「センスがないからサッカーやめろ!」暴言を吐く幼稚な夫を変えたい問題
センスがないから辞めろ、試合に行くと口出ししたくなるから観に行かない。と下手な我が子を情けなく思っているのを隠そうともしない幼稚な夫を変えたい。というご相談をいただきました。
みなさんの身近にも、子どもが下手だと興味を失う親御さん、見たことありませんか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、言葉で子どもを傷つける父親への対応を含め、子どものサッカーに関わる保護者としてどうあればいいか、アドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<試合で相手にボールを譲る消極的な息子を何とかしたい問題
<サッカーママからのご相談>
こんにちは。
この連載でも時々でてくるお話かもしれませんが、下手な子どもを認められない親についてのご相談です。
うちの夫は9歳の子どもに対して、センスがないから辞めろと言い、観に行くと口出ししたくなるのでもう観に行かないと幼稚な発言をしています。
下手な息子を不甲斐ない、情けないと思っているのを隠そうともしないのは子どもにとっても良くないですよね。
実際子どもは父親のことを好きではないし、会話もほとんどありません。
プロを目指すわけでもないし、本人が楽しんでいるならそれで良いのではと思うのですが、子どもを認められない父親をどうしたら変えられるでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
私はこのような連載以外で、運動部活動や少年サッカーなどスポーツの指導現場にかかわる悩みや困りごとの相談も行っています。
つい最近、小学生の親御さんからジュニアユースクラブのセレクションについての相談を受けました。
皆さんご存知のように、サッカーのジュニアユースクラブに入るには、多くの場合セレクションがあります。実施後に合否が出るのですが、合格させた後に「いま入団しないなら、後で来ても入れないよ」と言われることがあります。
もうひとつ、全体人数の調整のために「内定は出るから待っていて」と待たせて他のクラブのセレクションを受けさせないケースもあります。私が受けた相談は後者で、結局内定は出ませんでした。他のクラブに入る選択肢はあったのですが、大人不信に陥り傷ついたお子さんはサッカーをやめてしまいました。非常に不幸なケースでした。
ただし、話を聴いていくと、ご家族の問題のほうが深刻でした。
つまり、こちらのご相談者様と同じように父親が問題でした。強豪クラブの内定を逃した(というより裏切られた)息子を責めるような言動が多数ありました。
それらは、私からすればドメスティックバイオレンスです。
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この事例とは問題の種は異なりますが、夫を矯正しなくてはいけない点は今回のご相談者様も同じです。
もしかしたら、子どもさんが小学3~4年生と、前述した事例よりも年齢が低いことを考えると、こちらのほうが深刻かもしれません。
6年生くらいになると「僕の父親はこういう人だから仕方ない」「人としてダメだ。父親のほうがおかしい」と客観的な判断も子どもによってはできるようになります。が、3年生くらいだと、父親の言葉をストレートに受け取ってしまって深く傷つきます。
つまり、親が「うちの子はあれもできない。これをやろうとしない」と嘆き悲しむのは、車からガソリンを抜いているようなものです。
お母さんの質問は「子どもを認められない父親をどうしたら変えられるか」です。父親、つまり夫を変えることを目指してしまうと、なかなかうまくいかないかもしれません。恐らく年齢は30~40代でしょうか。
息子さんに「センスがないから辞めろ」とか「もう観に行かない」などと言ってしまうのは、感情的になりやすい性格に加えて、子どもの人権に対する意識が希薄なためわが子を私物化する傾向にあるのだろうと推測します。
「センスがないから辞めろとか、そういう暴言は吐かないで。約束して」と言っても、元の意識の部分が同じなので今後も何か息子さんにネガティブなことが起きると「ほら、やっぱりお前はダメなやつだ」と言ってしまう、もしくはそういう顔をしてしまう。
子どもは大人が思っている以上に敏感です。自分が肯定されていないことにすぐに気づきます。
したがって、父親(夫)を変えるよりも、お母さん自身がまずは変わることです。そのために考えてほしい、向き合ってほしいことが三つあります。
ひとつめ。お母さんはお父さんと、パートナーとして対等な関係を結んでいるでしょうか?そこを振り返ってみましょう。お父さんが息子さんに「センスがないから辞めろ」と言ったとき、お母さんは烈火のごとく怒りましたか?私としては、そこで「暴言を吐いてしまった。すまない」と父親が謝るまで許してはいけないと思います。
