浮き球が苦手で、ルーズボールもバウンドが収まるまで奪いに行かない。浮き球への対応を身につけさせる練習メニューはある?
初心者、低学年にはありがちですが、浮き球の対応が苦手という課題。飛んできたパスのコントロールだけでなく、ルーズボールもバウンドが小さくなるまで奪いに行けない事も。
浮き球を怖がらずコントロールできるようになる、楽しい練習メニューを教えて。というご相談をいただきました。同じような悩みを持つコーチもいるのではないでしょうか?
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、浮き球に慣れるための練習メニューなどをアドバイスします。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(サカイクキャンプでもアイスブレイクとして手を使って投げる、キャッチする動作がある遊びを行います。写真はご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<強いボールが蹴れなくて相手に取られてばかり、強く蹴る方法をどうやって身につけさせればいい?
<お父さんコーチからのご質問>
こんにちは。
娘がサッカーをしていて、私も最近ボランティアで指導をすることになりました。
男女混合のチーム(U-10)で、女子は3人、男子が15人です。今のところ体格差もほとんどありません。
ご相談したいのは、浮き球のコントロールです。年代的にまだ多用することはないのですが、全体的に浮き球への対応が上手くできません。ルーズボールなども、ボールのバウンドが小さくなるまで待ってから奪いに行く感じで、浮き球をどうしていいかわからないようなのです。
ヘディングの落下地点に入れない問題と同じように、空間認識ができていないのかな、と思っています。手でボールをキャッチするのもぎこちない子たちがいるので。
浮き球を怖がらずコントロールできるようになるための、楽しんでできるメニューがあれば教えてください。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
10歳以下ということなので、小学4年生でしょうか。体の大きさやそのカテゴリーでやっておきたいことを踏まえ、あくまでも楽しくできるトレーニングをご紹介しましょう。
まずはハンドパスゲームを行います。バスケットボールの手前で行う、ポートボールの感覚です。バスケットはリングにシュートしますが、ポートボールは台の上に立った味方に直接渡します。手から手にボールを渡す動作から始めてください。
サッカーで行う鳥かごのような形にして、真ん中に守備を入れます。
このメニューは空間認知力を養うことにも役立ちます。ヘディングをする必要はありません。浮き球の感覚を養うための練習だと子どもたちにも話してください。
そのなかで、少しだけルールというかやり方を変化させていきます。
「浮き球が来たら、一度胸でコントロールしてから、手で取ってパスしていいよ」
「浮き球が来たら、腰より下の部分(膝や足)でコントロールしてからパスしなさい」
段階的にルールを変え、そのような遊びにすると、子どもはどんどんやり始めます。そのなかで感覚が養われます。加えて「最後はボレーシュートしよう!」と言うと、さらに楽しくなります。
そんなふうに指導者がちょっとしたアイデアを付け加えていくと、トレーニングが豊かになります。
この連載に集まるご相談は、今回のように「メニューを教えてください」というものが非常に多いです。今の時代、インターネットで検索すれば、サッカーの練習メニューはたくさん出ています。文字やイラストでの紹介だけでなく、YouTubeなど動画でわかりやすく説明されたものがたくさんあります。
それらを参考にしながら、指導者自身が自分のチームに合わせて変化を加える、つまり、ルールややり方を少し変えると、生きた練習になります。コーチが「こんな練習どうですか?」と思いつく。そうすると、コーチ自身も楽しくなります。その練習が有効だとなれば、ベースはどこからかとってきたものだとしても、ご自分が生み出した練習なのですから、指導者の自信にもなります。
先日、スペインに留学し、湘南ベルマーレなどでコーチを務め、日本で初めてサッカーコーチのコーチとして起業された倉本和昌さんと話す機会がありました。そのとき私たちが話したのは「これからのコーチは、練習メニューはネットでも本でもどこからでもとって来れる。それをどう使うかだ」でした。
そのメニューを、目の前にいる子どもに合うように変えられる力。
したがって、さまざまな練習をどんどんやってみて、工夫していくことが重要です。
人数を変えてみる。
広さを変えてみる。
「ダイレクト」と書いているけど、2タッチに変えてみる。
そうやって、目の前の子どもたちに難し過ぎるものは簡単に。逆に簡単すぎるものは、難しくしてみる。基本的な考え方はシンプルなのです。
「難しくてできな~い!」という子どもたちはどうすればいいですか?と、コーチの方に質問されます。
