【インタビュー】ライアン・ゴズリング「何としても逃したくない」――ミュージカル映画への挑戦
その俳優のフィルモグラフィーを見ると、作品選びにどんなこだわりを持っているのかが見えてくる。『ラ・ラ・ランド』に主演するライアン・ゴズリングの場合は、クリエイティブな監督やこれから注目を浴びるであろう才能ある監督との作品が目立つ。本人いわく「この監督は何か特別なものを作るな、という勘が働くんだ。デイミアンにもそれを強く感じたよ」。『ラ・ラ・ランド』は2年前に『セッション』で一躍有名になったデイミアン・チャゼル監督の長編2作目。ゴズリングの演じるジャズピアニストのセバスチャン、エマ・ストーンの演じる女優を目指すカフェ店員のミア、2人の夢と恋を描いたミュージカル・ラブストーリーだ。
バンド「Dead Man’s Bones」で音楽活動をするなど、ゴズリングに音楽の才能があることは明らかだが、意外にもミュージカル映画は初挑戦となった。
「これまでにもミュージカル映画や音楽ものの映画のオファーはあったんだ。
でも僕が聴いて育ってきた好きな音楽は40年代後半から50年代にかけての古い音楽。映画でいうとバスビー・バークレーのような作品で、彼についての映画を作りたいと思っていた。そしてデイミアンと別の企画、米宇宙飛行士ニール・アームストロングの伝記映画『First Man』(原題)の打ち合せをしているときに、彼がミュージカル映画を撮ろうとしていと聞いて、俄然興味を持った。詳しく話を聞いてみるとものすごく楽しそうな映画で、絶対にそのミュージカルを体験したい、何としても逃したくない、と思ったんだ」。
それが『ラ・ラ・ランド』だった。2人を出会わせた『First Man』は、彼らの2度目のタッグ作となった。ゴズリングはデイミアン・チャゼル監督との仕事について「本当の意味でコラボレーションできる監督、共同作業のできる監督」だと称える。
「僕はバスビー・バークレーを題材にした映画を撮りたくて準備をしていたし、デイミアンも同じようにミュージカル映画を撮りたくて準備をしていた。
出会ったときはお互い音楽にどっぷり浸っていたこともあって同じ匂いがしたんだ。それで何か通じるものを感じたのかもしれないね。また『ラ・ラ・ランド』の野心的なところにも惹かれた。これは一体どうやって撮影したんだ?っていうシーンがいくつも登場するけれど──デイミアンはロングのワンショット撮影や難しい場所でのロケーション撮影、コントロールの難しいなかで撮影をしたがる。しかも自然光のなかでね。マジックアワーなんて30分しかないのに、その限られた時間のなかで彼は素晴らしいショットを撮ってみせるんだよ。だから俳優もスタッフもこの映画に関わるすべての人が(監督に続けとばかりに)何とか達成しようと頑張る。僕自身もそういうシーンを撮り終えたときは、ものすごく誇りを感じた。
居心地の良い場所から飛び出して、力以上のものを発揮したと思えた瞬間だったね」。
チャゼル監督に刺激を受け互いに高め合う撮影現場だったわけだが、実はクランクイン前からゴズリングの挑戦は始まっていた。セバスチャンを完璧に演じるため3か月かけてジャズピアノを猛特訓、すべてのシーンを自分で演奏してみせた。撮影裏のエピソードとしては、当初演奏シーンにはスタントダブル(吹き替え)が用意されていたそうだが、ゴズリングの演奏技術がものすごい腕前だったためダブルの出番は1日もなかったという。
「ジャズピアノの経験はないけれど、もともとピアノを習いたいと思っていたんだ。ジャズピアノは想像以上に難しくてものすごく練習が必要だった。そして多くの時間ピアノに向かうことで、孤独な状況を作ることで、セバスチャンのキャラクターを理解することができたんだ。それは俳優の仕事のなかでも特別な体験だった。
偉大なミュージシャンたち=楽器に向きあっている人たちが抱えているものを、セバスチャンを通して味わえた気がしたんだからね。と同時に、ミュージシャンたちへの尊敬の念が増したよ」。
またライアン・ゴズリングとエマ・ストーンはダンスも披露。街を見下ろす高い丘の上で「A Lovely Night」のナンバーにあわせたダンスは、何と6分にも及ぶダンスシーンをカットなしで撮影したという。ゴズリングが参考にしたのは、『雨に唄えば』のデビー・レイノルズだった。
「デビー・レイノルズは『雨に唄えば』に出る前まで歌ったことも踊ったこともなかったんだ。経験がないのにあれだけの演技と歌と踊りができたということは、セバスチャンを演じるヒントがそこにあると思った。もちろん(主演俳優であり、ダンサーであり振り付け師である)ジーン・ケリーからも大きなインスピレーションをもらった。
ただそういった作品を含めて僕が観てきたミュージカルは、舞台を映画にした演劇的なものが多かったけれど、今回の『ラ・ラ・ランド』はそれらとは違って、現実的なパフォーマンスというか、とてもナチュラルなミュージカルなんだ。空を飛んだり多少ファンタジーなところもあるけれど、現実から離れることはなく、これは現実なんだと信じられるものになっている。そういう意味ではこの映画はとてもチャレンジ的だと思うんだ」。
(text:Rie Shintani/photo:Nahoko Suzuki)
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ラ・ラ・ランド 2017年2月24日よりTOHOシネマズ みゆき座ほか全国にて公開
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