リフティングのノルマを達成しないとトレーニングマッチ以外出場させないチーム、リフティングの回数ってそんなに重要なのか教えて
自主練メニューとしても人気のリフティング。チームによっては回数のノルマがあると思いますが、既定の回数ができないと試合に出さないというほど重要なのでしょうか。
リフティングのノルマを達成しないとトレーニングマッチ以外出場不可というルールがあるチームにいた指導者よりお悩みをいただきました。
ダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ブラジルやドイツの事情や効果的な練習法をお伝えします。
(構成・文島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<お父さんコーチからの質問>
いつも拝見させてもらっています。
最近までU-9年代の保護者コーチとして指導の手伝いをしていました。
チームの方針としてある年代までにリフティングのノルマがあり「達成できない子どもはTM以外の試合出場は認めない」と言うルールがあります。
確かにやって出来ない回数ではありません。
チーム側は、「サッカーが好きで練習しているんだから家でもボールを蹴る時間もつくれば簡単にこなせるノルマ」だと言います。
私も理屈はわかっているつもりですが、
・リフティングのノルマは達成していないがドリブルが上手い、遠くに蹴れるなどの長所がある子どもも試合に出したらいけないのか?
・何故そこまでノルマ達成にこだわるのか?
・子どもからサッカーを取り上げるのか?
と意見したところ数か月後にチームの方針と合わないから指導させるなと言われ、チームを離れました......。
今私は何が子ども達のためになるのかよく分からなくなってしまっています。
やりようによってはボールコントロールを身に着けるのに良い自主練メニューだと思いますが、チームとしては課題をクリアする努力を評価したいということなのでしょうか。確かにそれも大事ですが、課題(ノルマあり)ができていなくても試合経験を積むことで技術も高まっていくのではないかと思うのですが、この年代の育成の在り方ってどうしたらいいのでしょうか。
おすすめのメニューも併せて池上さんの意見を聞かせていただきたいです。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
日本では、一部の指導者がリフティング神話みたいなものに憑りつかれているように見えます。南米の選手や子どもたちにとってリフティングは「遊び」なので、別にそれが練習だと考えてはいません。リフティングが上手な人でもゲームになるとまったく上手ではないことは往々にしてあります。
よって、できない子どもがダメだとも言われないし、できる子が評価されるわけでもありません。指導者たちからも、リフティングとサッカーの能力は別物だととらえられています。
以前、テレビのバラエティ番組でリフティングが上手だという子どもが取り上げられていました。ボールを高く上げずに、小さいバウンドでリフティングしていました。見ていると、ずっと利き足と思われる右の足しか使いません。
小さくバウンドさせて回数を刻むリフティングは、時間をかけたほどには役に立ちません。リフティングがうまい大人が技を見せてくれる講習会に参加したことがありますが、最後に参加者も入れてみんなでゲームをしたら、その人はまったくうまくありませんでした。
サッカーの技量とリフティングうまさは比例しません。そのことを私はもう20数年にわたって言い続けていますが、なかなか理解されません。
なぜ理解されないのかを考えると、リフティングが日本人に向いている技術だからかもしれません。失敗するまでの回数を競う、回数をどれだけできるか。それはまさしく競争です。
しかし、サッカーは競争ではなく「闘争」です。ひとりで行うクローズドスキルのメニューをやるよりも、ゲームのように対人メニューのオープンスキルに時間を費やしたほうがいい。
例えば、オシムさんのトレーニングにリフティングで鳥かごをすることがありました。地面にボールを落とさずに、なおかつ守備の動きをみながら味方にパスをつなげます。すると、それは競争ではなく闘争になります。
結論として、コーチはリフティングの時間をわざわざ取ってまでしなくてもよいでしょう。
