愛あるセレクトをしたいママのみかた

国際共同制作はどう動き出したのか? 前畑祥子プロデューサーに聞く「台灣漫遊録」ドラマ開発の舞台裏

cinemacafe.net
国際共同制作はどう動き出したのか? 前畑祥子プロデューサーに聞く「台灣漫遊録」ドラマ開発の舞台裏


台湾の小説「台灣漫遊録」のドラマ化が、日本・台湾共同制作で本格始動している。脚本を担当するのは「虎に翼」など近年話題作を多く手がけている吉田恵里香さん。

シネマカフェでは、TAICCA主催の文化コンテンツ産業展覧会「2025TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」のピッチング(ドラマ部門)に企画が選ばれ、プレゼンテーションのために台湾を訪れた前畑祥子(まえはた・さちこ)プロデューサーにインタビューを実施。原作との出会いから制作スキーム、言語・歴史認識への配慮、グローバル市場を視野に入れた今後の広がりまで、本作にかける思いを聞いた。

ブックフェアで原作と出会い、ドラマ化を即決


――「台灣漫遊録」は2024年全米図書賞の翻訳賞にも輝いた楊双子さんによる小説です。日本人作家・青山千鶴子と台湾人通訳・王千鶴、健啖家の女性2人が台湾縦貫鉄道で島を巡っておいしいものを食べながら、背景にある日本と台湾の歴史や2人の関係性が変化していく様子を繊細に描いています。前畑さんはどのようなところに引かれ、ドラマ化を決意するに至ったのか、企画立ち上げの経緯からお聞かせください。

2024年11月、書店で開かれていた台湾フェアに立ち寄り、何冊か迷った中で、「台灣漫遊録」の日本語翻訳版「台湾漫遊鉄道のふたり」をたまたま取って読み始めたら夢中になりました。
文体が軽やかで、千鶴子と千鶴の会話が生き生きしていて、なんて楽しい本なのだろうと思いながら読み進めている時から、これは絶対ドラマにしたいと思っていました。

――特にドラマの題材を探していたわけではなかったのですね。

そうなんです。台湾の世界柔軟(數位影像文化)さんと共同制作でドラマをやりたいという話はしていたことがあり、少し気にはなって台湾フェアをのぞいたことは確かなのですが、ドラマの題材を探そうと思って手に取ったわけではなかったです。すぐ世界柔軟さんにこの小説の原作映像化権が空いているかどうか問い合わせていただき、12月初旬には楊双子さんとお会いしました。

――すごいスピード感ですね。楊双子さんからも前向きなお返事が?

最初にアポイントを取った時は、まだ全米図書賞のノミネートの段階だったのですが、すでに何社からもオファーがあったそうです。でも、日本の統治時代の話ですので、楊先生も日本との共同制作を希望されており、最終的に任せていただけることになりました。


――歴史×旅×グルメと、大掛かりな台湾ロケが必要になりそうですね。

日本と台湾の両方で撮影すると思います。皆さん驚かれるのですが、本作は大型予算制作を想定しています。当時の日本的な街並みの再現や美術、列車の中から見える景色には VFX も必要ですし、あの時代を丁寧に作ろうと思うと、それ相応のスケールが必要だと考えています。

「虎に翼」の吉田恵里香が脚本を執筆


――吉田恵里香さんが脚本を担当されるそうですね。NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」では、誰も差別せず、個人を尊重する考え抜かれた脚本が視聴者の心をつかみました。作者が台湾人のアイデンティティに向き合った「台灣漫遊録」にぴったりの人選だと思います。原作に対する吉田さんの反応は?

初見の時から脚本は吉田さんにお願いしたいと思いながら読んでいたので、執筆いただけて非常にありがたいと思っています。
本当に忙しい方なのですが、作品にしっかり向き合ってくださり、今度シナハン(シナリオハンティング)も一緒に回る予定ですし、歴史的な背景なども積極的に勉強してくださっています。(※インタビュー後、台北から高雄を縦断するシナハンを実施)

間口の広い物語ではありますが、対等って何だろう? 平等って何だろう? ということが繊細に描かれているところを丁寧に書きたいと言っていただき、物語が進むにつれて、千鶴子と千鶴の2人の関係性と同じように、そのベースにある部分も深くなっていくことを吉田さん自身も楽しみだと仰っていただいています。

――この小説の興味深い部分は、日本人である千鶴子が、無自覚な傲慢さで自分の価値観を千鶴に押しつけてしまい、2人の関係が変化していくプロセスを細やかに描いているところ。千鶴に対して親しみを感じ、「お友達」だという千鶴子に対し、千鶴はよそ行きの笑顔を貼り付けたまま、なかなか隙を見せません。楊双子さんは台湾の方なのに、日本人の心理も本当によく分析していると感じます。それを今度は日本人の脚本家がドラマに起すわけですが、原作に忠実に脚色していかれる方針でしょうか?

作者の楊双子さんは、この小説を非常に堅実で細やかなフィールドワークに基づいて執筆されており、本当に地道な、細かいリサーチの上に成り立っている小説だと思います。このドラマは日本統治時代が舞台になるので、千鶴も日本語で話します。そこで一番気を使っているのは、台湾の方が見て、ズレを感じないかというところ。
そこも、しっかり監修を入れながらやらなければいけないなと思っています。

――おいしそうな料理が次々登場する小説です。料理研究家の監修も入りますよね?

