ドイツと日本の育成年代で大きく違うところは? 指導経験が浅くてもマネできる練習メニューを教えて
子どものチーム入団で10数年ぶりにサッカー現場に。今は国内外の指導について情報を勉強中のコーチ。サカイクのSNSで池上さんのドイツ視察を見ての質問。
最近日本代表はドイツに2勝するなど強くなってきているが、ドイツ視察に行ってみて日本の育成現場と大きく違うのは何?指導経験が浅くても取り入れられるメニューがあったら教えて。とのこと
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、4回目となるこの夏のドイツ視察で見てきたことを元にアドバイスを送ります。
(取材・文島沢優子)
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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<ボールを奪われない距離感が日本と海外では違う、相手に奪われない適切な距離の取り方を教えて
<お父さんコーチからの質問>
池上さん、こんにちは。地方都市の少年団で5、6年生を担当しています。
サッカーはそこそこ強豪校でやっていて、大学でも趣味で続けてはいましたが、指導の勉強をしたことはありません。息子がチームに所属して、十年以上ぶりぐらいでサッカーに関わった保護者コーチです。
そのため、ネットなどで国内外の指導について勉強中です。
サカイクのSNSでこの夏ドイツ視察に行かれていたことを知りました。ドイツは育成大国で、その取り組みは日本も導入してきているのは知っています。
最近代表レベルではドイツに2勝したり、日本の育成も世界と比べても評価できるのではないかと思っているのですが、実際ドイツ視察を行って育成年代で日本と大きく違う事はどんなことがありましたか。
指導経験が浅い保護者コーチでも簡単に取り組める練習メニューなどがあれば教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
私がドイツの小学生のプレーを観たのは、ブンデスリーガの下部組織でした。小学生たちが、12歳でボール運びができ、戦術をしっかり理解してサッカーをやっていることに驚きました。いいタイミングでスペースに飛び込んだ子に、これもいいタイミングでパスが出ていました。精度の差こそあれ、やっているサッカーはトップチームの選手たちと変わらないのです。
一方、日本の子どもはボールをもらうとまずドリブル。速い展開やボール運びはできません。ただ、私が観たドイツの子はプロクラブの下部組織なので、いわゆる「選ばれし子どもたち」です。
だったら、そうではない一般のアマチュアの街クラブでは、どんなふうなのか。
コロナの影響でいけなかった年もありますが、今年で4回目になります。この夏は、2つのグループに分けて、一方はドイツからオランダに足を伸ばすツアーを加えました。
結論から言うと、街クラブの子どもたちも流れるようなボール運びができ、戦術を理解していました。サッカー偏差値の高さはブンデスリーガの子どもたちと変わりません。つまり、ドイツと日本の育成で最も違う点は「技術ではなく戦術理解の指導を優先する」ことだと感じました。
具体的に言えば、指導者がサッカーの入り口に立つ小学生に、その瞬間どこにどのように動いたほうがいいのか、何を、どこを見たらいいのか、ピンチのときどうやって守ったらいいのか、を教えることです。
止まったまま2人組でキックを蹴ったり、ひとりでコーンドリブルをするといった日本でよく見る練習は、ドイツでは一切見たことがありません。パス交換やドリブルなど基礎的なスキル練習らしいことも時折やりますが、いつも2人から3人組で行う。常に「他者(の意志)を感じる」力を育めるよう、なおかつサッカーを楽しめる練習が行われていました。
そして、当然ではありますが、コーチたちは怒ったり、焦ったりして大声を出したり、出来ない子を責めたりはほとんどありませんでした。指導者も子どもたちも、まさしくサッカーを楽しんでいました。
だからでしょう。私たちはドイツで団子サッカーを見たことがありません。
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この連載でも何度か「教えることの順番が違いますよ」という話をしました。日本はこれまで、技術→認知→判断で指導してきましたが、ドイツをはじめ欧州のサッカー先進国ではその逆です。足元の技術がおぼつかなくても、ボールを運ぶ練習をしてサッカーの本質を知ることから始めます。
最初に判断力を磨き、認知を深めます。そうすると、ポジショニングは良かったのにトラップをミスするといった状況がたくさん出てきます。そこで初めて「じゃあ、ボールコントロールの練習もしてみよう」となれば、子どもたちは意欲的に取り組みます。
もうサッカーの「やり方」はわかっているので、あとは細かいミスをなくせばいいだけです。その流れで、ドイツでは中学生や高校生年代で、もう一度足元のスキルアップを意識させるような練習をやります。
