“ひとつの国”として構想『木挽町のあだ討ち』江戸の芝居小屋を再現した舞台美術に注目
柄本佑主演、渡辺謙共演で永井紗耶子の傑作時代小説を映画化した『木挽町のあだ討ち』。物語の大半の舞台となる芝居小屋の美術が話題となっている。
ある雪の降る夜、芝居小屋のすぐそばで美しい若衆・菊之助による仇討ちが見事に成し遂げられた。その事件は多くの人々の目撃により美談として語られることとなる。1年半後、菊之助の縁者と名乗る侍・総一郎が「仇討ちの顛末を知りたい」と芝居小屋を訪れるが、菊之助に関わった人々から事件の経緯を聞く中で徐々に明らかになっていく事実。果たして仇討ちの裏に隠されたその「秘密」とは。そこには、想像を超える展開が待ち受けていた…。
本作の大きな見どころのひとつが、芝居小屋・森田座のリアリティである。
公開を前に試写を観た観客からは「舞台の上も下も、江戸の芝居小屋の空気がある」「裏方の仕事ぶりまで丁寧に描かれている」「小道具の細部まで作り込まれていて驚いた」といった声が寄せられている。森田座は単なる背景ではなく、人が生き、働き、芝居を支えている場所として描かれている。
本作でメガホンを取った源孝志監督は、森田座という空間を「物語の舞台」というより、ひとつの国として構想したという。その設計思想について、「森田座を"戯場国"として描いており、ほぼその中で進行する物語。劇場、舞台袖、楽屋、衣裳蔵、風呂に奈落……いずれも重要な芝居の場なので、劇場の縮尺に合わせ、複数のスタジオに分かれても、位置関係が正確にシンクロするように設計した」と語る。
物語の大半がこの空間で展開するからこそ、舞台の上だけでなく、その裏側まで含めて世界として成立させる必要があったという。役者が歩く距離、裏方が行き交う動線、そのひとつひとつが積み重なり、画面に映る空間に自然な説得力をもたらしている。
また300人規模の観客を収容できる芝居小屋を撮影所内に再現するという試みも、本作の大きな挑戦のひとつだった。
過去にNHKドラマ「忠臣蔵 No.5 中村仲蔵 出世階段」で江戸三座の中村座を再現した経験を踏まえ、「当時は舞台と楽屋裏を一体的に作ることにこだわりすぎて、間口、奥行き共に若干の狭さを感じた。この経験を活かし、劇場は劇場、舞台裏は舞台裏として作ったのが功を奏し、立ち回りに十分な舞台スペースを確保できた。花道も江戸時代のものとほぼ同じ長さを確保できた」と振り返っている。その結果、舞台上の迫力と舞台裏の気配が無理なくつながる空間が立ち上がり、芝居の臨場感を支えた。
さらに印象的なのが、菊之助(長尾謙杜)や総一郎(柄本佑)も訪れた篠田金治(渡辺謙)の仕事部屋。単なる執務室ではなく、森田座の中枢とも言える空間について、「あれは単に篠田金治の仕事部屋というだけではなく、彼が主催するサロンのようなもので、役者や音曲方、職人や贔屓筋も出入りする場として考えた。森田座という芝居小屋において、金治の声望や権威の大きさが、あの仕事部屋を見るだけで理解できる」と明かす。
長く映らない場面であっても、空間が語ることで、人物の立場や関係性が自然と浮かび上がる。
その積み重ねが、森田座という世界に厚みを与え、東映京都撮影所が培ってきた時代劇の技術と経験が結実し、ひとつの芝居小屋がスクリーンに息づいている。
空間を支える美術にも注目しながら、芝居小屋というひとつの世界を、ぜひ劇場で体感してほしい。
『木挽町のあだ討ち』は全国にて公開中。
(シネマカフェ編集部)
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木挽町のあだ討ち 2026年2⽉27⽇より全国にて公開
©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 ©2023 永井紗耶子/新潮社