【シネマモード】初めて見るイラン 『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢』
(Photo:cinemacafe.net)
久々に、ぐっと来るラブストーリーに出会いました。この作品をラブストーリーと定義するかは人それぞれだと思いますが、『チキンとプラムあるバイオリン弾き、最後の夢』は私にとってまぎれもなく、切なくも美しい恋物語なのです。
主人公の天才バイオリニスト、ナセル・アリは死ぬことにしました。なぜなら大切なバイオリンを壊されたから。そして8日にわたる最期の日々に、人生で起きたさまざまなことをふり返ります。辛かった修業時代、聞く者を涙させる音色で人気を得た黄金時代、最愛の人ながらも最も怖かった実の母親、その母に無理強いされた結婚、大好きだったソフィア・ローレンとチキンのプラム煮。中でも、もっとも彼を涙させたのは、叶わなかった人生で唯一の恋。時にコミカルに、時にしっとりと、ファンタジックな映像表現を用いながら、ひとりの男の人生が走馬灯のように映し出されているのです。
でも、物語の核となっているのは、叶わなかった恋のこと。ラストに訪れるクライマックスの胸も高鳴るような高揚感は、この恋物語があるから生きるものなのですから、やっぱり本作はラブ・ストーリーなのでしょう。