【インタビュー】物語は「誰かを救う」當真あみ×細田佳央太が語る映画の力『人はなぜラブレターを書くのか』
近年では『本心』(24)や『月』(23)『茜色に焼かれる』(21)ほか、人間の深淵を見つめる作品を手掛けてきた石井裕也監督。最新作『人はなぜラブレターを書くのか』では「2000年に発生した日比谷線脱線事故の被害者へのラブレターが20年越しに届いた」という奇跡の実話を基にしたハートフルな感動作を紡いでいる。
物語の発端となる男女の出会いパートを任されたのは、テレビドラマ「ちはやふる-めぐり-」(25)や『終点のあの子』(26)ほか話題作の出演が続く當真あみと、石井監督の『町田くんの世界』(19)で初主演を飾った細田佳央太。毎日同じ電車に乗り、言葉を交わさずとも惹かれ合っていた若き男女をどう演じたのか、映画というメディアに懸ける想いと共に語っていただいた。
石井組初参加と7年を経ての再タッグ
――當真さんは「綾瀬はるかさんが演じるナズナと、どう繋げられたらいいかを石井監督と話しました」と仰っていました。具体的にはどんなお話をされたのでしょう。
當真:綾瀬さんが演じられたナズナさんの性格はこんな感じ、というお話を伺いました。ご本人がお持ちのエネルギーがそのまま乗っている部分もありますし、仕草などを真似するというよりは同一人物の雰囲気を感じられるように、と方向性についてもお話ししました。
台本上の文字から受ける印象からして大人のナズナと学生時代のナズナは異なっているので、変に意識しすぎないようにとは心がけていました。私が現場入りする頃には綾瀬さんの出演シーンはほぼ撮り終わっていらっしゃいましたが、あまりその映像を観ないようにしていました。
――細田さんはボクシング練習に4カ月を費やしたと伺いました。役作りの期間としては、これまでのご経験の中でも長い部類だったのではないでしょうか。
細田:そうですね。ダントツで長い期間をいただけました。個人的に面白かったのは、メンタル面を信介さんに近づけようとしなくてもボクシング練習の中で自然とそうなっていったことです。甲子園などを見ていても、出場している学生たちは高校生と思えないほど達観した顔をしていますよね。
なぜだろうと感じていましたが、スポーツに打ち込むと無駄なものがそぎ落とされていくんだ、と今回の経験を通してわかりました。ボクシングは特に、動物としての本能が呼び覚まされるようなところがあって、感覚がどんどん鋭くなっていきました。石井監督とはもちろん役についてお話をしましたが、今回の役づくりはボクシング練習に尽きるように感じます。
――細田さんは「石井監督ともう一度ご一緒することを目標にしていた」と仰っていましたね。今回の再タッグはいかがでしたか?
細田:『町田くんの世界』で、石井監督に役者にとって必要最低限の要素を教わったと僕は思っています。それを崩さないようにこの7年間を過ごしてきました。今回、その“必要最低限”のレベルが更新された感覚があります。4カ月間のボクシング練習はまさにそうで、たくさんの時間をいただけたことに感謝しています。
この環境は当たり前じゃないのかもしれないですが、どの現場でもこれが普通になっていったらいいなと思います。
――當真さんは石井組に初参加ですね。
當真:石井監督は演出をされる際に「どういう動き方がありますか?」「どういう気持ちだと思いますか?」とこちらのお芝居を引き出して下さる質問をたくさんしてくださいました。本番中も近くで見守ってくれましたし、現場に入った際にスムーズに動けるように「ナズナの学生時代の家の間取りはこうで、こういう風に撮りたいと思っています」と事前に教えて下さいました。様々な手がかりを与えてくれたことで、とても安心してお芝居できました。
共演シーンは
“絶妙な距離感”で
――おふたりの共演シーンは電車の中やファミリーレストランが舞台ですが、構図的にも距離感が絶妙でしたね。
當真:電車のシーンに関しても事前に動きや距離感をリハーサルする時間を取っていただけました。人に押されて電車に乗り込んでくるシーンは何回も練習しましたが、その段階で監督の中には明確に「こう撮りたい」というイメージがあったのではないかと思います。
細田:電車のシーンはその場所を借りられる時間も限られていますし、日照時間の中で撮りきらなければいけなかったので、部署関係なく総力戦でした。そういった意味は大変でしたが、まずはこのシーンを乗り越える!という空気が現場全体に流れていました。石井監督はあまりテイクを重ねる方ではありませんが、心地いい緊張感の中で集中して臨めました。
――おふたりは2023年放送のNHK大河ドラマ『どうする家康』でも共演されています。
細田:『人はなぜラブレターを書くのか』の劇中で、信介とナズナは一言も会話をしません。そうした距離感が台本に書かれているからこそ、お互いに初共演ではないけれど近くなりすぎないようにしよう、と意識していました。
當真:私は結構人見知りで、共演させていただく方に対して“どう話したらいいんだろう”と距離感を探るのが苦手なタイプです。そんななか、細田さんと別の作品でご一緒させていただいていた事実があるだけでお芝居も硬くなりすぎず、ほどよい緊張感を持ってできました。
――初共演時には撮影の合間に、好きな食べ物の話をしたそうですね。
當真:そのときに「人と話すのが苦手なんです」というお話をしたのですが、会話の流れで細田さんが聞いて下さって「ハンバーグです」と答えました(笑)。
細田:僕も人見知りで会話が得意じゃないのですが、直近の現場で「まずは好きな食べ物から聞いていくのが大事なんだ」と学んで、早速仕掛けたというだけです(笑)。その場には久保史緒里さんも一緒にいらっしゃいましたが、3人で漫画の「ハイキュー!!」が好き、という話もしました。
――おふたりは本作で過去パートを託されましたが、完成した本編をご覧になっていかがでしたか?
