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ボールを蹴るのは上手いけど、手で投げたりキャッチが苦手な子が多い。全身をうまく使えるようになる方法を教えて

サカイク
全体的に足元の技術は高いけど、勝負のタイミングでバックパスを選択したり、確実に勝てそうなポイントでしか仕掛けない。「判断力」を養うにはどうすればいいの?というご質問をいただきました。

池上さんは、前回の内容でお伝えした、日本での指導の順番が海外とは逆で細かな基本技術から入る事による日本サッカーの課題に通ずると言います。

子ども達に判断を伴うプレーを身につけさせるためにはどうすればいいか、スペイン・ビジャレアルFCの育成組織で指導されている日本人コーチのお話なども交えてご紹介します。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが送るアドバイスを参考にして、子ども達の判断力を養う指導を実践してみてください。

(取材・文島沢優子)

ボールを蹴るのは上手いけど、手で投げたりキャッチが苦手な子が多い。全身をうまく使えるようになる方法を教えて
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

<<足元の技術はあるけど勝負のタイミングで判断できない。判断力をつけるためには何をすればいい?

<お父さんコーチからの質問>

私は街クラブで小1~小4を指導しています。


年代により伸びやすい能力があると聞きましたが、今指導している年代で伸びる能力と、おすすめのトレーニングメニューを教えていただけませんか。

また、兄弟の影響などで未就学児からサッカーをしている子も何人かいて、足でボールを扱う技術はあると思うのですが、手でボールを投げたりキャッチするような動きは得意でなかったりします。

サッカーの技術だけでなく、ほかの運動や遊び経験から得られる動き、身体を自在に動かせることなども大事だと思うのですが、楽しんでできるメニューなどもあればお聞きしたいです。

<池上さんのアドバイス>

ご相談、ありがとうございます。

サッカー少年で、ボールをうまく投げられない子どもが多いという話はよく聞きます。この連載でも、昨年2月に掲載された「ボールが投げられない、腰より高いボールが怖い子どもたちが飽きずにできる動きを教えて」という記事で、類似した相談を受けています。

そのときにも紹介していますが、練習の中に「バルシューレ」を取り入れることを勧めています。

■サッカーの要素もたくさん含まれる「バルシューレ」


「バルシューレ」とは直訳すると「ボールスクール」(Ball school)。
ボールゲーム教室という意味ですが、実際は子どものための運動プログラムのことです。ドイツのハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。

ほとんどが試合形式なので、子どもたちは楽しく入っていけます。野球のボールからバランスボールまで、大小さまざまなボールを扱います。

私もバルシューレのテキストを持っていて、そこから選んだメニューでトレーニングの導入部分などに活用しています。

子どものボールゲーム導入プログラム
(特定非営利活動法人・バルシューレジャパンのページにリンクします)

また、バルシューレには、サッカーの要素がたくさん含まれます。例えば、ネット越しでボールを使ったパス交換をした後は、それを「足でやってみよう」という展開になったりします。
ボールを相手の体に当てる鬼ごっこもあります。
手で当てるときは、当たっても痛くないよう風船を使います。それを足でもやります。いわゆる発展形ですね。そのように発展させるのは、手も足も使うことで身体の機能がバランス良く高めるためでしょう。

■身体をイメージ通りに動かすことができれば全体的なプレーの質もアップ


身体の神経系は小さなときからどんどん鍛えられます。どんなスポーツも、自分が思った通りに動けるよう、バランスよく体の機能を向上させなくてはいけません。これが「コーディネーション」です。

自分の体をイメージ通りに動かすことができれば、スキルはもちろん全体的なプレーの質もアップします。
そこから、もっと素早く動く、もっと高く跳ぶ、もっと強く蹴るといったことができるようになるのです。

さらにいえば、バルシューレがいいのは、遊び感覚でやっているあいだにいろいろな能力が身につく点です。そして、それはあくまでも手取り足取り教えられてやるものではなく、基本的に「自己学習」です。

例えば、手でボールを「投げる」という動作は、子どもが自由にどんどん投げていくことで、自分でいろんな動きを獲得していきます。遊びの中で、どんどん投げていると、勝手にフォームが良くなると言います。

教えられたわけでもないのに、なぜそうなるかは、研究の結果でも明らかになっています。つまり、根拠があるわけです。

■サッカーは「どう蹴るか」が目的ではない


一方で、指導者の皆さんの多くは、練習メニューが気になるようです。
練習メニューや練習のやり方を一生懸命学ばれています。「基礎基本」をとても大事にします。ですが、サッカーは「どう蹴るか」が目的ではなく、どんなタイミングでどんなボールを蹴ってチャンスにするかが重要です。蹴り方は自由でいい。そこから少しずつ選手自身が修正していくものだと考えます。

もっと自由な発想をしていきましょう。バルシューレにも、そんな自由な要素がちりばめられています。サッカーのメニューばかりを追い求めずに、バルシューレの成り立ちを学んでみましょう。


ご相談者様が「子どもが手を使えない」ことに注目してくださったことは、素晴らしいと感じます。キーパー以外は足でプレー出来れば十分だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、前述したように、全身のコーディネーションという側面から考えると、バルシューレを活用して投げる動作をたくさんやることはサッカーの上達にもつながります。

■最近推奨されている「ダブルスポーツ」とは

ボールを蹴るのは上手いけど、手で投げたりキャッチが苦手な子が多い。全身をうまく使えるようになる方法を教えて

(写真はサカイクキャンプ。お互いにボールを投げ、キャッチする練習)

もっといえば、サッカーの上達しか考えられないのは、もったいないと思います。スポーツする意味は、スポーツによって人生を豊かにできるからです。サッカーならサッカーばかり。野球なら野球だけしかしない。
そんな子が日本では目立ちますが、いまは「ダブルスポーツ」といって、シーズナブルに複数のスポーツをすることが奨励されています。

ひとつの種目だけしているとほかのことができないのは、あまり幸せではありません。Jリーグのジュニアユースチームのなかには、家族旅行をしたことがない選手や、海水浴に行ったことがない子どもがいっぱいいました。つまり、サッカー漬けなのです。

それでは、その人のスポーツ人生は豊かとはいえません。サッカーの練習のみではなく、今日はバルシューレ、週末はチームでハイキングに行く、そんな将来だと、とても豊かになりますね。

ボールを蹴るのは上手いけど、手で投げたりキャッチが苦手な子が多い。全身をうまく使えるようになる方法を教えて


池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。

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