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主要メンバー病欠により苦肉の策で「勝つための作戦」を授けたが、そのやり方は間違いか。指導者としての選択を教えて

サカイク
主要メンバーが病欠でいつものオーダーが組めなくなった試合で、他の子たちで対応するために「勝つための作戦」を授けたが、結果は思ったようにいかず。

コーチも親も勝ちたい気持ちが大きくなっていて、その時はそれが最善策だと思ったが、終わってみると気持ちの整理がつかない。負けてもいいから子どもたちの判断にゆだねた作戦の方がよかった?と悩むコーチからのご相談。

今回も、ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、育成年代の指導者に子どもを伸ばすためのやり方を伝授します。
(取材・文島沢優子)

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主要メンバー病欠により苦肉の策で「勝つための作戦」を授けたが、そのやり方は間違いか。指導者としての選択を教えて

(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

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<お父さんコーチからの質問>

池上さん初めまして。

いつも記事を拝見させていただいております。私は最近コーチをやり始めたものです。
指導年齢はU-10です。私自身はサッカーは小・中学校でやっていました。

息子が所属しているスポーツ少年団を応援したいと思いコーチに参加しました。チームには、すでにコーチは数人いるので皆の意見をすり合わせながらやっています。

最近の出来事で、自分の中で整理できずにいるので質問させていただきたいです。

とある大会のベスト8の試合で、前半は圧倒的に攻められてましたが、後半にMFの上手い子をCBにしました。

CBに入った子は、前線がよく見える子で、前線に走った子に当てるパスが上手くいき、また、キーパーからの大きなパントで逆転して勝利し、初めてベスト4進出を果たしました。ベスト4の試合はコーチも親御さんも皆勝ちたい気持ちが大きくなってました。


しかし、試合当日コロナでキーパー含む主要な3人が出れなくなり、いつものオーダーが組めなくなったのです。そこで、一番古いコーチが勝つための作戦を子ども達に授けました。

それは、例のCBに入った子に、とにかく前線と裏に大きくキックさせる、またキーパーに前めにポジションさせ、とにかく前線に蹴り込む作戦です。その時は、私もこの状況ではそういう作戦なら可能性あるなと思い、他のコーチも同意していました。そして試合が始まると子供達は、コーチの指示どおり忠実に前線メンバーは前に走り、CBはとにかく前に縦にボールを送りました。

しかし結果は、いつものメンバーがいなかったこともありますが惨敗して4位で終わりました。

試合後ある人が「いつものチームじゃなかったね」と言っていたのと、あるSBの子が「パスを要求しても全然くれなかった」と言ってました。

それで私は、勝つ為に前線に蹴る作戦を子ども達に授けたのは間違いだったのではないかと思いはじめました。
負けてもいいから皆の判断に委ねた柔軟な作戦をコーチングするべきだったと。結果論になりますが、コーチ同士の間でも意見が割れています。

今後、このような時に、小学生のコーチとしてはどのようにあるべきなのでしょうか。またコーチの意見が割れてしまうことのご経験はお有りでしょうか。ご助言いただけると大変励みになります。よろしくお願い申し上げます。

<池上さんからのアドバイス>

ご相談ありがとうございます。

先日、私が運営し指導もしているチームの試合を、教育関係の専門誌の記者さんが取材に来られました。


■自分たちで決めて実行し、振り返る経験が大事


私のチームは試合ごとに各自のポジションは変わるし、もっと言えば誰がどこをやるのかを子どもたちだけで決めています。そのためか勝てない試合が多くなります。

記者さんが「ポジションを(適材適所に)変えると、負けないで済むのではないですか?」と質問されたので、「そうかもしれませんね」と答えました。

それはわかってはいるけれどあえてやらないこと、子どもたちがさまざまなポジションを経験する必要がある旨を話しました。さらに、そのポジションであなたはどれだけプレーできましたか?と子どもたちにリフレクション(振り返り)してもらいます。

そういった「自分たちで判断する経験」が重要だからです。

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■子どもたちに任せて4位で終わっていれば、まったく違うものを得られたはず


ご相談者様のチームも、まずは「どうする?」「どんなポジションがいい?」と子どもたちに問いかけたほうが良かったと思います。その際に「コーチが決めて」と子どもが言ったのなら、「じゃあ、コーチの意見を言うね。
コーチはこう思うよ」と話し、もう一回「最終的にどうしますか?」と尋ねます。あるいは、前半が終わったら、ハーフタイムでもう一度「後半はどうしますか?」と聞きます。

