【インタビュー】山崎賢人、“いままで観たことがない”姿は「いまでしか出せない表現」
伸びきった髪の毛に無精ひげ、憂いを帯びた、沸き立つような色気――映画『劇場』の予告編や場面写真が公開されたとき「いままで観たことがないような山崎賢人」(正しくは、「崎」は「たつさき」)を目撃したと思った人は多かったのではないだろうか。今年26歳を迎え、より存在感を増しつつある山崎さんは、どんな思いで作品と向き合っているのだろうか。
監督と共に役を作り上げる楽しさ
芥川賞作家・又吉直樹による恋愛小説を、『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『ピンクとグレー』などの行定勲監督が実写化した本作。山崎さんは、中学生時代の友人と劇団「おろか」を立ち上げ、脚本家兼演出家を務める演劇青年・永田を演じている。
この永田という男は、演劇に身も心も捧げる一途な表現者だが、その自意識とうまく折り合いをつけることができず、周囲ともうまくやっていけない。特に自分の才能を信じてついてきてくれる松岡茉優さん演じる恋人の沙希に対しては、客観的にみてかなりダメな男である。
そんな困った人物だが、山崎さんは「台本を読ませてもらって、人間の弱い部分に共感できました。俳優も劇作家も、表現者としては共通する部分が感じられたので、ぜひやりたいという気持ちでした」と前のめりでオファーを受けたという。
もともと行定監督の作品が好きだったという山崎さん。現場では行定監督が若手俳優たちと同じ目線になり、永田という人物像を一緒になって立体化していってくれた。その作業はかけがえのない時間だった。
「行定監督も舞台の演出をされているので、永田というキャラクターに思い入れが強かったということもあると思うのですが、いろいろなアイデア、例えば永田がどんな種類の人間なのか、どんなアイデンティティを確立しているのか…そういったことを鑑みると、髪型はこうなるかなとか、髭もはやした方がいいか…なんてことを相談しながら作っていく作業はとても楽しかったです」。
作品が途切れることなく続く現状も「満足できた」と思えたことはない
追い求める表現に自信を持ちつつも、世間の評価との乖離に悩み続ける永田に共感しながらの役作りだったというが、山崎さんはデビュー後、作品が途切れることなく続き、順風満帆というイメージがある。「ありがたいことにいろいろなお仕事をさせてもらえています」とはにかむが「でも、“完璧にできた”とか“満足できた”と思えたことはないです」と胸の内を明かす。
また永田は人の才能に嫉妬しているが、そのことは絶対に認めないプライドの高さがある。山崎さん自身も「そういう気持ちは絶対あると思う」と否定はしないが「でも自分は“俺は俺だから”とどこかでシャットアウトしてしまっていると思う。
(原作者の)又吉さんもシャットアウトしていると話していましたが、やっぱり同世代の他の人の作品とかは、どこかであまり観ないようにしている部分があったと思います。それではダメだと一度全部ドラマを観ようと思ったのですが、やっぱりできませんでした(笑)」。
不器用な恋愛に「ひどい」と思いつつも共感できる部分もある
永田という男の不器用な人生が描かれる本作。それは恋愛においても同じ。恋人である沙希への接し方も、苦笑いを浮かべたくなるほど不器用だ。
「ひどいですよね」と山崎さんは苦笑いを浮かべるが「でもレベルの違いはあれ、自分でもやりそうだなと思う部分はある」とやや肯定する。「あそこまで露骨に出すことはないでしょうが、特に嫉妬とか分かりやすいですよね」と共感できる部分は多かったようだ。
永田と沙希の関係性は、共演の松岡さんとじっくり話し合いながら作り上げていった。
話のなかで、一見、永田が沙希に対して負荷をかけているように見えるけれど、「お互いが依存し合っているよね」という共通の認識があったという。そこを意識しながら互いの距離感を測っていった。
山崎賢人の考え方「自分が生きやすいように生きよう」
アイデンティティを確立することは、人生を送るなかで自身のよりどころとなる一方で、人間関係においては障壁となることがある。思春期真っ只中のときには、“アイデンティティの確立”に憧れた時期もあったというが、いまは「自分が生きやすいように生きよう」というのが山崎さんの生活信条になっている。
「無理してなにかを取り繕うと疲れちゃう。無理していて素に戻ったとき、なんか萎えちゃうじゃないですか(笑)。もちろん高校生ぐらいのときは、信念を主張したり、格好つけたりすることもいいのかなと思っていましたが、いまは肩の力を抜いて生きることが大切だと思っています」。
その意味で、人との付き合いも“危うい関係”は「いらない」と断言する。
「もちろん、自分にないものを持っている人に惹かれる気持ちはありますし、影響を受けることもあります。でもそういう人と必ずしも仲良くなるかはわかりません。基本は“いい人”。それが人間関係を築いていくうえで、一番大切な要素です」。
本作に挑むとき「いまでしか出せない表現ができると思った」と感じたという山崎さん。この言葉通り、劇中にはこれまで観たことがないような山崎さんの表情がちりばめられている。“ラブストーリー”と銘打たれているが、本人は「脚本を最初に読ませていただいたとき、恋愛の話だと思わなかった」と語る。「恋愛映画ではなく、永田をやりたかった」という言葉を頭に浮かべると、彼が本作で表現したかったことがよりクリアになってくるのかもしれない。
(text:Masakazu Isobe/photo:Jumpei Yamada)
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劇場 2020年7月17日(金)より全国にて公開、Amazon Prime Videoにて全世界独占配信。
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