日本代表はかなり強くなっているけど、日本のサッカーがもっともっと進化するためには育成年代で何が必要か教えて
年内最後の連載は、編集部からの相談になります。2026年のワールドカップに向けて来年はますますサッカーが盛り上がっていくのは間違いありません。
そこで今回は、日本サッカーがさらに強くなるために、私たちはトップ選手たちから何を学べばいいのか、育成年代でどんなことが必要なのかを池上正さんに伺いました。
(構成・文島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<編集部からの質問>
前回W杯前は、ドイツ代表、スペイン代表を破るなど日本中を熱くしたW杯日本代表。そこからさらに成長を続け、今年10月には初めてブラジルに勝利しました。(レギュラークラスが不参加、など色々な意見があるにしても)
若手の台頭も目覚ましいと感じていますし、彼らの多くは現在ではほとんどの代表メンバーが海外でプレーをしています。
必ずしもJリーグより格上のリーグばかりではないと思いますが、日本では体験できないスピードやフィジカル、他言語でのコミュニケーションなどが選手を成長させるのかと思います。
日本サッカーがさらに強くなるために、私たちは代表の姿勢から何を学べばいいのか、育成年代でどんなことが必要なのか(サッカーの理解、判断、技術、メンタルなど)、指導現場へのアドバイスをいただけませんでしょうか。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
まずは、海外クラブといった環境に飛び込んでいくには、どんな力が必要なのか、育成年代で育てなくてはいけないか?という質問からお答えします。
今の日本代表は、まさしく海外に出た選手たちが活躍しています。その点から、成長するためには海外に行くしかないのかと言われれば、今はそうかもしれません。
また質問文に、海外クラブについて「必ずしもJリーグより格上のリーグばかりではない」と書かれていますが、本当にそうでしょうか?
私は一昨年、トルコに行って、国内リーグの試合を一度観戦しました。
具体的に言うと、攻撃に入ったときのスピード感でしょうか。守備からアタックへの切り替えが素早く、全員が攻撃参加していく。スタンドから見ていて「あのスペースに誰か入ってボールがつながればいいのに」と思った瞬間、そうなるのです。両チームとも、チャンスを逃さないぞという意識の高さが垣間見えました。
一方のJリーグを見てると、アタックに転じたとき「ああ、あそこに行けばいいのに、どうして行かないのかな?」という場面が結構多くあります。前に運ばず、ボールが何度も後ろに下がってくるのです。チャレンジしないように見えます。
私が見てきた限りで言うと、海外で育成年代である小学生や中学生たちの試合を見ていると、前に行くチャンスを逃しません。ここ行けるぞ!と思うと、全員が素早く前へと進みます。
このスピード感と、アタックにかける人数が、日本の子どもたちとはまったく違うのです。もちろんフォワードの子どもは前に行きますが、「とにかく前に走れ」と指示されるので走っている印象を受けます。
つまり、状況を見ずに突っ込んでいることが多い。三人も相手がいるところにどうして突っ込むのかな?