リフティングのノルマを達成しないと試合に起用しないなどというのも、私に言わせれば理にかなっていません。空いている時間に子どもたちがリフティングで遊んでいるなら、それはそれでほっとけばいい。
ブラジルの子どもたちは、リフティングを100回も200回もやることを目指してはいません。ボールを浮かせて相手をかわしたり、左右で違う技を入れたりしてボール遊びを楽しんでいます。そういった遊びのなかでボールの扱いが上手くなるのかもしれませんが、あくまで自分がやりたいように、楽しくやっているからうまくなる。リフティングの内容や目的が違うのです。そのことを忘れてはいけません。
私が知っているブラジル人の人たちは「ボールが浮いていると360度どこへでもパスができる」と言います。それは、ボールが地面についていると難しいのですが、浮いているとどこへでもいける。
ただし、そのようなスキルが身につくのは、そういったことを小さいころから遊びとしてやっているからです。
では、欧州ではどうか。例えばドイツサッカー協会はリフティングを推奨しています。協会がコーチたちに提供するDVDやネットで見られるメニュー集にはリフティングも入っています。ところが、それをドイツのコーチたちは子どもたちにやらせません。
なぜならば、2014年W杯ブラジル大会準決勝で、ドイツは「サッカー王国」と呼ばれ続けてきたブラジルを7‐1で破ったからです(競技場の名をとって、ブラジルでは「ミネイロンの惨劇」と呼ばれています)。勢いそのままにドイツは優勝。
この歴史的大勝に「リフティングをしなくても私たちは世界一になれる」という強烈な自信を持ちました。リフティングの練習がなくても、世界一になれる。ワールドクラスの選手を大勢生んできた。自分たちの育成は間違っていないという自負があります。
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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
私が運営している小学生のチームにリフティングにはまっている子がいます。最初はずっとひとりでしていたのですが、私が「コーチとやろう」と誘って2人でパス交換するようになりました。ひとりでやると20回くらいできるのですが、2人でやると全然つながりません。できないからこそ、やる意味があります。
ただし、早く来た時などに一緒にやるだけで、私の練習のなかにリフティングのメニューは一切ありません。指導者の皆さんもそんな考えでいたほうがいいと思います。
とはいえ、最後に「おすすめのメニューは?」との質問がありました。ひとりでやらず2人でやる、複数人でやったほうがいいでしょう。そのうえで、ダイレクトで返す、必ず2回さわってからパスしようといった制約をつけるといいでしょう。
そうなると難易度が上がるので、「これ、リフティングの練習じゃないじゃん」と言われるかもしれませんが。
池上正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
リフティングのノルマを達成しないとトレーニングマッチ以外出場不可というルールがあるチームにいた指導者よりお悩みをいただきました。
ダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ブラジルやドイツの事情や効果的な練習法をお伝えします。
(構成・文島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
いつも拝見させてもらっています。
最近までU-9年代の保護者コーチとして指導の手伝いをしていました。
チームの方針としてある年代までにリフティングのノルマがあり「達成できない子どもはTM以外の試合出場は認めない」と言うルールがあります。
確かにやって出来ない回数ではありません。
チーム側は、「サッカーが好きで練習しているんだから家でもボールを蹴る時間もつくれば簡単にこなせるノルマ」だと言います。
私も理屈はわかっているつもりですが、
・リフティングのノルマは達成していないがドリブルが上手い、遠くに蹴れるなどの長所がある子どもも試合に出したらいけないのか?
・何故そこまでノルマ達成にこだわるのか?
・子どもからサッカーを取り上げるのか?
