【シネマモード】P・ボグダノヴィッチ監督が手掛けるチャーミングなドタバタ劇『マイ・ファニー・レディ』
(Photo:cinemacafe.net)
こんなドタバタ劇、あるわけない!と思っても、小粋でリアリティ溢れる会話に笑えれば、思い切り楽しめるのがラブ・コメディ。キャラクターが信じられないほど極端な性格でも、憎めないくらいチャーミングなら、ありえなくてもつい許しちゃう、そんな気分になりませんか?
名匠ピーター・ボグダノヴィッチの新作『マイ・ファニー・レディ』は、曲者揃いの登場人物たちが、入り組んだ複雑かつやっかいな人間関係の中から、幸せを見つけ出す物語。リアルな設定の物語ではないけれど、リアリティ溢れる感情にきっと共感できるストーリーです。
ヒロインは、若手ハリウッド女優のイジー。かつて高級コールガールだったこともあっけらかんと告白しちゃう、裏表のない性格です。そんな彼女が女優として成功したきっかけとなったのが、自分でコールガールを部屋に呼んでおきながら、イジーに「仕事をやめるなら、3万ドルをあげる」と言った演出家のアーノルドとの出会い。二人が出会ったことから、人間関係がぐぐっと入り組み始めます。イジーが前職を辞し、初めて得たのが偶然にもアーノルド演出の舞台作品。
その作品の脚本家ジョシュアがイジーを女性として気に入り、イジーの元顧客の老判事は彼女に固執しストーキング、さらに老判事とイジーのセラピストがジェーンという同一人物で、さらにジェーンはジョシュアの彼女だったり…と、もう複雑すぎ!どこかとぼけた彼らが、話をどんどん面倒にしていくのですが、これが最後には上手く収まるところに収まるところが、やはり名匠の腕の見せ所なのでしょう。
描かれている恋愛騒動も、あくまでも他人事なので楽しく笑って見ていられるのが観客の特権。さらには舞台がニューヨークだけに、女性たちがシックでファッショナブルなのも見どころ。いかにも、いまどきのニューヨーカーらしく、ブラックでミニマルなアイテムに身を包んでいるのですが、ベルトやバッグ、シューズなどの小物合わせが、明日から参考にできそうで興味を引かれるところなのです。
なかでも、最も洗練されているのが、ジェニファー・アニストン演じるセラピストのジェーン。ファッションはシンプルなのに上質なものを選んでいるのがすっきりと無駄のないデザインに表れていて、いかにもN.Y.のセレブリティといった趣き。黒いトップとボトムスというコーディネートでも、細いホワイトのベルトですっきりウエストマーク。大ぶりのトートバッグも黒で合わせてすっきりインテリジェントな雰囲気にまとめているのも、お見事です。
でもこの人が何しろ人の話を聞かず、常に“me,me,me…”の自己中心人間。セラピストとしてはおろか、人間としても問題ありの要注意人物。彼女が、物語をどう引っ掻き回すかも面白さのひとつです。社会的に成功しているからといって内面は安定しているわけじゃないというところが、皮肉にも現代的。それは、ほぼすべての登場人物に共通しているわけですが、こんなところが実にピーター・ボグダノヴィッチ的な笑いなのです。色恋のどたばたも、どろどろの感情も、実にスタイリッシュに描いてしまう名匠の手腕、ぜひ非日常的な劇場という空間でお楽しみください。
(text:June Makiguchi)
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