と首をかしげたくなります。
欧州など海外の子どもたちはそれを回避して、一番早くゴールに行くための道筋を見つけることができるようです。
サッカーのセオリーを知っているので、全員の意統一ができている。ひとり一人の理解がつながっているので、人とボールが連動します。誰を使えばあそこに行けるのか、自分は今どんな役割をしたらいいのかをよくわかっています。
そのようなサッカーに対する理解や判断を育てる指導が、日本ではまだまだ足らないと感じています。
例えば、先日のブラジル戦(親善試合)で、日本は最初に一失点しました。あの時のブラジルのつながり方は、日本には見られないものです。見事でした。
あの試合は日本が勝利したことが好意的に報道されましたが、プレーの質は明らかに違いました。その差は何なのか。そこを日本の指導者がしっかり見極められないと、育成年代もよくならないと思います。
その差はどこから生まれるのか?それは、上述したように「理解・判断」だと考えています。さまざまな講習会でも話しているように、サッカーは足元の技術がないとダメだというような見方ではなく、セオリーを理解したうえで攻守ともに仲間とつながることが大事です。
ボールがないところで、どこにポジションを取るか、いいポジションにいつも動いているといった戦術理解を、まずは日本の指導者たちができるようにならないといけません。
例えば、足が速い選手をトップで起用して、その子に長いボールを集めるよう指示する。それを追いかけて点を取るようなことしか考えない指導では、いつまでたっても進化しないと考えています。
他方、そういったサッカーのセオリーや、それを教えるための指導法を積極的に学ぶコーチも増えてきました。
ただし、学んで終わっているケースも少なくないのではないかと危惧しています。ご自分の学びを現場の指導に落とし込んだり、ほかのコーチに伝えて「自分たちのクラブを変えよう」というようなムーブメントを起こすまでには至っていないようです。それらを皆さんが意識してやっていただければ進化するはずです。
[[pagebreak]]
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
先日、千葉県市川市と浦安市の両サッカー協会が合同で、指導者向け講習会を開いてくださいました。その会場で私は「市川市サッカー協会と浦安サッカー協会の2つだけでいいから、リーグ戦を作りませんか?」と提案しました。
チームのレベルごとに、年間30試合くらいのリーグ戦を行うのです。
その学年が1年生で始めて6年経つと、全学年のリーグ戦が出来上がります。それにはなぜリーグ戦にするのか、リーグ戦にした場合の1週間の過ごし方、課題を設けて次にトライするといった指導方法も伝えたうえでやります。
そのリーグ戦がひとつのムーブメントになって、それぞれのクラブ、指導者が変容していったとしたら、日本のサッカーは大きく進歩する。そう考えています。
池上正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
そこで今回は、日本サッカーがさらに強くなるために、私たちはトップ選手たちから何を学べばいいのか、育成年代でどんなことが必要なのかを池上正さんに伺いました。
(構成・文島沢優子)
<編集部からの質問>
前回W杯前は、ドイツ代表、スペイン代表を破るなど日本中を熱くしたW杯日本代表。そこからさらに成長を続け、今年10月には初めてブラジルに勝利しました。(レギュラークラスが不参加、など色々な意見があるにしても)
若手の台頭も目覚ましいと感じていますし、彼らの多くは現在ではほとんどの代表メンバーが海外でプレーをしています。
必ずしもJリーグより格上のリーグばかりではないと思いますが、日本では体験できないスピードやフィジカル、他言語でのコミュニケーションなどが選手を成長させるのかと思います。
そういった環境に飛び込んでいくためには、選手としてどんな力(思考?)が必要でしょうか。または日本国内にいても成長できるには、環境面も含め何が必要でしょうか。
日本サッカーがさらに強くなるために、私たちは代表の姿勢から何を学べばいいのか、育成年代でどんなことが必要なのか(サッカーの理解、判断、技術、メンタルなど)、指導現場へのアドバイスをいただけませんでしょうか。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
まずは、海外クラブといった環境に飛び込んでいくには、どんな力が必要なのか、育成年代で育てなくてはいけないか?という質問からお答えします。
■成長するためには海外に行くしかないのか
今の日本代表は、まさしく海外に出た選手たちが活躍しています。その点から、成長するためには海外に行くしかないのかと言われれば、今はそうかもしれません。
また質問文に、海外クラブについて「必ずしもJリーグより格上のリーグばかりではない」と書かれていますが、本当にそうでしょうか?