サッカーがあまり上手ではなく悩んでいるだろう、まだ9歳の息子に対する言葉の虐待です。人間ですから、つい言ってしまうことはあるでしょう。その場合は「悪かった」と謝ることです。お母さんもそれをさせないままスルーしているのだとしたら、虐待を傍観していることになります。
パートナーの言動がおかしいと感じたらきちんと話し合える関係性をつくりましょう。ゆっくりでいいです。対等な関係性を築きたいと話をして、お父さんにも考えてもらうのです。
ふたつめ。
三つめ。
サッカーが下手だとか、勉強ができないといった評価(認知)できるものだけで、子どもを見るのはやめましょう。
そのような目で見てわかる認知能力ではなく、見えない非認知能力を見てあげてください。やさしく人を思いやるこころをもっているか。自分で気づき、考えて行動できるか。何があっても「自分は今の自分で大丈夫」という自己肯定感が育っているか。そこを振り返ってください。
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
そして大事なのは、幼稚なパートナーに対しても「こう言わないで」「こんな態度をとらないで」といった否定をしないこと。他者を否定する人ほど、自分を否定されることに弱いものです。私はこういう言葉は嫌い。好きではない。良いとは思わない――そんな「私はこう考える(思う)」というアイ(I)メッセージで伝えましょう。
私たちの親世代は、子どもに対し暴言を吐き放題の家庭が多かったでしょう。センスがないからやめろと言われれば「センスがないのは本当のことだから、お父さんが言うようにやめたほうがいいかもしれない」と考える。それが普通なこととして育ってきました。
すべての家庭がそうではありませんが、高い確率でそのような子育てが行われ、その影響もあって日本の若者はすでに20年近く先進国で著しく自己肯定感が低い国になってしまいました。
お母さん自身が変われば、お父さんもそれに気づくはずです。そして何よりも息子さんにも変化が訪れます。母子が変わったうえで、ついでにパパが変わればいいね、くらいな心構えでいましょう。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『高学歴親という病』(講談社α新書)。
みなさんの身近にも、子どもが下手だと興味を失う親御さん、見たことありませんか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、言葉で子どもを傷つける父親への対応を含め、子どものサッカーに関わる保護者としてどうあればいいか、アドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<試合で相手にボールを譲る消極的な息子を何とかしたい問題
<サッカーママからのご相談>
こんにちは。
この連載でも時々でてくるお話かもしれませんが、下手な子どもを認められない親についてのご相談です。
うちの夫は9歳の子どもに対して、センスがないから辞めろと言い、観に行くと口出ししたくなるのでもう観に行かないと幼稚な発言をしています。
下手な息子を不甲斐ない、情けないと思っているのを隠そうともしないのは子どもにとっても良くないですよね。
実際子どもは父親のことを好きではないし、会話もほとんどありません。
プロを目指すわけでもないし、本人が楽しんでいるならそれで良いのではと思うのですが、子どもを認められない父親をどうしたら変えられるでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
私はこのような連載以外で、運動部活動や少年サッカーなどスポーツの指導現場にかかわる悩みや困りごとの相談も行っています。
つい最近、小学生の親御さんからジュニアユースクラブのセレクションについての相談を受けました。
■子どもに対する言葉のバイオレンスから守らなければならない
皆さんご存知のように、サッカーのジュニアユースクラブに入るには、多くの場合セレクションがあります。実施後に合否が出るのですが、合格させた後に「いま入団しないなら、後で来ても入れないよ」と言われることがあります。
もうひとつ、全体人数の調整のために「内定は出るから待っていて」と待たせて他のクラブのセレクションを受けさせないケースもあります。私が受けた相談は後者で、結局内定は出ませんでした。他のクラブに入る選択肢はあったのですが、大人不信に陥り傷ついたお子さんはサッカーをやめてしまいました。非常に不幸なケースでした。
ただし、話を聴いていくと、ご家族の問題のほうが深刻でした。
つまり、こちらのご相談者様と同じように父親が問題でした。強豪クラブの内定を逃した(というより裏切られた)息子を責めるような言動が多数ありました。
それらは、私からすればドメスティックバイオレンスです。
まずは、夫の口撃に対し息子を守れない母親の精神状態を立て直すことから始めました。
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■3年生ぐらいだと親の言葉をストレートに受け取り傷つくこともある