そんなふうに子どもたちに任せることが大事です。子どもたちが納得したオーダーで、戦術も納得したうえで戦うことです。プレーするのは子どもなのですから。

先日、W杯後に日本サッカー協会が開催したカンファレンスに参加してきましたが、そこでも「プレーヤーズセンタード」(選手を中心軸にする)という話が出ました。

「勝たせてあげたい」というのは、よくある大人の思いになります。勝たせたいから「これでいくよ」と大人の考えを言ってしまい指示命令してしまいます。
そうなると、子どもはコーチの言う通りに動くしかありません。

それをやってご相談者様のチームは4位になりました。しかし、子どもたちに任せて4位で終わっていれば、まったく違うものを子どもたちは得られたはずです。

■「自分がどうしたいか」から「どうすればチームが上手くいくか」の視点に持っていく


大人は、子どもたちがいかに心地よくプレーできるかを考えなくてはなりません。勝つためにいつもと違うポジションで、違うサッカーをすることが楽しいことなのかどうか。子どもだからこそ、楽しいこと、自分たちでやれることを考える必要があります。

ただ、ポジションを変えることは悪いことではありません。みんながいろんな経験をするんだよと、日々コーチは伝えるべきです。
シュートが上手い子はフォワードをやりたいと言うでしょう。

そんなときは「世界のサッカーを観てごらん。フォワードだって守備をするよ。小学生の時にいろいろなポジションをやることは君のためになるよ」と伝えましょう。

ポジションや先発メンバーを子どもたちで決めさせるとなると「僕はここをやりたい」などと自己中心的な子どもが出てきます。が、そこで大人がコントロールしないこと。

「じゃあ、ここはコーチが決めるね」と急がないことです。自己主張が強かったり、いつまでも言い続けたとしたら、外から指導者が「自分たちでどうやったらうまくいくか考えてごらん」と言ってください。

「自分がどうしたいか」にとらわれていた子どもたちが「どうすればチームはうまくいくか」という視点に変わるはずです。

■自分が決めたことを実行する経験を繰り返すことが大切指導者もトライ&エラーで成長


そうやって折り合いをつけることを学んでいきます。何でも最初からうまくスムーズにいくように大人が決めていては、子どもの学びを阻害していることになります。

例えば、コーチは3バックがいいかなと思っているとき、選手たちは「5バックがいい」答えを出したとしましょう。その際コーチは上手くいかないだろうなと思っても、彼らの判断を尊重しましょう。自分たちで決めたことを経験してもらえばいいのです。

例えば、途中0対2でリードされたとしたら「どうする?5バックのまま、まだ守る?」と問いかける。もしくは試合が終わったら、全員にどうだったか感想を話してもらいます。負けたり、自分たちで決めたことがうまくいかなかったりといった経験を、何度も繰り返すことが大切です。

ご相談者様は「子どもの判断に委ねるか否か?」を尋ねられていますが、試合後「もう少し子どもに任せればよかったです」と振り返る人が私の周りには多いです。

逆に子どもに任せて負けたとしても、皆さん「任せてよかった。子どもたち自身が自分たちの課題に気づいたので」と納得した表情を見せてくれます。指導者も子どもたち同様、トライ&エラーを繰り返して成長するのだと感じます。

■セレクションをしない方が強くなったチームの例

主要メンバー病欠により苦肉の策で「勝つための作戦」を授けたが、そのやり方は間違いか。指導者としての選択を教えて

(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

また、福岡に「春日イーグルス」というクラブがあります。私を講演や講習会に招いてくださいます。ここは、ジュニアユース(中学生)のチームでセレクションをする年としない年があります。そうやって、選手をふるいにかけて選んだら強くなるのかを見ているのです。

ある程度の年月が経過して、セレクションしない年のほうが強くなる傾向があったそうです。強くなる理由は、小学生の内部昇格組が多くなるからです。セレクションすれば上手い子が外から集まって強くなりそうですが、実は違いました。

中学でもイーグルスでやりたいと仲良しの子どもたちが集まるので、協力し合ったり切磋琢磨するようです。モチベーションが違ってくるのかもしれません。

長い目でどちらがいいかみてきたそうです。大人が子どもの可能性をどう見るかという視点は重要だと納得させられました。クラブも、トライ&エラーを繰り返すことで進化するのです。

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池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。

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