【シネマモード】ジム・ジャームッシュからの贈り物は“あたりまえを繰り返せる幸せ”
夏休みシーズンに入り、「日常から逃避したい」「ここではないどこかへ出かけたい」と考えている方も多いのではないでしょうか。
刺激的なバカンスもいいもの。でも、“平凡な毎日にこそ喜びがある”ということに気づかせてくれる素敵な映画『パターソン』が、ジム・ジャームッシュ監督から届きました。
ニュージャージー州パターソンに暮らす、バスの運転手パターソンの物語です。毎日、美しい妻ローラの隣で目覚め、たいてい一人で朝食をとり、車庫まで歩き、バスを運転し、街を眺め、乗客の会話に耳を傾けて微笑み、ランチタイムには一人静かに秘密のノートに詩を書きとめます。帰宅後は、ローラと夕食をとり、愛犬を散歩に連れ出し、その散歩道の途中のバーでビールを一杯。彼の日々は、ほぼこの繰り返しです。
それを刺激がない平凡な日々と考える人もいるでしょう。でも、単調な日々を繰り返しているからこそ、その中に生まれるちょっとした変化に気づき、そこに喜びを見出し、創作のインスピレーション源にできるのがパターソン。彼は、受動タイプのアーティストで、観たり、聞いたり、触れたりするすべてのものを豊かに吸収して、アウトプットする人。でも控えめなので作品を誰かに見せる覚悟ができず、素晴らしい才能を公に発表すべきだと常にローマから言われているのです。