アカデミー賞はこうして決まる!授賞式前に知っておきたいトリビア【2023年版】
前哨戦で圧倒的な強さを見せた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が最多10部門11ノミネート、同作主演のミシェル・ヨーをはじめ、アジア系俳優が同年に4人ノミネートという史上初の快挙で大注目の第95回アカデミー賞。気になる受賞結果は3月13日(日本時間)に発表される。
パンデミックを乗り越え、多様性を目指した改革も身を結びつつあるアカデミー賞事情についておさらいしてみよう。
対象となる作品は?
パンデミックの影響で一昨年(第93回)に変更された参加資格のルールは、今年からパンデミック以前のものに戻され、劇場公開なしの配信サービス公開作は対象にならない。
長編映画に関しては前年の1月1日から12月31日の間に、ロサンゼルス郡内の商業映画館で1日3回以上の上映回数で少なくとも7日間連続して有料上映された40分以上の35ミリか70ミリ、あるいは指定のデジタル・フォーマットの実写、アニメーション、またはドキュメンタリー作品。並行して配信やVODなどでの上映は可能だが、劇場公開前にテレビ放映やネット配信、ビデオ発売されているものは対象にならない。
作曲賞については、1作品からエントリーできるのは3曲までという制限が新たに設けられた。
誰が決める?
映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の会員による無記名投票で決定する。
会員は劇場公開される長編映画の製作に携わるプロのアーティストたち。俳優、脚本家など、各分野にわたって17支部に分かれている。ノミネーション投票では、各賞それぞれ該当する部門のプロフェッショナル(俳優部門は俳優、編集部門は編集者)が投票する。製作・監督・俳優などを兼任する場合、1人で複数の支部に入ることはできず、無所属(Members At Large)という扱いになる。作品賞、長編アニメ映画賞は全ての会員に投票権がある。
ノミネーションが決定した後の最終投票では、全部門が全会員の投票対象となる。
第95回アカデミー賞ノミネーションは1月24日(現地時間)に発表、最終投票は3月2日(現地時間)に開始され、3月7日(現地時間)に締め切られた。
会員はどんな構成?
現在の正会員総数は10,665名で、投票資格のある会員は9,665名。
AMPASは2016年、白人男性が圧倒的多数だった会員構成の見直しにとりかかり、女性やアフリカ系などマイノリティの会員数を2020年までに2倍にすると発表。毎年、女性やマイノリティを中心に招待している。
AMPASの公式サイトによると、2022年には397名に招待状を送付。うち50パーセントが米国外の53の国と地域から招待され、44パーセントが女性、37パーセントが非白人。
第94回の作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』のシアン・ヘダー監督、助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズ(『ウエスト・サイド・ストーリー』)、助演男優賞受賞のトロイ・コッツァー(『コーダ あいのうた』)、国際長編映画賞受賞の『ドライブ・マイ・カー』からは濱口竜介監督、主演の西島秀俊、製作者の山本晃久、監督と共同脚本の大江祟允、編集の山崎梓の5名、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』(『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』)で歌曲賞受賞のビリー・アイリッシュとフィニアス・オコネルなど昨年の受賞者たちの他、アニャ・テイラー=ジョイ、ジェシー・バックリー、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェシー・プレモンスとコディ・スミット=マクフィー、『ベルファスト』のジェイミー・ドーナンとカトリーナ・バルフ、同作でヘアメイクを担当した吉原若菜らも含まれている。
発表まで管理するのは?
大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)。最終投票が集計されてから授賞式でプレゼンターが封筒を開けるまで、結果を知っているのは同事務所の担当2人だけ。
2017年には担当者が封筒を渡しまちがえて、作品賞受賞作が『ラ・ラ・ランド』と発表された直後に『ムーンライト』だと訂正される大失態が発生。
授賞式のクライマックスで大混乱を引き起こした2人は今後授賞式の任務に関わることはないと発表された。
司会者は3度目となるジミー・キンメル
パンデミックの最中の第93回(2021年)は感染予防対策としてロサンゼルスのダウンタウンにあるユニオン駅が会場となったが、2022年から従来の会場、ハリウッド&ハイランドセンター内のドルビーシアターでの開催が復活した。
第94回(2022年)までは出席する候補者とゲストにはワクチン接種の証明とPCRテスト陰性2回の提示など厳格な対策が求められたが、今年はそれもなくなった。
第94回は生放送の時間短縮を目的に、短編部門や技術部門など8部門について放送開始1時間前に発表を事前収録して放送したが、映画界からの強い反発を受け、今年は全23部門の授賞が生中継される。2月に行われた候補者昼食会ではAMPASのジャネット・ヤン会長がスピーチについて「(生中継を考慮し)短く、スイートに、そして要点を絞ってお願いします」と、45秒以内という時間厳守を呼びかけた。
司会者は3度目の登場となるジミー・キンメル。作品賞が誤発表された “エンベロープ・ゲート(封筒事件)”発生の第90回以来の大役だ。
今年は主演女優賞にミシェル・ヨー(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)、助演男優賞にキー・ホイ・クァン(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)、助演女優賞にステファニー・スー(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)とホン・チャウ(『ザ・ホエール』)の4人がノミネートされたほか、作品賞、監督賞、脚本賞にダニエル・クワン(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)、脚色賞にカズオ・イシグロ(『生きる LIVING』)、長編アニメ映画賞候補の『私ときどきレッサーパンダ』のドミー・シー監督、歌曲賞候補「Naatu Naatu」(『RRR』)など多くの部門にアジア系の候補が揃っている。
最多ノミネートの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が何部門で受賞を果たすか、ミシェル・ヨーが同作でアジア系として史上初の主演女優賞に輝くか、注目が集まっている。
(冨永由紀)