當真:私は「答え合わせが出来たな」という感覚になりました。ナズナは電車の中で助けてくれた彼のことしかしらないので、友人から聞いた情報はありつつも実際はどういう人なのかがわかりません。出来上がった映画を観た際に“こういう仲間がいたんだ、こういう一面があったんだ”と知ることができました。大人になったナズナさんに対しては純粋に映画を楽しむ気持ちで観ていて、自分が出演させていただいた映画の試写でこんなに泣くのか……と思うくらいにしっかり泣いてしまいました。
細田:僕も相当泣きました。自分が関わっている作品の試写はどうしても脳内反省会をしてしまうので居心地が悪いものですが、初めてここまで客観視できた気がします。いちお客さんに近い状態で純粋に観られて、勝重さん(菅田将暉)が隆治さん(佐藤浩市)に会いに行くシーンや、ナズナさん(綾瀬はるか)や良一さん(妻夫木聡)の家族会議の瞬間など台本を読んだ際に「泣くだろうな」と感じた部分でもれなく泣きました。ただ一つ不思議だったのは、僕は信介さんが亡くなることやそれによって悲しむ人がいることをわかっているのに、菅田さん演じる勝重さんが、信介さんが亡くなったことを知るシーンで泣いてしまったことです。まだうまく感情を説明できませんが、お芝居以上の何かを見させてもらったからだと思います。
2人が思う“映画”の力
――石井監督の作品には、心温まるヒューマンドラマの中にも人間の悪意やダークな部分、現実のままならなさがきっちりと映し出されていると感じます。
細田:仰る通りで、だからこそ石井監督の映画は限りなく人間を映し出していると僕も思います。綺麗に撮ろうとしないからこそ出てくるだらしなさや泥臭さが、逆説的に人間の美しさを感じさせてくれるのではないかと。
僕は『町田くんの世界』でそのことを学びました。きっと石井監督は、どの作品でも観た方が親近感を抱けるキャラクターにしたいという想いがあるなかで「人間の愛嬌とは」を考えてダサい部分も意図的に入れていらっしゃる気がします。妻夫木さんは「不器用さ」と表現されていましたが、それがあるからこそ心を掴まれるんですよね。信介さんもそうで、先輩にも立ち向かっていけるし自分が間違ったことは絶対に許さない隙のない男の子でありながら、ファミレスのシーンでは砕けた可愛らしい一面を見せます。そうしたギャップの部分の表現には、気を配りました。
當真:大人になったナズナさんと良一さんがすれ違うシーンのもどかしさもそうじゃないかなと思います。人間って上手くはいかないよねというのを緻密にゆっくりと描いていくのがとても素敵でした。
――當真さんは「映画を見た時、きっと自分の日常が愛おしく大切に思えるはずです」、細田さんは「この作品が持つ記憶と、そこに生きた人々の熱が、現代に生きる皆様と未来に届くことを願ってやみません」とコメントされていました。おふたりが思う映画や物語の力を教えて下さい。
當真:「人生は一度きりだから、その瞬間を大切に生きた方がいいよ」と言葉で言われるのと、映像を通して感じ取るのは全く違うと思います。それこそがこういった作品の持つ最大の魅力ではないでしょうか。『人はなぜラブレターを書くのか』で、世代や性別を問わず様々な人の心にまっすぐ刺さる映像の素晴らしさを改めて感じました。細田:映画に限らず芸術全般に言えることかと思いますが、結局は誰かを救うことでしかないと思います。文化芸術は乱暴に言ってしまえば衣食住に関係ないもので、人間が生きるうえで必ず必要としているわけではありません。でもじゃあなぜ存在しているかといえば、人間が人間らしく生きるために生み出したものだから。その分野に映画が含まれている以上は、やはり誰かの心を救うものであってほしいというのが僕の持論です。戦後80年を迎えた2025年には『宝島』を含めて多くの戦争を題材にした映画が公開されましたが、実際に起こった出来事の悲惨さを伝え残していく役割もあれば、人を感動させたり笑わせたりするエンターテインメントの側面もあるかと思います。ただいずれにせよ、当時いた人や今いる人たちを救うものが映画や芸術の良さなのではないかと感じています。
――細田さんは様々な映画にコメントをされたり、映画連載を担当されていますね。
細田:仮に制作現場を見ていない方でも、作品自体から舞台裏の熱量を体感できるものかと思います。ただ、僕自身が映画やドラマに携わらせていただき、一つの作品を作るのがいかに大変かを体感している以上は、どの作品にも敬意を持って伝えなければいけないという気持ちで向き合っています。
――最後に、おふたりが観客として心に残った映画を一つ教えて下さい。
細田:去年観た作品でいうと、『サンセット・サンライズ』です。宮城県出身の宮藤官九郎さんが東日本大震災について書かれていて、東京人としての受け止め方を菅田さん演じる主人公が代弁して下さっている。コロナ禍も含めてあの当時、あの場で生きた人たちの声を拾うという決して軽くないテーマを扱っているのに心が温かくなる人間の描き方がとても好きでした。
當真:一つを挙げるのは難しいですが、本当に好きでずっと観ているものでいうとジブリ作品になります。『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』など、初めて見た子どもの頃は視覚情報として面白いと思っていたものが、年を重ねるにつれて様々なことに気づきだす深さがありますよね。全年齢対象でありながら各々に受け取るものが全く違っていて、何度も飽きずに観られるのは作品力の強さゆえだろうなと思います。
(text:SYO/photo:Jumpei Yamada)
■関連作品:
人はなぜラブレターを書くのか 2026年4月17日より公開
©2026 映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会
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