「ニコニコしながら見ていればいいんですよ」と話しますが、今度は「どうすればできるようになりますか?」と聞いてきます。その答えは指導者自身が見つけることです。
ひとつのアイデアとして、冒頭で伝えたように「足でやる前に手でやってみる」というやり方です。あとは、コントロールの回数。2タッチ、ワンタッチ、ダイレクト。もしくはルールを決めずにフリーで。やる人数。広さ。ゴールを置くか置かないか。ゴールをいくつ置くか。
そこをコントロールしながら「こうしたら楽しくなるだろうな」というアイデアを考えていく。エンジョイを必ず前提にしてください。さらにいえば、「こうしたら1点ね」「ワンタッチで2回続けたら2点ね」などと、勝ち負けが楽しめるものにしてください。
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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
先日は、高校生の練習をみてきました。コロナ明けで練習が再開。しばらく公式戦もありません。そういう状態だと「基礎練習から」「体力トレーニングから」みたいなことになりがちですが、こういうときこそ「サッカーが楽しい!」という思いをさせたいと思いました。そこで、ミニゲーム大会をしました。
上記のように、タッチ数を制限したり、さまざま変化を設けます。選手たちは「難しい!」と言いながら課題をクリアします。一所懸命やります。ミニゲーム大会は「このコートはJ1」、「こっちはJ2」など決めて、ゲームに勝つと「昇格」していきます。人数は4人でやりますが、人数の関係で3人チームもいます。3人が4人に勝つとすごく嬉しいですね。終わると全員が「今日は楽しかった~!」と声をあげていました。
10歳くらいの子はすべてが楽しめるようにしてほしいと思います。メニューではなくて、どう楽しんでもらえるか?そこが指導者の技術というか指導力でしょう。
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池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
浮き球を怖がらずコントロールできるようになる、楽しい練習メニューを教えて。というご相談をいただきました。同じような悩みを持つコーチもいるのではないでしょうか?
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、浮き球に慣れるための練習メニューなどをアドバイスします。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(サカイクキャンプでもアイスブレイクとして手を使って投げる、キャッチする動作がある遊びを行います。写真はご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<強いボールが蹴れなくて相手に取られてばかり、強く蹴る方法をどうやって身につけさせればいい?
<お父さんコーチからのご質問>
こんにちは。
娘がサッカーをしていて、私も最近ボランティアで指導をすることになりました。
男女混合のチーム(U-10)で、女子は3人、男子が15人です。今のところ体格差もほとんどありません。
ご相談したいのは、浮き球のコントロールです。年代的にまだ多用することはないのですが、全体的に浮き球への対応が上手くできません。ルーズボールなども、ボールのバウンドが小さくなるまで待ってから奪いに行く感じで、浮き球をどうしていいかわからないようなのです。
ヘディングの落下地点に入れない問題と同じように、空間認識ができていないのかな、と思っています。手でボールをキャッチするのもぎこちない子たちがいるので。
浮き球を怖がらずコントロールできるようになるための、楽しんでできるメニューがあれば教えてください。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
10歳以下ということなので、小学4年生でしょうか。体の大きさやそのカテゴリーでやっておきたいことを踏まえ、あくまでも楽しくできるトレーニングをご紹介しましょう。
■まずは手を使って「浮き球」に接する経験をさせる
まずはハンドパスゲームを行います。バスケットボールの手前で行う、ポートボールの感覚です。バスケットはリングにシュートしますが、ポートボールは台の上に立った味方に直接渡します。手から手にボールを渡す動作から始めてください。
サッカーで行う鳥かごのような形にして、真ん中に守備を入れます。
守備をうまく避けてボールをつないでいく。そんなゲームをすると「浮き球」に接することができます。次に鳥かごから、全員動いていいことにします。つまりはサッカーボールで行うバスケットです。どこに走って、どこに投げるとつながるか。