このようなロードマップで育成すると「小さいときは上手かったのに、大きくなったら下手になった」とか「足元は上手いけれど、オフ・ザ・ボールの動き方が理解できないのが弱点」といった選手は出てこないのです。
もうちょっと年齢が上がってユースレベルのカテゴリーになると、コーチは「タイミングをうまく合わせよう」と声をかけます。例えば「今、君がもう少し我慢して、このタイミングで走り込んだらチャンスになったね」といったアドバイスです。決してパスを「正確に蹴りなさい」ではないのです。
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
田中碧選手が在籍するフォルトゥナ ・デュッセルドルフにも視察に行った際、広報を務める日本人スタッフの方にとても興味深い話を聞きました。
「さあ、君たちはオオカミの群れです。獲物をとらえるために、みんなそれぞれ役割が決まっている。みんなで協力して狩りをして、みんなで美味しい食事をしよう。でも、誰かひとりでも一匹オオカミになってしまうと、協力し合えない。一匹オオカミはひとりでえさをとれなくて死んでしまうんだ。だから一匹オオカミを作ってはいけないよ」
これはサッカーというスポーツはみんなでやるものだ。自分勝手にプレーしないことが大切だ。チームで動かなくてはいけない――そんなサッカーの本質を子どもにわかりやすく伝えるため、狼に例えています。
さらに、ピッチの上で首を振っていっぱい見たほうがいい、と視野を取る重要性を伝えるときは「フクロウの眼のようになれ」を挙げます。フクロウは右と左の眼球をバラバラに動かせます。いろんなところがいっぱい見られるというわけです。
サッカーを理解してもらうために、どうすれば子どもに伝わるかにとてもエネルギーを割いていました。大人から「ちゃんと見ろ」とか「走れ」といった抽象的な声掛けも耳にしませんでした。
メニューはネットでも本でもどこからでも引っ張れます。まずは、ここまで説明したことを参考にして、ボールを運ぶことを理解させてください。メニューはひとりでやらないものを軸に選んでください。
こちらの連載でもメニューの話はたくさん出てくるのでチェックしてみてください。
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池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
最近日本代表はドイツに2勝するなど強くなってきているが、ドイツ視察に行ってみて日本の育成現場と大きく違うのは何?指導経験が浅くても取り入れられるメニューがあったら教えて。とのこと
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、4回目となるこの夏のドイツ視察で見てきたことを元にアドバイスを送ります。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<ボールを奪われない距離感が日本と海外では違う、相手に奪われない適切な距離の取り方を教えて
<お父さんコーチからの質問>
池上さん、こんにちは。地方都市の少年団で5、6年生を担当しています。
サッカーはそこそこ強豪校でやっていて、大学でも趣味で続けてはいましたが、指導の勉強をしたことはありません。息子がチームに所属して、十年以上ぶりぐらいでサッカーに関わった保護者コーチです。
そのため、ネットなどで国内外の指導について勉強中です。
サカイクのSNSでこの夏ドイツ視察に行かれていたことを知りました。ドイツは育成大国で、その取り組みは日本も導入してきているのは知っています。
最近代表レベルではドイツに2勝したり、日本の育成も世界と比べても評価できるのではないかと思っているのですが、実際ドイツ視察を行って育成年代で日本と大きく違う事はどんなことがありましたか。
指導経験が浅い保護者コーチでも簡単に取り組める練習メニューなどがあれば教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
私がドイツの小学生のプレーを観たのは、ブンデスリーガの下部組織でした。小学生たちが、12歳でボール運びができ、戦術をしっかり理解してサッカーをやっていることに驚きました。いいタイミングでスペースに飛び込んだ子に、これもいいタイミングでパスが出ていました。精度の差こそあれ、やっているサッカーはトップチームの選手たちと変わらないのです。
一方、日本の子どもはボールをもらうとまずドリブル。速い展開やボール運びはできません。ただ、私が観たドイツの子はプロクラブの下部組織なので、いわゆる「選ばれし子どもたち」です。
だったら、そうではない一般のアマチュアの街クラブでは、どんなふうなのか。
どんな指導環境なのか。そこを学びたくて、日本の町クラブの指導者たちとドイツに視察に行き始めました。
■流れるようなボール運び、戦術理解ドイツと日本の育成で最も違う点
コロナの影響でいけなかった年もありますが、今年で4回目になります。この夏は、2つのグループに分けて、一方はドイツからオランダに足を伸ばすツアーを加えました。
