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真面目過ぎてサッカーが苦行になっている息子にどう寄り添えばいいか問題

サカイク
とにかく真面目で一生懸命な息子。黙々と自主練もやるけどどんどん周りに抜かれレギュラー落ち。コーチからは積極性や自由なプレーが見られず試合で使えないと指摘をもらって、自分を変えようと練習を重ねるが、もがくほど硬いプレーが目立つ。

大好きだったはずのサッカーがまるで修行のよう。こんなとき、親はどうすればいい?とのご相談をいただきました。

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、15年以上の取材で得た知見をもとに2つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)

真面目過ぎてサッカーが苦行になっている息子にどう寄り添えばいいか問題

(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

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<サッカーママからのご相談>

4月から6年生の息子は1年生からサッカーを習っています。
とにかく真面目で一生懸命で、Aチームに残るため黙々と自主練も続けています。

ところが6年生を目の前にして、周りに抜かれていき、一気にレギュラーから落ちていきました。試合のスタメンに出られることはまず無くなり、カップ戦など順位のつく試合は、3試合中1試合のハーフ出られれば良い方です。

コーチからは、基礎は本当にしっかりできていて、自主練が生きたものになっている、でも積極性が少なくプレイの自由さが見られず、試合では使えないと指摘されています。

5年生の夏前から少しずつレギュラーから外されていきました。本人は自分を変えようと必死に練習を重ねて研究を重ねています。親が、少し休んではどうか?と指摘するほど、練習にのめり込んでいますが、それと同時に息子から笑顔が消えました。

練習も試合も必ず行きます、自分から必死に変わろうとしているのも、見て良く分かります。


それでも、もがけばもがくほど、硬いプレイが目立ち、どんどんレギュラーは遠のいています。試合が終わった後は、今日も出来なかったと、後部座席で静かに涙をこぼします。

目標にしていたトレセンへの推薦も叶わず、落ち込んでいます。 大好きなはずのサッカーに行き、笑顔をなくしていく息子。

親として、どう関わっていくのが良いのでしょうか。見ていると、サッカーは楽しむものではなく修行のようです。

<島沢さんのアドバイス>
ご相談のメールをいただきありがとうございます。

真面目に取り組む息子さんを心配されるお気持ち、お察しします。
不真面目では困るけれど、わずか11歳か12歳でここまでもがき苦しんでいる姿を見るのはお辛いですね。

■「好きでたまらない」がエネルギーの源泉になる


さて、お母さんは米メジャーリーグの大谷翔平選手をご存知でしょうか。ロサンゼルス・エンゼルスの先発投手として4月26日(日本時間27日)に二刀流出場し、投げては5回9奪三振4失点の投球内容で3年ぶりの白星を挙げ、打っては2安打2打点と大活躍しました。

彼をよく知る人と最近お会いしたのですが、こう話されていました。

「大谷君が二刀流をやるのは、そのことがすごいことだから挑戦している、というわけではない。投げるのも、打つのもどちらも大好きなんですよ」

大谷選手は肘や膝の手術をしていますが、シーズン途中で手術することを即決したと聞きました。私と話した方によると「無理してプレーしても楽しくないからでしょうね。無理してでも結果を残すなどといった考え方は彼の中にないんだと思いますよ」とおっしゃっていました。


ちょっとした雑談のなかの話ですが、私は非常に印象に残りました。

アメリカ人を熱狂させている、二刀流スーパースターの原動力は「大好き」という気持ちなのです。

大谷選手のように、自分がやっているスポーツが好きでたまらないという気持ちが自分のエネルギーの源泉だと語るアスリートは実は多いです。特に一流のプロフェッショナルに多いと感じています。

■サッカーに打ち込む目標を「全試合出場」ではなく、「楽しくやる」に変えよう


大谷選手のような超一流でもそうなのですから、息子さんにもぜひ「サッカーが大好き」「サッカーが楽しい」という気持ちを持ってほしい。小学生時代の楽しかった思い出や、面白くていつまでもボールを蹴っていた時間が、中学、高校と進むなかで息子さんを支える力になる。それは、息子さんが「なぜこんなに一生懸命にサッカーをやるか」の大きなモチベーション。つまり、内発的動機付けになります。


