ。チームの底上げを図る練習メニューはある?
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

<<U-10でどこまで守備戦術を教えて良いもの?指導のコツがあったら教えて

<お父さんコーチからの質問>

いつも連載拝読しています。

私は少年団でU-10 、U-12の指導をしている者です。

先日別の記事で、小学校中学年ぐらいは一番デコボコしているとありましたが、まさしく私のチームも同じ状況なので、指導面でのアドバイスが欲しくご相談させていただきました。


体の成長速度は個々の成長速度があるので何ともし難いですが、この学年へのトレーニングメニューで、チームの底上げを図れるものであったり、もしくは練習や試合でのチーム分けの工夫などがあれば教えてください。

<池上さんのアドバイス>

ご相談、ありがとうございます。

日本の子どもたちはなぜ、そんなにデコボコが目立つのか。それは、小学校中学年くらいだと、体の大きさや運能能力の違い、サッカーへの理解度の違いがあるから仕方がない――私たち指導者はそんなふうに考えてきました。

■欧州の子どもたちは日本ほど同年代でのレベル差がない


ところが、スペインなど欧州の子どもはそこまでデコボコではありません。

よく見ていると、欧州の子どもたちは、相手とぶつからないようにプレーします。日本のように「相手に押し負けるな」とか「コンタクトで負けるな」などという声はコーチから一切出てきません。

なぜなら、幼稚園児くらいのころから「どこでボールをもらうといいかな?」とコーチらに導いてもらえるので、相手から離れてボールを受けることが身についています。
日本の子どものようにボールを奪いに来る相手を体で押さえてコントロールするのではなく、フリーな状況でパスを受けます。

そして、そのことを学んで身に着けるためのトレーニングを、幼稚園児のころからたくさん積むのです。その際、守備をする側は、攻撃をしてくる相手のパスカットを狙います。相手に体をぶつけるようにして足元のボールをガシガシと奪いにきません。つまり、トレーニング全体に、ボディーコンタクトがないのです。

それはなぜでしょう。

ひとことで言うと、育成する「順番」が日本と違うからです。

「認知→判断→行動(プレー)」
欧州の子たちは、この順番で育てられます。
例えば、3~6歳、もしくは小学校低学年までの間に、まず「認知する力を」養います。自分がボール保持者だとしたら、味方がどこにいるか認知します。

例えば、2対1の状況で、自分がドリブルでゴールに向かったほうが点が取れるのか、味方にパスしたほうが得点の可能性が高いのか。そのとき、守備をする相手選手の位置によって、いつパスをしたほうがいいのか。それが認知する力です。

どこが空いてる?誰がチャンス?――そういうことを彼らは10歳くらいまでに見極められるようになります。見極められるようになったら、判断してプレーします。相手選手がパスをしたい味方との間に立っているから、ドリブルでボール1個分ずらしてからパスを通す。
自分で縦に突破すると見せかけて、相手が自分に近づいた瞬間、相手をあざ笑いようにスルーパスを通す。そういった判断ができるようになります。

この1.認知、2.判断ができるようになったら、最後の3.行動(プレー)の指導に入ります。プレーはつまりはスキル、技術です。それは「今の判断は良かったね。あとはコントロールを磨いていこう」というような声掛けです。トラップをミスしたり、パスがそれたりして正確にできなかったとしても、しっかり認知をし、タイミングよく判断ができているのだから、あとは技術を磨けば済むことです。

■日本の子どもたちにレベル差が生まれてしまう理由


ところが、日本の子どもたちは、これを逆にした順番で指導されています。
1.行動、2.判断、3.認知で教えられているのです。

サッカーボールに出会ったら、まずインサイドキックを教えます。コーンドリブルをします。リフティングもですね。かなり長い時間、クローズドスキルに割かれています。それらをやってから、小学校中学年くらいになってから、コーチにこう言われたりします。

「ただ蹴るだけじゃだめだ」
「まわりをよくみて」
「スペースを探せ」
「ボールをもらえる位置にいないから、いつまでたってももらえないでしょ?」

そこで子どもたちは非常に混乱します。そこで格差、つまりデコボコも出てきます。
日本のトレーニングは、本来は最後に指導したほうがいい「行動」、技術練習から始めているので、なかなかうまくいかない。ジュニアの世界大会で日本の子どもたちが優勝して「日本の子どもは足元の技術がうまいですね」と欧州のコーチに褒められます。

足元の技術から始めているので、うまいのは当然です。ただし、そのあとはどうでしょうか?ユース年代、成人してからと、上に行くほど世界との差が開いていないでしょうか。

私の大学の先輩である祖母井秀隆さんは1970年代、すでに「見て、考えて、判断して、プレーする」という段階を踏んで指導すべきだ、とおっしゃっていました。脳科学的にもそれが正しいのだとおっしゃって、私も納得出来ました。それから40年以上経過しましたが、日本はいまだ指導の順番は逆行したままです。

■認知、判断力をつける練習メニュー

同学年でもレベル差があってデコボコ。チームの底上げを図る練習メニューはある?

(写真は少年サッカーのイメージです。
ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

ご相談者様は、ぜひ前述した三つの順番を意識した練習に変えましょう。具体的には、ミニゲームや2対1といったオープンスキルのメニューをたくさん行って、子どもたちの認知・判断の力を鍛えてあげてください。ぶつかれ、負けるな、などと言ってはいけません。スピードやパワーを求めず、ゆったりとした状態でサッカーの成り立ちを伝えてください。

「どこを見てた?」「どうしたらいい?」と子どもたちに質問して、考えさせるのです。認知・判断力はそうやって試行錯誤しながら自分で獲得するものです。

同学年でもレベル差があってデコボコ。チームの底上げを図る練習メニューはある?


池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。

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