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努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題

サカイク
エースと呼ばれ、ほかのチームからも恐れられていたのに、強豪選手が集まるスクール、チームに入ったら下位クラスに。努力して上位クラスに上がっては落とされ......を繰り返すうちに、意欲より落とされる不安が大きくなっている。

サッカーに前向きに取り組んでいるようにも見えないのに、「試合のメンバー入りしたい。できると思う」と自己評価が高い。現実を見つめられないわが子をどうサポートすればいいかわからない、とご相談いただきました。

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。
(文:島沢優子)

努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題

(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

<<飛び級で試合に出る息子が良く思われないのがつらいです問題

<サッカーママからのご相談>

悔しいのか、勝ち上がりたいのか、全くわからない息子にどう接していいのかわかりません。

現在8歳の息子は幼稚園からサッカーを始め、スクール、チームではエースと言われ、相手チームからも恐れられていました。


人よりも早くサッカーを始めたってだけだと思いますが、本人は自信も持ち、前向きに練習するなど楽しんで取り組んでいました。

近隣の強豪選手があつまるスクールに通い、強豪チームにも入ったのですが、もちろん上には上の選手がいて、メンバー落ち、クラス分けでは下位クラスになりました。

そこから半年かけ努力をして上位クラスまで這いあがりましたが、また落とされ......。

それを繰り返しているうちに、だんだん本人の中に、なんとしてもメンバー入りしたいという気持ちよりも「また落ちるかも......」という不安のほうが先に来てしまっているようで、サッカーに前向きに取り組んでいるように思えません。

しかし、話を聞くと、『なんとしてもメンバー入りしたい!入れると思う』と答えるのです。

どこからその自信が生まれるのか、自己採点がとても高いのです。

現実をうまく見つめることができてないのかなぁと思っているのですが、本人をどのようにサポートしていけばいいのかわかりません。

自己採点が高いが、努力はしていない、でも、メンバーに入れると思っている。
こういう感情にどのように対応してあげればいいのでしょうか?

<島沢さんのアドバイス>

ご相談のメールありがとうございます。

8歳といえば小学2年生か3年生。まだお母さんの膝の上に乗ってきたりと可愛い時期ですね。コロナ禍での子育てはさまざま大変だと想像しますが、二度と戻ってこない日々を抱きしめるように過ごしてほしいものです。

息子さんについて、お母さんは「自己採点が高いが、努力はしていない」とあります。努力しないのに根拠のない自信があるということですね。恐らくこの記事をタイトルだけ見た読者の多くが「こういう子、いるなあ」とほほ笑んでしまうことでしょう。

■その年代は楽しむのが一番、努力を強いるのはやめましょう


私の息子も小学校低学年のころは、ミスをしたり試合に負けると「おれ、まだ本気出してないだけだから」と言い訳がましく訴えていました。
それを私たち親は「はい、はい。いつか本気のプレー、見せてね」と笑って見ていました。特段自主練などしないし、練習でもおしゃべりばかりしてコーチに叱られていましたが、私たちはまったく気になりませんでした。なぜなら彼は子どもだからです。そもそも、それが子どもらしい姿なのです。

お母さん、少年サッカーは「大人のサッカー」とは違います。大人のように11人制だったり、ヘディングをガンガンやらせないのと同じように、サッカーをする目的が異なります。とにかく楽しく、ご機嫌でサッカーライフを送ることが重要です。


特に低学年はサッカーの入り口なので、サッカーを大好きになることを一番の目的にしてほしい。それは日本サッカー協会の四種(ジュニアカテゴリー)の育成目標に掲げられていることです。お子さんが常に上位クラスにいることや、たゆまぬ努力を続けることを強いるのはやめたほうがいいでしょう。

取り組みの程度云々を、第三者(お母さん)が「努力していない」とジャッジしてしまうと、子どもにとってスポーツが苦しいものになります。親から、もっと努力しろ、もっと上を目指せと命じられたことがもとで、こころが折れ、燃え尽きてしまった子どもを何人も見てきました。

■「こんなに心配しているのに」という思考になっていませんか


文章でのご相談なので、すべて把握したうえではないのですが、変わるべきは息子さんではなくお母さんのほうだと考えます。半年かけて努力をして上位クラスまで這いあがったけれど、また落とされた。いつ落とされるかわからない不安のほうが先に来てしまっている、とありますが、その不安を息子さん以上に強く感じているのはお母さんのほうかもしれません。


親が自分のことで不安を抱えていると、子どもは「心配ばかりされるダメな僕」という心理状態になり自己肯定感がどんどん下がります。お母さんたちは「親が子どもを心配するのは当たり前」「心配していることで愛情が伝わる」とおっしゃいますが、それは親御さん自身の感情や思考を「軸」にした考え方です。

母子の関係を見直してみると、「私がこんなに心配しているのに」「私がこんなに熱心にサッカーのことをサポートしているのに」、頑張らないのは「ダメな息子」という思考になっていないでしょうか。

■ポジティブな声かけに変えましょう


そこで、私から三つアドバイスをさせてください。

ひとつめ。

息子さんへの声かけを、ポジティブなものに変えましょう。

ご相談文に、「話を聞くと、『なんとしてもメンバー入りしたい!入れると思う』と答える」とあります。なんとしてもメンバーに入りたいという、努力を誓うような言葉が出てくるのですから、お母さんは「本気でサッカーやってる?」とか「本当にやる気あるの?」などと尋ねていないでしょうか?

このように取り組みの姿勢を問う質問は、もっともっと大きくなって中学生や高校生になって、自分の意思でサッカーをやると決めたのに練習をさぼったとか、練習はないと嘘をついたといったときに、コーチが詰問する言葉です。


ネガティブな声掛けではなく「今日もサッカー楽しかった?」とか「サッカー大好きなんだね。そういう姿見ているとお母さんも嬉しいよ」といった声掛けをしてください。

■まだ8歳、きちんと「子どもとして」扱うこと


ふたつめ。

息子さんはたった8歳です。大人ではないのですから、「子どもとして」扱いましょう。

ご相談文を読む限り、前向きに取り組んでいない、努力していない、現実をうまく見つめることができていないと、相手が大人であるかのような言葉が並びます。すでに触れましたが、大人のサッカーとは違います。

その時々でお母さんは主観的な評価をせず、楽しんでやっているプロセスを眺める姿勢を持ちましょう。

■クラス分けする強豪チームは本当に合っている?

努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題

(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

三つめ。クラス分けする強豪チームがお子さんに合っているのかどうか、そこでサッカーをして楽しめるのかどうか。そこを主題に、今一度息子さんと話し合ってはいかがでしょうか。

ご相談文を読む限り、息子さんはサッカーそのものを楽しむのではなく、上位クラスに行くという競争社会のもと、非常に切迫した空気のなかでサッカーをしているように見えます。常にクラス分けの恐怖を感じながらサッカーをしていて、サッカー自体を果たして楽しめているでしょうか。

彼が「できる」と言ってお母さんに見せる自信は、実はお母さんに見捨てられないために懸命に虚勢を張っているようにも見えます。

子どもは本当にサッカーを好きになって、自分から上手くなりたい!と心底思えば取り組みは自然に変わることでしょう。

努力しないのに根拠のない自信だけはある息子に手を焼いてます問題
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。

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