玉木宏&袴田吉彦インタビュー 歴史に向き合い、歩み続ける2人が感じた“時代”
(Photo:cinemacafe.net)
玉木さんが演じる真藤は「東京日報」主幹の宗像(香川照之)の鞄持ちとして山本への取材に同行していくうちに、山本の不思議な魅力に触れ、徐々に戦争を煽り立てる新聞社の姿勢に疑問を持ち始める。
「軍人でも民間人でもなく、その間に立って両方が見えるという立場。台本をいただいて読んだときに、真藤はセリフが少ないこともあって、僕自身、客観的に読み進めていた部分がありました。この真藤の目線で物語を見ていくというのが最も分かりやすくもあり、また新しい描き方だとも感じました。演じる上でその立ち位置を守り、間に挟まれる人間として“グレー”でいなければいけない、という点を意識しましたね」。
加えて玉木さんはナレーションも担当。劇中、決して出番が多くはない中で自分が出演していないシーンに“ストーリーテラー”として存在するということが本作での大きな挑戦だったとふり返る。
「面白くもあり、難しくもありました。邪魔にならないように存在感を残す…。
それが“どこ”なのかを探りつつやっていました。ナレーションは最初に一度、全て録ったんですが感情が強すぎて、距離感が近くなってしまっていたんです。そうなるとみなさんの芝居の中で邪魔者になってしまう。実は淡々と読んでいくことが観る人の耳に最もスムーズに入っていくんだというのを感じました」。以前、特攻隊員の役も演じたことがある袴田さんだが、今回は新聞社の喧騒の中でのシーンが中心。世論を誘導する新聞記者の役に「ふと素に戻ったときにこれまでにない“怖さ”を感じました」と告白する。
「最初は戦争の最前線とは違う場所にいる当時の人間というのがなかなか想像できなかったんです。監督からは『新聞社の熱気とスピード感を出してくれ』と言われ、普段よりも早口でセリフを回していきました。
もちろん、演じているときにあれこれ考えていたら、あの東京日報の記者の役はできないから、理性を消してその場にいるんですが、ふとしたときに『こんなことしていいのかよ?』と感じて、これまでに戦争作品に出演したときとはまた違った視点で考えさせられました」。
袴田さんが何より強く感じたのが、戦場ではなく、人と情報と怒号が入り乱れる狭い新聞社の喧騒の中で“時代”や“世論”が動かされていくということへの違和感。「僕も、もしあの時代にあの立場にいたら、決して『反対』なんて言えずに流されていたと思う」と真摯に語りつつ、こんな思いを明かす。
「この時代に限らず、時代劇の台本をいただいて読んでみると『もしかしたら今とあまり変わりないのかもしれない』と考えさせられることは多いですよ。今回で言うと、新聞社のシーンは『スタート!』の声と共に一斉に30人くらいが動き出すので現場のエネルギーがものすごいんです。それは、戦争に行かないあの狭い建物の中の人間が世論や時代を動かしたというのと重なるようにも感じられて…。普段はそんなことあまりないんですが、今回は5日間ほどの新聞社での撮影が終わった後も熱気が取れずに興奮してる感覚が残ってたんです。でも一方で、いま思い返しても今回の撮影の間、僕は“戦争”というものを全く身近には感じてないんです。
ラジオや電話で情報が流れるだけで、戦争に携わっているという感覚がないんです。ひょっとしたら、当時の人もそういう感覚だったのかもしれないですね。だからこそ五十六さんはすごい人だったんだなとも思いました」。
ここ数年、クールな男や堂々としたタイプの役柄を演じることが多かった玉木さんだが、役所さん演じる山本と香川さん扮する宗像の間に挟まれるシーンでは、これまでにないオドオドとした表情を見せている。実際に2人の大先輩に挟まれての感想は?
「セリフが多くない分、気分的には楽でしたよ(笑)。お二人の芝居を一番近いところでしっかり見せてもらいました。改めて2人のパワーやオーラ、存在感の凄さを感じました。香川さんの芝居は、当時の新聞記者ってこういう風だったんだろうなという説得力にあふれているし、それを受ける役所さんは、言葉数は多くなくて一言、二言で返していくんだけど全く動じずに堂々とされてる。
この中で真藤ができるのはメモを取ることぐらいだろうと思って試みたんですが、全然、書けなかったです(苦笑)。出会いというのはどの作品でもありますが、やはり先輩方のお芝居を見るといずれこういう立場になりたいって思わされます。今回、役所さんや香川さんとご一緒できたのは本当に刺激的な経験でした」。
最後に玉木さんは、今年一年をふり返りつつ、過去の時代に身を置くということの意味についてこんな言葉を。
「今年の僕はドラマの『砂の器』に始まり、本作や『平清盛』とほとんど現代劇をやらずに来たんですが、過去の時代の物語だからこそ明確なメッセージが詰まっていると思うんです。今回の映画で言うと、やはり戦前、戦後の日本の姿が震災後の日本とリンクする部分は確実にあると思います。やっぱりそこをしっかりと伝えたいと思ったし、『どう伝えたいか?どう伝えるべきか?』と考える中で僕自身が、常に感化されていることも演じながら強く感じました」。
歴史に向き合い、歩みを続ける2人。
彼らが生きた70年前からいまを生きる我々が受け取り、生かすことが出来ることは決して少なくないはずだ。
(photo/text:Naoki Kurozu)
■関連作品:
聯合艦隊司令長官山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実― 2011年12月23日より全国にて公開
© 2011「山本五十六」製作委員会
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