遠征2万、練習試合1回1000円。お金がかかりすぎるクラブをやめさせたい問題
クラブチームのコーチが代わったら、去年までより遠征がかなり多くなった。参加、不参加の決定権はなく、1回2万円以上の出費が痛い。
他の兄弟にもお金がかかるしこれからの教育費用を考えると、サッカーばかりにお金をかけられない。本人は今のチームを出るつもりもないから無理してでも今のチームにいるか、他のチームに移るかどうしたらいい?というご相談。
子どものスポーツとお金の問題は、どこのご家庭でも悩むことではないでしょうか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見やご自身の体験をもとに、いまお母さんがどうすればいいか3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<練習に行くと大泣きして母親から離れられません問題
<サッカーママからのご相談>
息子は3年生からクラブチームの選手育成コースにいて現在4年生です。
この春からコーチが代わりました。
1番困っているのは遠征費用の捻出です。入会時に遠征がこれほどあるとはひとことも説明がありませんでした。遠征に参加するか否かはこちらに選択権がないため、メンバーに選ばれたら行かざるをえず、1回2万以上の出費があります。
クラブの方針というより、コーチのさじ加減によるところが多く、週末のトレーニングマッチも増え、そのたびに1000円かかります。子どもはこの子だけでないので、他の兄弟にもお金がかかます。物価高もありますし、これからの教育費用のことを考えると、サッカーの遠征ばかりにお金をかけているわけにもいきません。
また、リフティングを基準に選手を選んだり、ごはんを多く食べたら試合に出すと言ったり、試合中に怒鳴られたり、コーチのそういう考え方に私の感覚が合わず、私は、遠征が少なく週末どちらかは休みにしているチームに移りたいという気持ちが大きくなっています。
息子にとってはこのチームがサッカーに出会った最初のチームで、またAチームのスタメンで出してもらうことが多いので、本人は今のチームを変わる気がありません。チームメイトとの関係も良好です。今のところコーチへの不満も言っていません。
サッカーにかけるお金の感覚とコーチの指導に私が合わず、なんとも気持ちの悪い状態でいます。
息子の意思を尊重して無理して今のチームにいるか、他のチームに移るか、どうしたらいいでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
お母さんからのメールを読んで、一瞬デジャブかと思いました。というのも、過度にお金がかかる少年サッカークラブの話を数年前、週刊誌に書いたことがあるからです。
関西圏にあるその強豪クラブに所属していた保護者によると、遠征など含めた出費は年間120万円にのぼりました。公立小学校の校庭を借りるだけで1回1000円。どこに支払うのか使途不明でも親たちはその都度お金を渡していました。しかも、NPO(非営利団体)でありながら、会員である保護者に収支報告などは一切行っていませんでした。
もともと全面的に運営を任されていたコーチの暴力問題が取材の発端でしたが、そのような膨大な活動費と運営の杜撰さも記事にしました。そこでは書き切れませんでしたが、そのようにお金を搾取されても「全国大会に行くため。強いチームなら当然」「子どもがレギュラーだから」と、苦情申し立てをしない従順すぎる親御さんの姿に強い違和感を抱きました。そんな親心を、クラブ側も悪用しているように映りました。
無論、このようなクラブはごく一部でしょう。多くは真面目に取り組んでいると思います。が、ここ20年くらいで民間のサッカークラブは急激に増えています。多くの人間がなだれ込む市場は、一時的かもしれませんが玉石混合の状態になりますよね。
お母さんの「物価高もあるし、今後の教育費を考えると、サッカーばかりにお金をかけていられない」という意見は、非常にまっとうな感覚です。コーチの指導のまずさに気づける冷静さも持ち合わせています。ご自分の価値観や考え方に自信を持ってください。
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私からは3つほどアドバイスさせてください。
ひとつめ。コーチが代わってから運営がおかしくなったようなので、もしかしたらクラブではなくこのコーチの個人的な問題なのかもしれません。そこを判断するためにも、まずは他の学年がどうしているかなど、このクラブの情報を集めましょう。クラブの代表者もしくは他のスタッフに、このコーチのありようを相談してはいかがでしょうか。
そういったことがやりづらいようであれば、同じ学年の他の保護者にも意見を募ってはどうでしょうか。盲目的にお金を払おうとしている方もいれば、中にはお母さん同様、疑問を持っている方もいらっしゃるでしょう。
クラブ側が、金銭的なことや不適切な指導について「コーチに任せているので」などといって問題にしないのであれば、移籍も視野に入れてもいいかと思います。
ふたつめ。
そういったことをやりつつ、近隣の他クラブの情報も集めましょう。通える範囲で、常識的な運営がなされ、好ましい指導を受けられるチームがあるのかどうか。さまざまな相談を受けてきましたが、やめさせたのはいいけれど移籍するチームが見つからない、移籍したチームもほぼ同じようにブラックだったという方もいらっしゃいます。
この、移籍するかどうかはわからないけれど「次のチームを考えておく」「慎重に選ぶ」という部分は、とても大切です。そのように他のクラブに目を向けることで、子どもにとってどんな環境がベストなのか、もしくはベターなのかをお母さん自身が学べます。
加えて、あまり可能性は高くないかもしれませんが、今いるクラブの良さがわかることもあります。
そして、三つめ。
今のクラブというより、今の環境が良いかどうかの基準は、お子さんが楽しくサッカーをしているかどうかです。