この事例とは問題の種は異なりますが、夫を矯正しなくてはいけない点は今回のご相談者様も同じです。
もしかしたら、子どもさんが小学3~4年生と、前述した事例よりも年齢が低いことを考えると、こちらのほうが深刻かもしれません。
6年生くらいになると「僕の父親はこういう人だから仕方ない」「人としてダメだ。父親のほうがおかしい」と客観的な判断も子どもによってはできるようになります。が、3年生くらいだと、父親の言葉をストレートに受け取ってしまって深く傷つきます。
つまり、親が「うちの子はあれもできない。これをやろうとしない」と嘆き悲しむのは、車からガソリンを抜いているようなものです。
その一方で、息子さんのことを「人と争うようなことが嫌い」と書かれているように、お母さんは息子さんの性格を知っています。であれば、そこを息子さんが自分で乗り越えるのを気長に待っていればいいのです。
■夫を変えようとするのではなく、まず自分を変えましょう
お母さんの質問は「子どもを認められない父親をどうしたら変えられるか」です。父親、つまり夫を変えることを目指してしまうと、なかなかうまくいかないかもしれません。恐らく年齢は30~40代でしょうか。
息子さんに「センスがないから辞めろ」とか「もう観に行かない」などと言ってしまうのは、感情的になりやすい性格に加えて、子どもの人権に対する意識が希薄なためわが子を私物化する傾向にあるのだろうと推測します。
「センスがないから辞めろとか、そういう暴言は吐かないで。約束して」と言っても、元の意識の部分が同じなので今後も何か息子さんにネガティブなことが起きると「ほら、やっぱりお前はダメなやつだ」と言ってしまう、もしくはそういう顔をしてしまう。
子どもは大人が思っている以上に敏感です。自分が肯定されていないことにすぐに気づきます。
したがって、父親(夫)を変えるよりも、お母さん自身がまずは変わることです。そのために考えてほしい、向き合ってほしいことが三つあります。
■夫の暴言を許しているのは虐待を傍観しているのと同じ
ひとつめ。お母さんはお父さんと、パートナーとして対等な関係を結んでいるでしょうか?そこを振り返ってみましょう。お父さんが息子さんに「センスがないから辞めろ」と言ったとき、お母さんは烈火のごとく怒りましたか?私としては、そこで「暴言を吐いてしまった。すまない」と父親が謝るまで許してはいけないと思います。
サッカーがあまり上手ではなく悩んでいるだろう、まだ9歳の息子に対する言葉の虐待です。人間ですから、つい言ってしまうことはあるでしょう。その場合は「悪かった」と謝ることです。お母さんもそれをさせないままスルーしているのだとしたら、虐待を傍観していることになります。
パートナーの言動がおかしいと感じたらきちんと話し合える関係性をつくりましょう。ゆっくりでいいです。対等な関係性を築きたいと話をして、お父さんにも考えてもらうのです。
■「サッカーが下手」といった目に見える評価だけで子どもを見ないこと
ふたつめ。
お母さん自身の息子さんに対する感情と向き合いましょう。相談文に「下手な息子を不甲斐ない、情けないと思っているのを隠そうともしない」とありますが、情けないと思うこと自体が情けないと私は思います。お父さんがそう思うのはある意味「他人」の考えなので変えようがないのですが、お母さんはどうでしょうか。
三つめ。
サッカーが下手だとか、勉強ができないといった評価(認知)できるものだけで、子どもを見るのはやめましょう。
そのような目で見てわかる認知能力ではなく、見えない非認知能力を見てあげてください。やさしく人を思いやるこころをもっているか。自分で気づき、考えて行動できるか。何があっても「自分は今の自分で大丈夫」という自己肯定感が育っているか。そこを振り返ってください。
■子どもの自己肯定感を育てるために、幼稚なパートナーへの対応を変える
(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
そして大事なのは、幼稚なパートナーに対しても「こう言わないで」「こんな態度をとらないで」といった否定をしないこと。他者を否定する人ほど、自分を否定されることに弱いものです。私はこういう言葉は嫌い。好きではない。良いとは思わない――そんな「私はこう考える(思う)」というアイ(I)メッセージで伝えましょう。
私たちの親世代は、子どもに対し暴言を吐き放題の家庭が多かったでしょう。センスがないからやめろと言われれば「センスがないのは本当のことだから、お父さんが言うようにやめたほうがいいかもしれない」と考える。それが普通なこととして育ってきました。
すべての家庭がそうではありませんが、高い確率でそのような子育てが行われ、その影響もあって日本の若者はすでに20年近く先進国で著しく自己肯定感が低い国になってしまいました。
お母さん自身が変われば、お父さんもそれに気づくはずです。そして何よりも息子さんにも変化が訪れます。母子が変わったうえで、ついでにパパが変わればいいね、くらいな心構えでいましょう。