「アリ・アスターがスマホの見過ぎなんだよって言っている映画」『エディントンへようこそ』トークセッション開催
A24製作で贈る、アリ・アスター監督の最新作『エディントンへようこそ』が12月12日(金)に全国公開される。この度、TBSラジオ「アフター6 ジャンクション2」とのコラボレーションで試写会が開催され、上映後には同番組のライムスター宇多丸、宇垣美里、そしてゲストとして映画ライターの村山章を迎えたトークセッションが行われた。
街中を巻き込んでの市長選挙の中で、陰謀論やフェイクニュースが跋扈し、街が混乱に陥っていくさまを描く本作。だが予告編にもあるように、クライマックスにかけては激しい銃撃戦も展開する。
宇垣は「アリ・アスターに対して、アクションシーンのイメージがなかったのでびっくりしましたし、面白かったです」と語り、村山も「そんなことができる監督だとは思っていなかった」と同意。
宇多丸は「(アリ・アスターには)自分なりの現代版西部劇をやりたいという思いがかなり初期からあったようなので、こういう銃撃戦をやりたいというアイディアがあったのかも」と推察する。
また、宇多丸は「コーエン兄弟っぽい」とも指摘。「後半の稚拙な隠蔽工作(笑)が『ファーゴ』っぽいし、敵の姿が見えないからこそ圧がものすごい銃撃戦など『ノー・カントリー』にも近いものを感じた」と分析、村山は「コーエン兄弟っぽくもあり、もはやアクション演出や画面作りはスピルバーグっぽさすらも感じさせた」とアクションシーンの演出、画作りを称えた。
宇垣美里「全ての瞬間に不安の芽が埋まっている」
今回、アリ・アスターは初めてセットを使わずに全編でロケーション撮影を敢行、作り込み過ぎずに現場でカメラマンと相談しながらカット割を行なうなど、これまでとは異なるアプローチによる映画づくりを行った。
最終的には、神のような“上から”の視点に着地してゆく本作に対して、宇多丸は「結局やっぱりアリ・アスターはアリ・アスターというか、過去作とも完全に通じる終わり方ですよね。人類全てを突き放して見ているというか...それゆえに、全員に対して意地悪すぎるところはありますけど(笑)」と語る。
宇垣は、映画を見た体感として「全ての瞬間に不安の芽が埋まっているというか、全部が不安になって、ずっと地面に足が着いてない感じがする」と語るが、村山は「“不安”というのがアリ・アスターの映画を支えている一番の要素」と話す。「人間は防衛本能として最悪な事態を想定するものですが、それに取り憑かれるように映画を作っている」と指摘しつつ、「今回、初めて(個人的な不安ではなく)社会不安が前面に出ていると思う」と従来の作品との違いを指摘。宇多丸は「結局、その空気感はいまの2025年と同じように感じる」と応じる。
村山も「平たく言えば、インターネットとSNSへの怒りと不信がずっと続いている映画。過去の3作は主人公の感情についての映画だったけど、今回はいままでで一番理屈が通っていて、“社会派”と言っていい作品だと思います」と分析。
宇多丸も「アリ・アスターが(観客に)『な? スマホの見過ぎなんだよ』って言っている映画(笑)。スマホを見ている内におかしくなった人たちの話」と同意し、宇垣も「『携帯を捨てて街に出よう!』ということ」とうなずく。
一方で、村山はアリ・アスターが従来のような超自然を描くような作品ではなく、現実の世相を反映した“社会派”の映画を撮らなくてはいけない、という現実についても言及。
「アリ・アスターにすら、こんなに世の中にコミットする映画を撮らせてしまう現実が本当にひどい!」と嘆き、宇多丸も「アリ・アスターの不安が、いままでは抽象的、もっと実存的なものだったので、ホラーや超自然的なものを描いていればよかったけど、現実の社会が怖くて仕方がないという映画を撮らせてしまった...」と応えた。
村山は、同じことは、今年公開されて話題を呼んだポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』にも言えることと話し、宇多丸は本作と『ワン・バトル・アフター・アナザー』は“裏表”の関係にあるとも指摘。「ポール・トーマス・アンダーソンが、 あんなわかりやすい“希望”を描くしかない時代になっている」(宇多丸)、「さすがに言わなきゃ...となっている」(宇垣)と現実の社会の問題の歪みに表情を曇らせていた。
また、本作は、保守やリベラルといった垣根を超えて「全方位的に茶化している映画」(村山)だからこそ、映画を見た人々からは、その描写に対し、怒りを感じる人も多く、賛否を呼んでいる。
例えば劇中で「Woke(※人種差別、性差別、LGBT差別などの社会的な不平等に対する気づきを意味する言葉)」を主張する若者たちを“イジる”ような表現も登場するが、宇多丸は 「(アリ・アスターの考えとして)動機が間違っているとはもちろん思わないけど、その怒りの矛先がちょっと...というのがあるんじゃないか」と指摘、一方で村山は「映画を見て『だから Wokeのやつらはバカだ!』と思ってしまう人もいるだろうし、(こうした描写が)リトマス試験紙的な役割になっている」と語った。
アリ・アスターがより社会や現実に向き合ってつくり上げたといえる本作。
宇多丸は「アリ・アスターってA24があって本当によかったと思う(笑)。こんな映画、誰がこんな規模でつくらせますか?」とA24というプロダクションの存在の大きさについても語り、村山も「『ボーはおそれている』の後でこれを撮るって、普通の監督のキャリアではありえない(笑)」と語ると、会場は笑いに包まれていた。
『エディントンへようこそ』は12月12日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開。
(シネマカフェ編集部)
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