【シネマモード】正直に人と向き合い続ける…“最期”の奇跡『おみおくりの作法』
そんな彼の内面を垣間見られるのが、幾度となく繰り返される日常の描写。いつも同じきちんとした服装で座るジョン、いつも同じメニューの食事が並べられたテーブル。大した楽しみもなさそうなジョンの生活は単調で、ファッションも食生活も、決して華やかでも贅沢でも、スタイリッシュでもありません。その描写は、極めて静か。静止画のようでもあります。
“STILL LIFE”という原題がつけられている本作ですが、これは、絵画の“静物・静物画”と同じ意味。果物、花瓶、魚、食器、花などの静物が描かれた画を鑑賞するとき、私たちは描かれているものだけでなく、そのシーンの裏にある人間の気配や、そこに存在する物をとりまく空気感、雰囲気などをじっくり楽しむことができるはず。つまり、淡々とジョンの生活を映し出した静物画的描写からは、彼が内包しているもの、彼をとりまくもの、彼の人生などを察することができるわけです。
そこには、寂しさ、孤独、誠実さ、まじめさが。形式美を重んじながらもシンプルに徹したストーリーテリングによって、実に雄弁にジョンの心情、そして何より彼そのものを表現させているのです。それは、短歌や川柳のような、究極的な引き算の世界。