【インタビュー】ギャスパー・ウリエル、グザヴィエ・ドラン監督作は「挑戦のしがいがあった」
19歳で監督デビューして以来、次々と傑作を発表しているカナダの若き天才、グザヴィエ・ドラン監督。昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『たかが世界の終わり』は、死期の迫った人気作家が12年ぶりに家族を訪ねる半日の物語。互いにうまく気持ちを伝えられず、受け取れず、すれ違う家族の様子が胸に迫る。
疎遠だった家族と向き合う決意で帰郷する主人公・ルイを演じるのはギャスパー・ウリエル。若手の美形として10代から活躍し、2014年の主演作『サンローラン』の熱演も記憶に新しい彼とドラン監督の出会いは、このうえなく繊細な家族の物語を生み出した。
まだ20代のドランの作風は一作ごとに進化していて、今回は彼らしさを芯に残しながらも、これまでとは違う大人の映画という趣だ。
「僕自身、その通りだと思う。テーマだけではなく、ストーリーの語り方や演出にも成熟が表れていると気がする。
以前はやや誇張もあったけど、今回はかなり無駄なものを削ぎ落とした演出になっていると思う」。
無駄を削ぎ落とすといえば、彼が演じるルイの演技にも当てはまる。主人公でありながら、心のうちを発散することなく、激しくぶつかり合う家族1人1人にとって触媒のような存在だ。
「そうだね。僕にとって、ルイを演じるのは挑戦でもあった。映画に描かれるエモーションの大部分が、彼を媒介として起動させる設定になっているから。その意味でキャラクターに託された責任は大きかった。他者の言葉に耳を傾け、それに対して言葉ではなく、沈黙の中で最大限にリアクションを表現する。
さらに主人公としての存在感を保つというのも、挑戦のしがいがあった」。
台詞に頼らない表現の助けとなったのは、ドラン監督が選択した俳優の顔をクローズアップするという手法だった。
「おかげで比較的、楽に演じられたと思う。今回は90%ぐらいがクローズアップなので、自分で表現するスペースをしっかり与えられる感覚があった。ほんの些細な表情、ディテールも、グザヴィエはちゃんとキャッチしてくれる。内に深く秘めたものを大げさに表現せずとも、とらえてくれると分かっていたから」。
クローズアップを多用することで、この家族の持つ息苦しさが表現できたという。「もう1つ言えるのは、沈黙は言葉よりもより雄弁だということ。
ジャン=リュック・ラガルスの原作から伝わるのは、いくらしゃべり倒したところで本当に大切なものは全然出てこないということ。ちょっと逆説的だけどね」。
12年ぶりに帰郷したルイを迎えた家族は、沈黙を恐れるようにしゃべり続ける。
「言葉が仮面の役割のような形で機能している。ルイ以外の家族は、しゃべることで空間を飽和状態にして、その結果、ルイが何か言おうとするのを阻むことにもなる。沈黙が生まれ、自分自身と向き合わなければならないのが怖くて、ルイ以外はみんなしゃべりまくっているんだ」。
この映画ほど極端ではなくとも、誰しも似たような経験は覚えがありそうだ。家族ゆえの気持ちのすれ違いやコミュニケーションの難しさは「普遍的なテーマだと思う」とギャスパーは言う。
「僕自身、演じていて『あ、これは…』と自分に当てはまる部分がいくつもあった。きっと映画全体というよりも、あるシーンに思い当たる節があって自己投影できる、そういう作品だと思う。ラガルスによる言葉の力であり、映画そのものの力でもあるけど、家族間の葛藤を知る人なら共感する、ユニバーサルな価値を持つ作品だと思う」。
それにしても、主演級ばかりが揃う豪華なキャスティングだ。兄の帰還を無邪気に喜ぶ妹はレア・セドゥ、確執のある兄はヴァンサン・カッセル、口下手な兄の妻にマリオン・コティヤール、そして自己中心の派手な母親はナタリー・バイ。全員がフランス映画のみならずハリウッドでも活躍している。
「優れた共演者と組むのはエキサイティングな体験だし、それによって自分自身をレベルアップできる。特に今回は素晴らしい人たちばかりで、とても刺激を受けた。
本当にうまい俳優と共演すると、彼らは僕を想定外の域まで導いてくれるからね。常に驚かされ続けていたよ」。
そんな彼らをまとめる監督はまだ20代。映画祭の授賞式ではほかの受賞者のスピーチに涙ぐむほど繊細な若者は、現場ではどんな様子だったのか。
「本当にうそがない人。正直で、すごく涙もろくて、ちょっと大げさじゃないかと取られたりもしている。確かに、あそこまで心をむき出しにする人は珍しいね。撮影現場でも、彼が僕らの演技を見ながら涙をためているのを何度も見かけたよ。
でも、それが彼のパワーになってるんだと思う」。
ギャスパーは現在32歳。昨年、パートナーとの間に息子が誕生し、「ようやく父親という役目の難しさが分かってきた。その割には報われないこともね」と笑う。俳優としても、青年から大人の男性の役への過渡期にある。
「自分の限界をもう少し遠くまで押し広げられるもの、新しい側面を引き出してくれるものを基準に出演作を選んでいるよ。守りに入っていた時期もあったけど、いまは違う。ネルソン・マンデラの『私は絶対負けない。
勝つか、学ぶかのいずれかだ(I never lose. I either win or learn)』という言葉が大好きなんだ。いつもそれを念頭に置いている」。
(text:Yuki Tominaga)
■関連作品:
たかが世界の終わり 2017年2月11日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開
(C) Shayne Laverdière, Sons of Manual