もちろんです。やっぱりそこは、シズル感も大事にしないといけないので(笑)

台湾側の視点もしっかり描き込むことが課題


――日本と台湾の制作における分担をどのように想定していますか?

まさに日台共同制作という形で考えていますので、日本と台湾の監督が両方いますし、撮影も両方で行います。キャストは台湾と日本の両方から構成される予定なので、旅をするようなところは台湾で、という感じで現在は考えています。

――まだ脚本開発段階ということですが、現段階で直面している課題はありますか?

人間ドラマとして、誰が見ても違和感なく受け入れられる作品にしたいですね。政治的な作品ではないからこそ、言葉の壁やニュアンスの違い、歴史認識の部分で、誤解が生まれたりしないよう、歴史の監修の先生や翻訳家の方々にもご協力いただき、慎重に進めなければと思っています。

――当時の台湾の方々の対日本人感情などもどう描かれるのか気になります。


原作者の楊双子先生からは、小説執筆時の人物設定や背景設定などを伺いました。台湾側のスタッフの意見や考えも深く取り入れながら、日台で手を取り合って開発を進めています。

――台湾旅行やグルメは人気がありますし、「親日的だから台湾が好き」という声もよく耳にします。それは大変いいことですが、このドラマ化の企画があると知った時、どのような歴史の延長線上に今の私たちがいるのかを、あらためて考えるきっかけをくれる作品になるのではと期待感を覚えました。

原作小説の中には、千鶴が途中でなぜ千鶴子の前から姿を消したのか、その間、どんな感情で、どう過ごしていたのかは描かれていないんですよね。これからドラマを作っていく時に、どういうふうに、ちゃんと千鶴側を描くかということがとても大事なテーマだと思っているので、台湾に吉田さんがいらっしゃった際には、楊双子先生ともしっかり話をしなければいけない部分ですね。(※後日談「台湾シナハン時には、小説にも登場する北投温泉へ楊双子先生と吉田恵里香さんも一緒に赴き、足湯に浸かりながら親睦を深め、その後、夜遅くまでたくさん議論を交わしました」)
――現状、今後の制作、放送スケジュールをどのように想定していますか?

想定では2027年度中の完成を目指しています。

「後世に残っていくようなドラマにしたい」


――前畑さんご自身についてお聞かせください。
小説を読んですぐにドラマ化したいと思ったというお話でしたが、その熱い思いの源は何だったのでしょうか?

実は父が湾生(わんせい/日本統治下の台湾で生まれ育った日本人のこと)なんです。終戦ですぐ日本に引き揚げてきたので、父に現地の記憶はありません。それでも、台湾で育った祖父母や伯父・伯母たちの思い出話を通じて、父は自分のルーツである台湾をどこか懐かしむように私によく話してくれます。そういう背景もあり、原作を読み始めた時に、まさにこれだと思いました。

――もともと台湾と関わりが深かったのですね。これまで中国やインドネシアとのドラマ制作のご経験があるそうですが、台湾との合作についてはどのような可能性や魅力を感じていますか?

飛行機で3時間という距離はめちゃくちゃ近いですよね。今月(2025年11月)だけで3回来ることになるのですが、この物理的な距離も魅力です。

今回 、TCCFのピッチングに参加させていただいて、台湾の方々から、文化を世界に発信しようという意欲をすごく感じました。
他の参加者の皆さんも積極的に海外のパートナーと組もうとされていますし、とても刺激を受けています。

ピッチングに向けたワークショップも非常に勉強になりました。世界の第一線で活躍している方々がメンターを務めてくださり、プレゼンテーションに関してありがたいアドバイスをたくさんいただきました。そんな経験って今までなかなかできなかったので、台湾にいながら世界中の人たちとつながったなと感じています。

――たとえば、どんなアドバイスが?

登場人物の名前について、原作どおり「千鶴子」と「千鶴」でプレゼンする準備をしていたのですが、いくら「ちづこ」「ちづる」と言っても(海外の方には)同じ名前だと思われて伝わらないというアドバイスをいただき、直前に千鶴を英語版の「ちいちゃん」に変えました。いろんな人に伝えるためのテクニックを教わりましたね。つい「自分はこう思うのに」「もっとこうしたいのに」と閉じていきがちですが、本当にいろんな視点がある。世界の人に見てもらうためには、閉じるのではなく開く感じが大切なのだなと感じました。――2024年末まで会社員で、その後、独立されたとか? もしかしてドラマ化のためですか?

それも大きなきっかけの1つです。ゆくゆくは独立したいと思っていたのですが、2024年の 11月にこの原作に出会い、 11月末には会社に退職を伝えました。

――運命を変えた 1冊ですね。

そうなんですよ。小説を読んだ時、本当にそれぐらい「私がやらなければ」と思って眠れなかったです。世界中の人たちが見てくださるような、後世に残っていくようなドラマにしたいですね。

(新田理恵)

提供元の記事

提供:

cinemacafe.net

この記事のキーワード