宮藤官九郎が見せた“親子”としての説得力『時には懺悔を』で描く“豊かな愛の形”
中島哲也監督の8年ぶりとなる最新作 『時には懺悔を』が全国にて公開中。本作で“障がいのある少年の父”・明野を演じている宮藤官九郎に注目が集まっている。
映像化不可能と言われた打海文三による傑作ミステリー小説を、『下妻物語』『告白』などの中島哲也監督が構想に18年かけ映画化した本作。主演の西島秀俊をはじめ、満島ひかり、黒木華、柴咲コウ、佐藤二朗、役所広司ら日本映画界、最高峰の実力派キャストが集結した。
■監督が明野役に真っ先に挙げた、宮藤官九郎
本作の豪華キャストの中でも特に注目を集めているのが、重い障がいのある9歳の少年・新を、たった一人で育てる明野哲夫を演じる宮藤官九郎だ。
明野は、妻を交通事故で亡くして以来、新と二人きりで生活する元調理師。現在は無職で、月2回の通院以外はほとんど外出せず、言葉を発しない新にも事あるごとに語りかけながら、日々の介護に明け暮れている。新の身体の状態や、好みについて誰よりも詳しく、その生活の全てを新とともに過ごしてきた男だ。
そんな明野役について、中島監督がキャスティングの段階で真っ先に名前を挙げたのが宮藤だったという。宮藤が中島作品に出演するのは、『嫌われ松子の一生』(2006)以来20年ぶり。中島監督は当時の宮藤について、「『嫌われ松子の一生』で貧乏作家を演じてもらったとき、ダメな男の役だったにもかかわらず、嫌な人間だと思わせない感じがあったんです。どこか寂しさがあるんですよね、宮藤さんは」とふり返る。
そして今回の明野について、「現実的にハードな問題を背負いながら障がいのある子どもを男手一つで育てているからこそ、悲壮感が漂う人間にはしたくなかったんです」と、宮藤を起用した理由を明かしている。
一方の宮藤も、「なんでいつもダメな男の役なんだろう?(笑)」と苦笑しながらも、「中島監督はちゃんとお芝居を見てもらえるのが嬉しい」と口にした。
ただ献身的で立派な父親として描くのではない。苛立ちも弱さも抱え、決して“理想の父親”ではないかもしれない。
それでも新との日常を受け入れて生きている――。そんな簡単には割り切れない明野という人物に、宮藤がもともと持つユーモアや寂しさ、人間臭さが重なっていく。
■監督の演技の方向性に100%委ねた
宮藤自身にとっても明野役は、一筋縄ではいかなかった。役作りについて「前もっていろいろ考えていた」という宮藤だが、撮影現場では中島監督に演技の方向性を委ねていたという。「ここはどういうシーンだからこれぐらいの感情とか、ここはまだイライラしている感情だからとか、ちゃんと説明もわかりやすくしてくれるし、監督に100%委ねました」。
しかし、その“正解”を探す作業も簡単ではなかった。宮藤が芝居をすると中島監督から「重い」と言われ、そこで少し芝居を軽くすると今度は「爽やかすぎる」「まともな人になっちゃってますね」と指摘が飛ぶ。「どこが正解なのかが結局わからなかったです(笑)」と苦笑しながらも、中島監督の細かな演出に応えながら明野を探り続けた。
脚本家・演出家として数々の作品で俳優を演出する側にも立ってきた宮藤が、本作では俳優として中島監督の演出に身を委ねる。そのやり取りの積み重ねから、単純な“善人”でも“立派な父親”でもない、明野という男が形作られていった。
■しんすけくんとの3か月で生まれた“父と子”の関係
宮藤が明野を演じるうえでもう一人、欠かすことのできない存在となったのが、新を演じたしんすけくんだ。
宮藤は、「しんすけくんと初めて会った時、頑張らないとなと思ったんですけど、始まってみたら、何度も助けられました。しんすけくんが笑顔を見せると監督が『OK』って言ってくれるんで、それに便乗して僕も随分OKにしてもらったんじゃないかなって思うぐらい(笑)」とふり返っている。
しんすけくんとは、撮影当初からすぐに呼吸が合ったわけではなかったという。撮影が始まった頃は宮藤自身も緊張しており、「それが伝わっちゃったのかも」と、最初はうまくコミュニケーションが取れていなかったと明かす。しかし撮影が進むと、しんすけくんが宮藤へ笑顔を見せるように。
「何かが多分開いたんでしょうね、お互いに」。
それ以降、しんすけくんは良いタイミングで良い表情を見せるようになり、宮藤は「素晴らしいお芝居でした」と、俳優としてのしんすけくんを絶賛している。
約3か月の撮影を重ねるうち、スペシャルニーズのある子どもたちがいることが“当たり前”になっていった本作の撮影現場。宮藤も現場に入ると、まずしんすけくんの顔を覗き込み、「おはようございます」と挨拶するのが日常になっていた。撮影を重ねる中で、俳優同士として少しずつ距離を縮めた宮藤としんすけくん。その関係性が、スクリーンの中で明野と新が積み重ねてきた“親子”としての年月にも自然な説得力を与えている。
本作が描く明野と新の関係は、単純な「献身的な父と障がいのある息子」という言葉だけでは捉えきれない。そこにあるのは、無償の愛というだけでは語りきれない、複雑で、ときに理不尽でさえある感情を内包した“豊かな愛の形”だ。
中島監督が「悲壮感が漂う人間にはしたくなかった」と宮藤に託した明野。そして、宮藤が「何かが開いた」と語るしんすけくんとの撮影の日々。二人の俳優が3か月をかけて築いた関係だからこそ生まれた、“きれいごと”だけでは語れない父と子の姿に注目してほしい。
『時には懺悔を』は全国にて公開中。
(text:cinemacafe.net)
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時には懺悔を 2026年8月28日より公開
©︎2025映画『時には懺悔を』製作委員会