と意見したところ数か月後にチームの方針と合わないから指導させるなと言われ、チームを離れました......。
今私は何が子ども達のためになるのかよく分からなくなってしまっています。
やりようによってはボールコントロールを身に着けるのに良い自主練メニューだと思いますが、チームとしては課題をクリアする努力を評価したいということなのでしょうか。確かにそれも大事ですが、課題(ノルマあり)ができていなくても試合経験を積むことで技術も高まっていくのではないかと思うのですが、この年代の育成の在り方ってどうしたらいいのでしょうか。
おすすめのメニューも併せて池上さんの意見を聞かせていただきたいです。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
日本では、一部の指導者がリフティング神話みたいなものに憑りつかれているように見えます。南米の選手や子どもたちにとってリフティングは「遊び」なので、別にそれが練習だと考えてはいません。リフティングが上手な人でもゲームになるとまったく上手ではないことは往々にしてあります。
よって、できない子どもがダメだとも言われないし、できる子が評価されるわけでもありません。指導者たちからも、リフティングとサッカーの能力は別物だととらえられています。
■サッカーの技量とリフティングうまさは比例しない
以前、テレビのバラエティ番組でリフティングが上手だという子どもが取り上げられていました。ボールを高く上げずに、小さいバウンドでリフティングしていました。見ていると、ずっと利き足と思われる右の足しか使いません。
時間を使ってやるのであれば、左右両方使ったり、2人でパス交換しながらやればいいのにと思いました。
小さくバウンドさせて回数を刻むリフティングは、時間をかけたほどには役に立ちません。リフティングがうまい大人が技を見せてくれる講習会に参加したことがありますが、最後に参加者も入れてみんなでゲームをしたら、その人はまったくうまくありませんでした。
サッカーの技量とリフティングうまさは比例しません。そのことを私はもう20数年にわたって言い続けていますが、なかなか理解されません。
なぜ理解されないのかを考えると、リフティングが日本人に向いている技術だからかもしれません。失敗するまでの回数を競う、回数をどれだけできるか。それはまさしく競争です。
しかし、サッカーは競争ではなく「闘争」です。ひとりで行うクローズドスキルのメニューをやるよりも、ゲームのように対人メニューのオープンスキルに時間を費やしたほうがいい。
例えば、オシムさんのトレーニングにリフティングで鳥かごをすることがありました。地面にボールを落とさずに、なおかつ守備の動きをみながら味方にパスをつなげます。すると、それは競争ではなく闘争になります。
■リフティングのノルマが起用条件とは、理にかなってない
結論として、コーチはリフティングの時間をわざわざ取ってまでしなくてもよいでしょう。
リフティングのノルマを達成しないと試合に起用しないなどというのも、私に言わせれば理にかなっていません。空いている時間に子どもたちがリフティングで遊んでいるなら、それはそれでほっとけばいい。
さあ練習するよと言ったら、リフティングはやめて違うトレーニングをしてください。
ブラジルの子どもたちは、リフティングを100回も200回もやることを目指してはいません。ボールを浮かせて相手をかわしたり、左右で違う技を入れたりしてボール遊びを楽しんでいます。そういった遊びのなかでボールの扱いが上手くなるのかもしれませんが、あくまで自分がやりたいように、楽しくやっているからうまくなる。リフティングの内容や目的が違うのです。そのことを忘れてはいけません。
私が知っているブラジル人の人たちは「ボールが浮いていると360度どこへでもパスができる」と言います。それは、ボールが地面についていると難しいのですが、浮いているとどこへでもいける。
相手のマークをかいくぐりやすく、パスも出しやすいと話していました。
ただし、そのようなスキルが身につくのは、そういったことを小さいころから遊びとしてやっているからです。
■ワールドカップ優勝経験のあるドイツでも協会は推奨しているが......
では、欧州ではどうか。例えばドイツサッカー協会はリフティングを推奨しています。協会がコーチたちに提供するDVDやネットで見られるメニュー集にはリフティングも入っています。ところが、それをドイツのコーチたちは子どもたちにやらせません。
なぜならば、2014年W杯ブラジル大会準決勝で、ドイツは「サッカー王国」と呼ばれ続けてきたブラジルを7‐1で破ったからです(競技場の名をとって、ブラジルでは「ミネイロンの惨劇」と呼ばれています)。勢いそのままにドイツは優勝。
この歴史的大勝に「リフティングをしなくても私たちは世界一になれる」という強烈な自信を持ちました。リフティングの練習がなくても、世界一になれる。ワールドクラスの選手を大勢生んできた。自分たちの育成は間違っていないという自負があります。
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■制約をつけて難易度を上げるリフティング練習法
私が運営している小学生のチームにリフティングにはまっている子がいます。最初はずっとひとりでしていたのですが、私が「コーチとやろう」と誘って2人でパス交換するようになりました。ひとりでやると20回くらいできるのですが、2人でやると全然つながりません。できないからこそ、やる意味があります。
ただし、早く来た時などに一緒にやるだけで、私の練習のなかにリフティングのメニューは一切ありません。指導者の皆さんもそんな考えでいたほうがいいと思います。
とはいえ、最後に「おすすめのメニューは?」との質問がありました。ひとりでやらず2人でやる、複数人でやったほうがいいでしょう。そのうえで、ダイレクトで返す、必ず2回さわってからパスしようといった制約をつけるといいでしょう。
そうなると難易度が上がるので、「これ、リフティングの練習じゃないじゃん」と言われるかもしれませんが。
池上正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。