【インタビュー】齊藤京子、自身とも重なる役を演じて思うこと「アイドルが恋をするのは罪なのか?」という問い――その先にあるもの
「アイドルが恋をするのは罪なのか?」という、挑発的なテーマを扱う映画『恋愛裁判』。恋愛禁止というルールを破ったことで、社会的な制裁の渦中へと放り込まれるひとりの女性アイドルが主人公だ。実際の裁判をモチーフに、彼女が下す決断と覚悟を描き出す本作は、観る者の価値観を静かに、しかし確実に揺さぶってくる。
監督は『淵に立つ』『LOVE LIFE』で国際的評価を確立してきた深田晃司。ヒロイン・真衣を演じるのは、元・日向坂46の齊藤京子。「齊藤さんとの出会いがなければ、この映画は完成しなかった。絵空事でしかなかった脚本に全身全霊で血肉を与えてくれた」。そう深田監督に言わしめた彼女は、本作で“演じる”というより、真衣というひとりの人間として立ち続けている。
自身とも重なる役柄 「今までの経験が活かせた」
――完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
ドキュメンタリー映画を見ているような深田監督作品らしさを出せたのではないかなと思い、ほっとしたというのが最初の感想でした。
――アイドルグループのセンターという、ご自身と重なる立場を演じた感想は?
アイドルの恋愛に関する裁判を題材にしているということで、オファーをいただいたときは、とにかく衝撃でした。でも、実際には、アイドル時代の思い出し作業のようなものも多く、今までの経験が活かせたので演じやすかったです。何曲も劇中歌があり、それに振り入れをし、ミュージックビデオやライブシーンを撮影したりしましたが、すっと入っていけました。撮影は、卒業してから半年後でしたが、毎日のように歌って踊っていた生活を振り返り、懐かしさのようなものを感じならが、楽しんで演じることができました。
――物語の中で、恋愛に関して真衣とは異なる選択をするメンバーも描かれます。その対比によって浮かび上がるのは、真衣の“恋愛観”というよりも、彼女の生き方そのもののように感じます。
アイドルは恋愛禁止だと分かってはいるものの、ひとりの人間として生まれてきたのに、なぜ人生の中の大事な感情を、こんなにもバッサリ排除させられなきゃいけないんだろうと葛藤する、そんな人物なんじゃないかなと思いました。
――真衣にとって恋愛は、「選択の自由」の象徴なのかもしれませんね。
人生になぜ自分らしさを求めてはいけないのかという疑問。自分らしさを求めるための選択肢を待つことに重きを置くという感じですね。
「間違いないと強く信じて」 周囲を驚かせたグループ卒業
――作中、真衣は悩みながらも、絶対に失いたくないものをしっかり選び取っていったという印象があります。齊藤さんはこれまで岐路に立たされたときに、何をよりどころにして決断してきたのでしょう。
私は真衣ほど強くないので、客観的なことだったり、メリットだったり、そういうものも考えますね。でも、確かに私がグループを卒業する時には、結局、自分で決めたなあと思っていて。
――ファンの驚きや周囲の反対はある程度予想できたかと思いますが、それでも、自分を信じて歩めた理由は?
グループの中では卒業が早い方だったので、ファンの方から「早くない?」「衝撃」と言われました。
それでも、ここがベストなタイミングだ、間違いないと強く信じて行動できた。自分の中では、アイドルとしてやりたかった夢を全て叶えられた、もうやるだけやったっと納得できたことは大きかったですね。それに、明確にお芝居の道に進みたいという希望もありました。母を含め、本当に数人にしか相談せず、その意見を踏まえた上で、自分の選ぶ道に間違いはないと思って卒業できた。そういう意味では、真衣が自分の信念に従い進んでいくのと重なるのかも知れません。
――齊藤さんの演技で今回印象的だったのは、その静けさでした。声のトーン、間の取り方、感情の出し入れなど、どれもが抑制されていてとてもリアリティを感じます。アイドルという華やかさもありながら、後に難しい選択をしていく一人の女性として、終始、筋が通っているように思いました。
よりリアルに、ナチュラルにというのは意識していました。ドキュメンタリーのような質感を持つ深田作品では、それぞれの役者さんの演技もより自然に感じます。ですから、お芝居をしている感をなくすよう意識しました。
――その結果、感情は説明的ではなく、滲み出るように伝わり、観客は“演技”を見るのではなく、真衣の“選択の瞬間”に立ち会う、そんな感覚を覚えます。私にはこのスタイルのお芝居の方がやり易かったです。台本に書かれているセリフが普通に喋っているような言葉だったというのもありますが。その言葉を今、目の前にいる人に伝えるというイメージで演じました。スクリーンの向こう側のお客様のことは考えず、まずここの場での会話を成立させることに意識を集中し、そうすることで気持ちが画面の向こう側にいる多くの方にリアリティを持って伝わると信じていました。
「アイドルの視点で」 見て考えていただけたら
――物語後半、映画は恋愛ドラマから法廷劇へと一気に転調します。緊張感溢れる裁判シーンへと入って行く難しさはあったんでしょうか?
アイドルパートと裁判パートは本当に別作品のようで、現場も全く違う雰囲気だったので、気持ちの切替えができました。アイドルパートが楽しかったからこそ、裁判シーンは、演じていて辛くもありましたね。特に、最後に大きな決断をする場面では、自分の信念をまっすぐ持ち続けていく彼女の強さ、それに付随して起きる様々なことに対する切なさのようなものがあって、とても胸が締め付けられました。
――幸福な時間の後に断罪の場が訪れます。真衣が下す最後の決断は、彼女の人生だけでなく、周囲との関係性も大きく変えていきますが、改めて、「アイドルが恋をするのは罪なのか?」という問いについて、どうお感じになりますか?
今考えても答えがでない問題です。SNSでも色々な意見がありますし、ましてやアイドルだった私がこうですと言うのもまた違うし。ただ一つ確かなのは、アイドルもまた一人の人間であるという事実。
アイドルという職業がどういうものなのか、この映画を見るとよくわかりますし、ファンの方がアイドルの視点で世の中を見るということはなかなかないと思うんです。そんな視点で、ファンの方にもこのテーマについて考えていただけたら嬉しいです。
恋愛は本来、個人の自由である。だが、そう単純に割り切れない構造が存在するのも事実だ。『恋愛裁判』は、誰かを断罪する映画ではない。一人の女性が、自分自身を見つめ直し、何を守り、何を手放すのかを選ぶ物語だ。その過程を見守る者は、真衣の選択に賛成するかもしれないし、反対するかもしれない。だが、どちらであっても、観終えた後には、自分自身の前提が静かに揺らいでいるはずだ。
その揺らぎこそが、この映画の核心と言えるだろう。
ヘアメイク:木戸出 香
スタイリスト:藤井エヴィ
(text:June Makiguchi/photo:Jumpei Yamada)
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恋愛裁判 2026年1月23日より全国東宝系にて公開
©2025「恋愛裁判」製作委員会