このメニューは空間認知力を養うことにも役立ちます。ヘディングをする必要はありません。浮き球の感覚を養うための練習だと子どもたちにも話してください。
■段階的にやり方を変化させる。コーチ自身も楽しんで「生きた練習」を体験させよう
そのなかで、少しだけルールというかやり方を変化させていきます。
「浮き球が来たら、一度胸でコントロールしてから、手で取ってパスしていいよ」
「浮き球が来たら、腰より下の部分(膝や足)でコントロールしてからパスしなさい」
段階的にルールを変え、そのような遊びにすると、子どもはどんどんやり始めます。そのなかで感覚が養われます。加えて「最後はボレーシュートしよう!」と言うと、さらに楽しくなります。
そんなふうに指導者がちょっとしたアイデアを付け加えていくと、トレーニングが豊かになります。
この連載に集まるご相談は、今回のように「メニューを教えてください」というものが非常に多いです。今の時代、インターネットで検索すれば、サッカーの練習メニューはたくさん出ています。文字やイラストでの紹介だけでなく、YouTubeなど動画でわかりやすく説明されたものがたくさんあります。
それらを参考にしながら、指導者自身が自分のチームに合わせて変化を加える、つまり、ルールややり方を少し変えると、生きた練習になります。コーチが「こんな練習どうですか?」と思いつく。そうすると、コーチ自身も楽しくなります。その練習が有効だとなれば、ベースはどこからかとってきたものだとしても、ご自分が生み出した練習なのですから、指導者の自信にもなります。
■これからのコーチに求められるのは、既存のメニューを目の前の子どもに合うように変えられる力
先日、スペインに留学し、湘南ベルマーレなどでコーチを務め、日本で初めてサッカーコーチのコーチとして起業された倉本和昌さんと話す機会がありました。そのとき私たちが話したのは「これからのコーチは、練習メニューはネットでも本でもどこからでもとって来れる。それをどう使うかだ」でした。
そのメニューを、目の前にいる子どもに合うように変えられる力。
そこを養わなくてはなりません。本に書いてある通りにやってうまくいくなら、全員すぐに名コーチになれますね。ところが、実際はやってみてもしっくりいかない。なんとなくうまくなっている気がしない。ではどうするか。そこは失敗しないとわかりません。
したがって、さまざまな練習をどんどんやってみて、工夫していくことが重要です。
人数を変えてみる。
広さを変えてみる。
「ダイレクト」と書いているけど、2タッチに変えてみる。
そうやって、目の前の子どもたちに難し過ぎるものは簡単に。逆に簡単すぎるものは、難しくしてみる。基本的な考え方はシンプルなのです。
■「こうしたら楽しくなるだろうな」という視点で練習メニューをアレンジしてみる
「難しくてできな~い!」という子どもたちはどうすればいいですか?と、コーチの方に質問されます。
「ニコニコしながら見ていればいいんですよ」と話しますが、今度は「どうすればできるようになりますか?」と聞いてきます。その答えは指導者自身が見つけることです。
ひとつのアイデアとして、冒頭で伝えたように「足でやる前に手でやってみる」というやり方です。あとは、コントロールの回数。2タッチ、ワンタッチ、ダイレクト。もしくはルールを決めずにフリーで。やる人数。広さ。ゴールを置くか置かないか。ゴールをいくつ置くか。
そこをコントロールしながら「こうしたら楽しくなるだろうな」というアイデアを考えていく。エンジョイを必ず前提にしてください。さらにいえば、「こうしたら1点ね」「ワンタッチで2回続けたら2点ね」などと、勝ち負けが楽しめるものにしてください。
池上正さんの指導を動画で見る>>
■10歳ぐらいの子どもたちにとって練習メニューより大事なこと
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
先日は、高校生の練習をみてきました。コロナ明けで練習が再開。しばらく公式戦もありません。そういう状態だと「基礎練習から」「体力トレーニングから」みたいなことになりがちですが、こういうときこそ「サッカーが楽しい!」という思いをさせたいと思いました。そこで、ミニゲーム大会をしました。
上記のように、タッチ数を制限したり、さまざま変化を設けます。選手たちは「難しい!」と言いながら課題をクリアします。一所懸命やります。ミニゲーム大会は「このコートはJ1」、「こっちはJ2」など決めて、ゲームに勝つと「昇格」していきます。人数は4人でやりますが、人数の関係で3人チームもいます。3人が4人に勝つとすごく嬉しいですね。終わると全員が「今日は楽しかった~!」と声をあげていました。
10歳くらいの子はすべてが楽しめるようにしてほしいと思います。メニューではなくて、どう楽しんでもらえるか?そこが指導者の技術というか指導力でしょう。
池上正さんの指導を動画で見る>>
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。