そう考えると、息子さんがサッカーをする一番の目標を「楽しくやる」にしなくてはいけません。ところが息子さんは違うようです。例えば「すべての試合に先発で出場する」「トレセンへの推薦を受ける」が彼の目標だったようです。そして、そこが叶わないため、大きな焦燥感を抱えてサッカーをしています。

こういった状況では、コーチが指摘するような「積極性のある自由なプレー」などできるはずもありません。

■真面目は長所。今は「楽しい」「大好き」な気持ちを植え付けることを心がけて


そこで、お母さんにアドバイスを二つお伝えします。

ひとつめ。息子さんがコーチが指摘することをあまり真正面から受け止めず、楽な気持ちでプレーできるよう考えてあげてください。
例えば「プレーが硬い」とか「創造性がない」みたいなことは言わないであげてください(すでに言ってはいないと思いますが)。

算数や国語のテストではそんなに性格は出ませんが、それに比べるとスポーツはパーソナリティーがあらわになります。記者時代からさまざまなスポーツを観てきましたが、サッカーは特にパーソナルな、つまり個性が全面に出るスポーツかもしれません。

そう考えると、真面目で一途な部分は息子さんの大きな長所です。まずは、そこを伸ばしてあげましょう。プレースタイルが途中で変わることもありますが、ジュニア期の今、それを突き付けることではない。サッカーが苦行のようになってしまうほど、解決しなくてはいけない短所とは私は思えません。ぜひ、前述したような「楽しい」「大好き」な気持ちを植え付けることを心がけてください。


■少年サッカーは「習い事」ではない。結果より取り組みのプロセスを認めよう


そのためにも、お母さんたち大人の態度、やってきた子育てをあらためて思い出してみてください。

期待しすぎていなかったか。
ハードルを上げ過ぎていなかったか。
結果のみを褒めて、プロセスを認めることをおろそかにしなかったか。

細かい部分ですが、私はお母さんが書かれた「1年生からサッカーを習っています」のくだりが気になります。少年サッカーは、習熟度をだれかと争ったり、大人に認めてもらう「習い事」ではありません。シンプルに楽しむ遊びみたいなものです。

脳科学的にも、結果よりも、プロセスを認める態度が子どもを意欲的にさせて、結果的に能力を伸ばすことがわかっています。試合に出た、得点したといった「結果」よりも、懸命に取り組んだプロセスを「よく頑張ったね」と言ってあげてください。コーチ陣がここに気づいていないようなら、親御さんたちが補完するしかありません。

■子どもの心を守るために、外でたくさん褒められるより大事なこと

真面目過ぎてサッカーが苦行になっている息子にどう寄り添えばいいか問題

(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

よくお母さんたちは「家では褒めないから、外でたくさん褒めてほしい」などと言いますが、学校もサッカークラブもどうしても「評価」がつきまといます。家庭でたくさん認めてあげることで、子どもにとって一番の安全地帯として機能させなくてはいけません。

アスリートは、一般人より心が強いとか根性があると思われがちですが、実は「スポーツうつ」や「アスリートうつ」といった疾患名があるように、こころの病になりがちな側面もあります。

エビデンスになるデータもあります。国際プロサッカー選手会が2014年に実施した「プロサッカーにおける心の健康問題の調査」によると、現役選手の38%、元選手の35%がうつもしくは不安障害に苦しんでいました(サッカー現役選手607人、元選手219人にアンケート)。

一般人を対象にした調査では、豪州で13%、オランダは17%なので、プロサッカー選手のメンタルヘルスは一般人よりもはるかに深刻なことがわかります。神戸でプレーするイニエスタも過去にうつだったことを明かしていますね。

息子さんはもしかしたら、同年代の子どもよりも精神的に成熟しているのかもしれません。そのため、結果を出せない自分を許せなくて、自分を追い込んでいくのではないでしょうか。そのことも、裏を返せば物事の理解力があるということです。

真面目過ぎてサッカーが苦行になっている息子にどう寄り添えばいいか問題
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。

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