私は一昨年、トルコに行って、国内リーグの試合を一度観戦しました。
たまたま下位チーム同士の試合だったのですが、私にはJリーグより面白く感じました。
具体的に言うと、攻撃に入ったときのスピード感でしょうか。守備からアタックへの切り替えが素早く、全員が攻撃参加していく。スタンドから見ていて「あのスペースに誰か入ってボールがつながればいいのに」と思った瞬間、そうなるのです。両チームとも、チャンスを逃さないぞという意識の高さが垣間見えました。
一方のJリーグを見てると、アタックに転じたとき「ああ、あそこに行けばいいのに、どうして行かないのかな?」という場面が結構多くあります。前に運ばず、ボールが何度も後ろに下がってくるのです。チャレンジしないように見えます。
そのような違いを強く感じています。
■海外の選手は何手か先の展開が見えている
私が見てきた限りで言うと、海外で育成年代である小学生や中学生たちの試合を見ていると、前に行くチャンスを逃しません。ここ行けるぞ!と思うと、全員が素早く前へと進みます。
このスピード感と、アタックにかける人数が、日本の子どもたちとはまったく違うのです。もちろんフォワードの子どもは前に行きますが、「とにかく前に走れ」と指示されるので走っている印象を受けます。
つまり、状況を見ずに突っ込んでいることが多い。三人も相手がいるところにどうして突っ込むのかな?
と首をかしげたくなります。
欧州など海外の子どもたちはそれを回避して、一番早くゴールに行くための道筋を見つけることができるようです。
何手か先の展開が見えているのです。
サッカーのセオリーを知っているので、全員の意統一ができている。ひとり一人の理解がつながっているので、人とボールが連動します。誰を使えばあそこに行けるのか、自分は今どんな役割をしたらいいのかをよくわかっています。
そのようなサッカーに対する理解や判断を育てる指導が、日本ではまだまだ足らないと感じています。
■ブラジル戦の1失点目に見る「プレーの質の差」
例えば、先日のブラジル戦(親善試合)で、日本は最初に一失点しました。あの時のブラジルのつながり方は、日本には見られないものです。見事でした。
あの試合は日本が勝利したことが好意的に報道されましたが、プレーの質は明らかに違いました。その差は何なのか。そこを日本の指導者がしっかり見極められないと、育成年代もよくならないと思います。
その差はどこから生まれるのか?それは、上述したように「理解・判断」だと考えています。さまざまな講習会でも話しているように、サッカーは足元の技術がないとダメだというような見方ではなく、セオリーを理解したうえで攻守ともに仲間とつながることが大事です。
ボールがないところで、どこにポジションを取るか、いいポジションにいつも動いているといった戦術理解を、まずは日本の指導者たちができるようにならないといけません。
例えば、足が速い選手をトップで起用して、その子に長いボールを集めるよう指示する。それを追いかけて点を取るようなことしか考えない指導では、いつまでたっても進化しないと考えています。
他方、そういったサッカーのセオリーや、それを教えるための指導法を積極的に学ぶコーチも増えてきました。
ただし、学んで終わっているケースも少なくないのではないかと危惧しています。ご自分の学びを現場の指導に落とし込んだり、ほかのコーチに伝えて「自分たちのクラブを変えよう」というようなムーブメントを起こすまでには至っていないようです。それらを皆さんが意識してやっていただければ進化するはずです。
[[pagebreak]]
■日本のサッカーが大きく進歩するために育成年代から取り組めること
先日、千葉県市川市と浦安市の両サッカー協会が合同で、指導者向け講習会を開いてくださいました。その会場で私は「市川市サッカー協会と浦安サッカー協会の2つだけでいいから、リーグ戦を作りませんか?」と提案しました。
チームのレベルごとに、年間30試合くらいのリーグ戦を行うのです。
そんな町が出てきたら、日本も変わりますよと伝えたら、小学校1年生から始めようかと検討していると聞きました。
その学年が1年生で始めて6年経つと、全学年のリーグ戦が出来上がります。それにはなぜリーグ戦にするのか、リーグ戦にした場合の1週間の過ごし方、課題を設けて次にトライするといった指導方法も伝えたうえでやります。
そのリーグ戦がひとつのムーブメントになって、それぞれのクラブ、指導者が変容していったとしたら、日本のサッカーは大きく進歩する。そう考えています。
池上正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。