とはいえ、一度お子さんに「今のチームってどう思う?」と尋ねてみてもいいかもしれません。リフティングやごはんの量でレギュラーが決まること、試合中に怒鳴られることなど、どう感じているのか。それに対しお母さんがどう思っているのかも、率直に伝えて良いかと思います。
もしかしたら、お子さんのほうでも、コーチが交代してからお母さんに言えない問題を抱えているかもしれません。
ただし、すぐに移籍を持ち出したり、お子さんが今現在指導を受けているコーチを強く批判しないようにしましょう。子どもの個人差はありますが、まだ4年生です。話す雰囲気や言葉に気をつけながら対話をしてください。
(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
大人は金銭面などある意味大人の汚いところをきちんと見極めたうえで子どものサッカー環境を一緒に考えなくてはいけません。将来的な経済設計や、教育設計も考慮するのは当然です。実際、それをせずに、目の前の試合結果や子どもがレギュラーか否かで一喜一憂している大人が多いなか、お母さんは素敵です。
その一方で、子ども自身は常に「今」を生きていることを忘れないでください。それが子どもです。だからこそ大人がしっかりしなくてはいけません。
お母さんは親として視野を広く持ちつつも、ひとりで動かないようにしてください。お母さん自身が抱え込んで辛くなってしまうのは避けましょう。
支えてくれる人はきっといるはずです。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『高学歴親という病』(講談社α新書)。
他の兄弟にもお金がかかるしこれからの教育費用を考えると、サッカーばかりにお金をかけられない。本人は今のチームを出るつもりもないから無理してでも今のチームにいるか、他のチームに移るかどうしたらいい?というご相談。
子どものスポーツとお金の問題は、どこのご家庭でも悩むことではないでしょうか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見やご自身の体験をもとに、いまお母さんがどうすればいいか3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<練習に行くと大泣きして母親から離れられません問題
<サッカーママからのご相談>
息子は3年生からクラブチームの選手育成コースにいて現在4年生です。
この春からコーチが代わりました。
それによって毎週日曜にトレーニングマッチが入り、3年生時よりかなり多くの遠征が予定されています。
1番困っているのは遠征費用の捻出です。入会時に遠征がこれほどあるとはひとことも説明がありませんでした。遠征に参加するか否かはこちらに選択権がないため、メンバーに選ばれたら行かざるをえず、1回2万以上の出費があります。
クラブの方針というより、コーチのさじ加減によるところが多く、週末のトレーニングマッチも増え、そのたびに1000円かかります。子どもはこの子だけでないので、他の兄弟にもお金がかかます。物価高もありますし、これからの教育費用のことを考えると、サッカーの遠征ばかりにお金をかけているわけにもいきません。
また、リフティングを基準に選手を選んだり、ごはんを多く食べたら試合に出すと言ったり、試合中に怒鳴られたり、コーチのそういう考え方に私の感覚が合わず、私は、遠征が少なく週末どちらかは休みにしているチームに移りたいという気持ちが大きくなっています。
息子にとってはこのチームがサッカーに出会った最初のチームで、またAチームのスタメンで出してもらうことが多いので、本人は今のチームを変わる気がありません。チームメイトとの関係も良好です。今のところコーチへの不満も言っていません。
サッカーにかけるお金の感覚とコーチの指導に私が合わず、なんとも気持ちの悪い状態でいます。
息子の意思を尊重して無理して今のチームにいるか、他のチームに移るか、どうしたらいいでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
お母さんからのメールを読んで、一瞬デジャブかと思いました。というのも、過度にお金がかかる少年サッカークラブの話を数年前、週刊誌に書いたことがあるからです。
■年間の出費が120万円にのぼるようなチームも
関西圏にあるその強豪クラブに所属していた保護者によると、遠征など含めた出費は年間120万円にのぼりました。公立小学校の校庭を借りるだけで1回1000円。どこに支払うのか使途不明でも親たちはその都度お金を渡していました。しかも、NPO(非営利団体)でありながら、会員である保護者に収支報告などは一切行っていませんでした。
もともと全面的に運営を任されていたコーチの暴力問題が取材の発端でしたが、そのような膨大な活動費と運営の杜撰さも記事にしました。そこでは書き切れませんでしたが、そのようにお金を搾取されても「全国大会に行くため。強いチームなら当然」「子どもがレギュラーだから」と、苦情申し立てをしない従順すぎる親御さんの姿に強い違和感を抱きました。そんな親心を、クラブ側も悪用しているように映りました。
無論、このようなクラブはごく一部でしょう。多くは真面目に取り組んでいると思います。が、ここ20年くらいで民間のサッカークラブは急激に増えています。多くの人間がなだれ込む市場は、一時的かもしれませんが玉石混合の状態になりますよね。
お母さんの「物価高もあるし、今後の教育費を考えると、サッカーばかりにお金をかけていられない」という意見は、非常にまっとうな感覚です。コーチの指導のまずさに気づける冷静さも持ち合わせています。ご自分の価値観や考え方に自信を持ってください。
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子どもを伸ばす親の心得をお届け!
