ジャーナリスト・武田頼政に聞く、八百長問題「いまこそ、転換する時期」
(Photo:cinemacafe.net)
3年前に執筆した一連の相撲報道で「雑誌ジャーナリズム賞」を受賞した武田氏だが、この報道をめぐり、大相撲協会や力士らが起こした集団訴訟により多額の損害賠償を言い渡された。だがその1年後、大相撲の八百長が表沙汰となり、ついに大相撲協会もそれを認めた。
本作の原作者であるS・D・レヴィット氏とS・J・ダブナー氏は、この問題もデータによって分析。相撲界にはびこる“インセンティブ”に注目していく。どのような分析をまとめたのかは観てのお楽しみだが、彼らのやり方について武田氏はこう語る。
「数値解析によって人間の行動パターンを定義することができ、人間は欲得(インセンティブ)の前には何でもやらかすことが証明されたのが興味深いところです。ただし、八百長は千秋楽の成績によってのみ解明できるほど単純ではありません。いわゆる星回しの存在をはじめ、相撲界が組織的に利益を融通し合う構造を育んだ、歴史的経緯にも目を向けるべきです」。
さらに、レヴィットとダブナーがこの潜在的な問題点として指摘するのが、相撲界特有の“ムラ社会”。武田氏に言わせれば、「日本は完成された社会主義国家だと言われますが、その典型が大相撲」とのこと。
「ピラミッドの頂点にいる横綱には、彼に流入する金銭的な利益をムラ長(オサ)として社会下部に還元する“義務”があり、その1つがシステムとしての八百長です。角界では古来から伝わる独特の隠語がありますが、それを駆使する彼らは、さらに花札博打などのマウンティングによって仲間であることを確認しているわけです」。
今回開かれた技量審査場所では入場料も無料、懸賞も取りやめとなった。
改めて相撲というスポーツと“インセンティブ”の関係について考えさせられる。「この映画が明らかにしたように、欲得のためだったら悪事も辞さないのが人間です。しかし現世利益を得るからこそよく働くのも人間です。だからむしろ、八百長をしなくてもインセンティブを満足できる勝負環境を作ることの方が重要だと思います。また、相撲の根本にあるべき“清廉さ”がなければ、力士として生きる意味を失うのだということも同時に再確認すべきです」と武田氏。「お金目あてで始めた勉強でも、いずれ道理を学ぶことで生きる目的に変わるはずです。インセンティブを自分にどう当てはめるかによって、人生にもたらす意味は変わってくるのではないでしょうか」。
“国技”として2000年の歴史を誇ってきた相撲。
八百長問題の発覚後、その信頼を取り戻すにはまだ時間を要するだろうが、果たして今後、相撲がたどる未来とは…?
「現在の大相撲は、江戸勧進相撲の様式を墨守することで生計を立て、さらに神事や各時代の権力者とも密接に関係を結ぶことによって、国技としての地位を守ってきました。しかし、いまは明らかに転換の時期に来ています。私は、この相撲ほど日本人の精神性を表すものはほかにないと思います。その相撲が今後も魅力あるものとして存在し続けるためには、“競技性”を失わないことが重要です。そのための組織の大幅な改革が必要でしょう」。
本作で展開される“経済学”について、「人間の行動原理はきわめてシンプルなのだということを再確認できた」と述べる武田氏。“経済”という言葉を敬遠しがちな方でも、本作を観れば、それがいたって身近なものだと感じることができるはず?
『ヤバい経済学』は5月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開。
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ヤバい経済学 2011年5月28日より新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
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