ゆっくりいこうぜ!映画『そして父になる』が伝える、「なりたい自分になっていく」いきかた
父親や母親という存在は、私たちにとっては生まれた時からすでに親ですが、最初から親であったわけではありません。子供がこの世に生を受けることによって、親は親という立場が作られ、戸惑いながらも子供とともに成長しながら親になっていく。 これって実は、なんにでも言えることではないでしょうか。たとえば、OLの仕事。入社したその日から肩書きはOLになれますが、そこから仕事の内容を学んで、望まれることを自ら進んで考えてやれるようになるには、本当の意味で、少しずつOLになっていく。 そう、人は少しずつなにかに「なっていく」のです。向き合うことで、はじめて「なっていく」今年、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、会場では10分以上もスタンディングオベーションが鳴り止まなかった映画『そして父になる』には、幼児取り違え事件をきっかけに、はじめて息子を意識し、不器用ながらも向き合いながら、少しずつ精神的にも父になっていく姿が繊細に描かれています。親子とは血のつながりなのか、それとも一緒に過ごした時間なのか。
やるせないほど辛いであろう登場人物たちの感情は最低限に抑制され、それでも受け入れて生きていかなければならない現実とわずかな光が、じわじわと静かに沁み込んでくる。