【シネマモード】美しき女の闘いを制するのは?
(Photo:cinemacafe.net)
例えば、今回アカデミー賞の主要4部門にノミネートされた『キッズ・オールライト』。製作の初期段階から参加していた主演女優、ジュリアン・ムーアが、相手役としてぜひにと、直接e-mailを送った相手がもうひとりの主演女優、アネット・ベニング。
監督、そしてジュリアンの期待に応え、アネットは2人の子供を持つレズビアンのカップルの大黒柱を堂々と演じ、どんな家族にも起こりうる問題を抱えながらも、家族を守ろうとする母ライオンのような強さと、愛する者を失いそうになる現実に怯える繊細な女性の両面を表現しました。特に後半の演技は、恐ろしいほどの迫力に満ちていて、ちょっとゾッとしたほど。そして、見事に4度目のアカデミー賞ノミネートとなりました。
ゴールデン・グローブ賞では、アネット、ジュリアンともに主演女優賞候補になりましたが、アカデミー賞ではアネットのみが候補に。それでもジュリアンはアネットを誘ったことを後悔などせず、アネットのノミネートを心から喜んでいるのでは、と勝手に思っています。ノミネートの常連ではあるものの、未だ無冠のアネットが受賞したら、やはり無冠のジュリアンとどのように喜びを分かち合うのかも見ものでしょう。
一方、彼女の強力なライバルとなるのが、ナタリー・ポートマン。『ブラック・スワン』でバレエダンサー役に挑んだ彼女。
「白鳥の湖」で、白鳥役と黒鳥役を演じわける難しさを体現しました。少女のような純真さを残した女性が、孤独な闘い、表現の可能性への挑戦に明け暮れる中で、あせり、ライバルへの憧れと嫉妬、芸術への献身によって我を失っていく様を、壮絶な心理劇として極限のレベルで表現しています。観ているうちに、役になりきれず追い詰められながら、やがて狂気に囚われていくヒロインの心に次第に魅せられていくのですが、クライマックスでは言いようもない感情の波に襲われます。
ひとことで言うと、とにかく臨場感のすさまじい作品。この作品が持つ独自性、独創性、映画的表現力が場面を追うごとに心をぐいぐいと掴んでくるのです。そのすさまじさには、ナタリーの存在なしには到達できなかったはず。バレエダンサー役として説得力を持つ体づくりや動きはもちろん、自らが持つ純真なイメージを払拭するそら恐ろしいほどの捨て身の演技は、文句なくオスカー級。注目の2人、どちらが獲っても文句なしです。
また、助演女優賞でのノミネートではありますが、私が気になる女優がひとり。ヘレナ・ボナム=カーターです。ここのところ、こってりとした化粧や妙な仮装がお似合いだった彼女ですが、今回『英国王のスピーチ』で見せたのは、英国史上最も内気な国王・ジョージ6世を優しく支える妻・エリザベス役。最初に登場したシーンでは、「そうそう、普通の役もできる人だったんだ」と思ってしまいました。ロンドン生まれ、上流階級出身として知られる彼女ですが、ぴったりすぎる英国淑女役は、決して“普通”ではないのですが、久々に正統派の演技を見せられて、しみじみと彼女が良い女優だったことを思い出したのでした。
先日、とあるメディアで「オスカー女優たちの離婚率が高い」という記事を見つけて、なるほどと思ったのですが、私が今回注目したアネット、ナタリー、ヘレナ・ボナム(ティム・バートンとパートナー)が受賞した際には、ぜひそんなことにならないようにと願いつつ、賞レースのゆくえを見守ることといたしましょう。
(text:June Makiguchi)
© Todd Wawrychuk / cA.M.P.A.S.
特集「2011年 第83回アカデミー賞」
http://www.cinemacafe.net/special/oscar2011/
■関連作品:
キッズ・オールライト 2011年4月29日より、渋谷シネクイント、TOHOシネマズ シャンテ、シネリーブル池袋ほか全国にて公開
© 2010 TKA Alright, LLC All Rights Reservedブラック・スワン 2011年5月13日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国にて公開
© 2010 Twentieth Century Fox.英国王のスピーチ 2011年2月26日よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開
© 2010 See-Saw Films. All rights reserved.
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