■他の学年はどうしているか、などまずは実態把握を
私からは3つほどアドバイスさせてください。
ひとつめ。コーチが代わってから運営がおかしくなったようなので、もしかしたらクラブではなくこのコーチの個人的な問題なのかもしれません。そこを判断するためにも、まずは他の学年がどうしているかなど、このクラブの情報を集めましょう。クラブの代表者もしくは他のスタッフに、このコーチのありようを相談してはいかがでしょうか。
そういったことがやりづらいようであれば、同じ学年の他の保護者にも意見を募ってはどうでしょうか。盲目的にお金を払おうとしている方もいれば、中にはお母さん同様、疑問を持っている方もいらっしゃるでしょう。
クラブ側が、金銭的なことや不適切な指導について「コーチに任せているので」などといって問題にしないのであれば、移籍も視野に入れてもいいかと思います。
■他の学年の状況を探りつつ、近隣チームの情報収集も並行して
ふたつめ。
そういったことをやりつつ、近隣の他クラブの情報も集めましょう。通える範囲で、常識的な運営がなされ、好ましい指導を受けられるチームがあるのかどうか。さまざまな相談を受けてきましたが、やめさせたのはいいけれど移籍するチームが見つからない、移籍したチームもほぼ同じようにブラックだったという方もいらっしゃいます。
この、移籍するかどうかはわからないけれど「次のチームを考えておく」「慎重に選ぶ」という部分は、とても大切です。そのように他のクラブに目を向けることで、子どもにとってどんな環境がベストなのか、もしくはベターなのかをお母さん自身が学べます。
加えて、あまり可能性は高くないかもしれませんが、今いるクラブの良さがわかることもあります。
■今の環境が良いかどうかの基準は、子どもが楽しくサッカーしているかどうか
そして、三つめ。
今のクラブというより、今の環境が良いかどうかの基準は、お子さんが楽しくサッカーをしているかどうかです。
仲間と楽しくやっているようですし、コーチへの不満もなさそうです。
とはいえ、一度お子さんに「今のチームってどう思う?」と尋ねてみてもいいかもしれません。リフティングやごはんの量でレギュラーが決まること、試合中に怒鳴られることなど、どう感じているのか。それに対しお母さんがどう思っているのかも、率直に伝えて良いかと思います。
もしかしたら、お子さんのほうでも、コーチが交代してからお母さんに言えない問題を抱えているかもしれません。
ただし、すぐに移籍を持ち出したり、お子さんが今現在指導を受けているコーチを強く批判しないようにしましょう。子どもの個人差はありますが、まだ4年生です。話す雰囲気や言葉に気をつけながら対話をしてください。
■大人が将来的な経済設計や教育設計を考慮するのは当然、一方子どもは......
(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
大人は金銭面などある意味大人の汚いところをきちんと見極めたうえで子どものサッカー環境を一緒に考えなくてはいけません。将来的な経済設計や、教育設計も考慮するのは当然です。実際、それをせずに、目の前の試合結果や子どもがレギュラーか否かで一喜一憂している大人が多いなか、お母さんは素敵です。
その一方で、子ども自身は常に「今」を生きていることを忘れないでください。それが子どもです。だからこそ大人がしっかりしなくてはいけません。
お母さんは親として視野を広く持ちつつも、ひとりで動かないようにしてください。お母さん自身が抱え込んで辛くなってしまうのは避けましょう。
支えてくれる人はきっといるはずです。