結論から言うと、街クラブの子どもたちも流れるようなボール運びができ、戦術を理解していました。サッカー偏差値の高さはブンデスリーガの子どもたちと変わりません。つまり、ドイツと日本の育成で最も違う点は「技術ではなく戦術理解の指導を優先する」ことだと感じました。
具体的に言えば、指導者がサッカーの入り口に立つ小学生に、その瞬間どこにどのように動いたほうがいいのか、何を、どこを見たらいいのか、ピンチのときどうやって守ったらいいのか、を教えることです。
決して、止める・蹴るといった足元の技術から教えません。
止まったまま2人組でキックを蹴ったり、ひとりでコーンドリブルをするといった日本でよく見る練習は、ドイツでは一切見たことがありません。パス交換やドリブルなど基礎的なスキル練習らしいことも時折やりますが、いつも2人から3人組で行う。常に「他者(の意志)を感じる」力を育めるよう、なおかつサッカーを楽しめる練習が行われていました。
そして、当然ではありますが、コーチたちは怒ったり、焦ったりして大声を出したり、出来ない子を責めたりはほとんどありませんでした。指導者も子どもたちも、まさしくサッカーを楽しんでいました。
だからでしょう。私たちはドイツで団子サッカーを見たことがありません。
試合を視察すると、町のどんなチームでもほとんどがゴールキーパーからビルドアップをします。キーパーはパントキックをしないし、バックの選手から前線へのロングボールもありませんでした。
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■日本は技術→認知→判断で指導するが、ドイツや欧州のサッカー先進国では逆
この連載でも何度か「教えることの順番が違いますよ」という話をしました。日本はこれまで、技術→認知→判断で指導してきましたが、ドイツをはじめ欧州のサッカー先進国ではその逆です。足元の技術がおぼつかなくても、ボールを運ぶ練習をしてサッカーの本質を知ることから始めます。
最初に判断力を磨き、認知を深めます。そうすると、ポジショニングは良かったのにトラップをミスするといった状況がたくさん出てきます。そこで初めて「じゃあ、ボールコントロールの練習もしてみよう」となれば、子どもたちは意欲的に取り組みます。
もうサッカーの「やり方」はわかっているので、あとは細かいミスをなくせばいいだけです。その流れで、ドイツでは中学生や高校生年代で、もう一度足元のスキルアップを意識させるような練習をやります。
このようなロードマップで育成すると「小さいときは上手かったのに、大きくなったら下手になった」とか「足元は上手いけれど、オフ・ザ・ボールの動き方が理解できないのが弱点」といった選手は出てこないのです。
もうちょっと年齢が上がってユースレベルのカテゴリーになると、コーチは「タイミングをうまく合わせよう」と声をかけます。例えば「今、君がもう少し我慢して、このタイミングで走り込んだらチャンスになったね」といったアドバイスです。決してパスを「正確に蹴りなさい」ではないのです。
■田中碧選手の所属チームでは擬人法を使って「サッカーの本質」を伝えている
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
田中碧選手が在籍するフォルトゥナ ・デュッセルドルフにも視察に行った際、広報を務める日本人スタッフの方にとても興味深い話を聞きました。
フォルトナでは小学生に大事なことを伝えるときに、擬人法を使うそうです。動物に例えるのです。
「さあ、君たちはオオカミの群れです。獲物をとらえるために、みんなそれぞれ役割が決まっている。みんなで協力して狩りをして、みんなで美味しい食事をしよう。でも、誰かひとりでも一匹オオカミになってしまうと、協力し合えない。一匹オオカミはひとりでえさをとれなくて死んでしまうんだ。だから一匹オオカミを作ってはいけないよ」
これはサッカーというスポーツはみんなでやるものだ。自分勝手にプレーしないことが大切だ。チームで動かなくてはいけない――そんなサッカーの本質を子どもにわかりやすく伝えるため、狼に例えています。
さらに、ピッチの上で首を振っていっぱい見たほうがいい、と視野を取る重要性を伝えるときは「フクロウの眼のようになれ」を挙げます。フクロウは右と左の眼球をバラバラに動かせます。いろんなところがいっぱい見られるというわけです。
サッカーを理解してもらうために、どうすれば子どもに伝わるかにとてもエネルギーを割いていました。大人から「ちゃんと見ろ」とか「走れ」といった抽象的な声掛けも耳にしませんでした。
メニューはネットでも本でもどこからでも引っ張れます。まずは、ここまで説明したことを参考にして、ボールを運ぶことを理解させてください。メニューはひとりでやらないものを軸に選んでください。
こちらの連載でもメニューの話はたくさん出てくるのでチェックしてみてください。
池上正さんの指導を動画で見る>>
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。