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【映画と仕事 vol.4】又吉直樹主演映画のプロデューサーを経て、ソニーで若きクリエイターの支援に奔走! スマホでハリウッドへの道を切り拓け

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【映画と仕事 vol.4】又吉直樹主演映画のプロデューサーを経て、ソニーで若きクリエイターの支援に奔走! スマホでハリウッドへの道を切り拓け

「映画と最新テクノロジー」と聞くと、スティーヴン・スピルバーグやクリストファー・ノーランといったトップクリエイターたちの手による、巨額の制作費が投じられた大作の驚くべき映像世界をイメージしてしまうかもしれませんが、それだけではありません。

ソニー株式会社(以下ソニー)は、米国アカデミー賞公認のアジア最大級の短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」(SSFF & ASIA)とのコラボレーションで、「オフィシャルコンペティション supported by Sony」と来年度から新設される「スマートフォン映画作品部門 supported by Sony」を支援。才能あるクリエイターがスマートフォンひとつで世界を切り取り、アカデミー賞までたどり着くための道筋をサポートしています。

今回、連載に登場いただいたのはソニーでこれらの活動を担当している中臺孝樹さん(ブランドコミュニケーション部門ブランド戦略部)。実は中臺さんは、自身もカメラマンとして活動し、さらにショートショート作家の田丸雅智さんの原作を基に又吉直樹主演の映画『海酒』をプロデュースし、SSFF & ASIAに出品したこともあるなど、映画作りにおいて、制作、撮影からプロモーションに至るまでに深く関わってきた経歴の持ち主。そんな中臺さんのこれまでの歩み、そして現在のお仕事についてお話を伺いました。

「人の思いを伝えるというストーリーに興味がある」


――高校卒業後、アメリカの大学に進学されて、現地で就職されたそうですね?

そうです。もともと、ジャーナリズムをやりたくてアメリカの大学に行ったのですが、「読み書き」という点でネイティブレベルにまで達するというのは難しかったんですね。
ただ「撮影する」ということに関しては小学生の頃から一眼レフで撮影をしていて、得意だったんです。それもあって、大学内の新聞や番組の撮影をし、卒業後は主にスポーツ中継を行う放送局で撮影班の一員として働いていました。

――スポーツの試合の中継などに関わっていたのですか?

厳密にいうとPRを担当する部門で、どのようなストーリーを作るか?という仕事をしていて、その撮影班だったんですね。対メディア、一般の視聴者に向けた映像をどのように出すか? そこに向けたストーリーを作り、撮影を行うという仕事をやっていました。そのために必要となる写真や映像を自分で撮影し、記事や映像を作っていました。

――ストーリーを考え、撮影し…という映像制作を行っていたわけですね。

そうですね。コミュニケーションありきで映像を作るということをやらせていただいておりましたので、シネマとはまた違いますが、カメラマンという立場で、背景にあるものを理解してストーリーを作るということをやっていました。


――その後、日本に帰国されて…。

帰国して通常の企業で営業マンのような仕事をしていたのですが、東日本大震災が起こったことで、何か日本を盛り上げることはできないか?ということを同世代の人たちと話す機会がありまして。自分はカメラを扱うことができるので、何かストーリーを作ったらどうか? ということで、ちょうど2011年の3月いっぱいで当時の会社を退職することも決まっていたので、それを機に映画制作を始めました。

――自分が作りたい映画作品を作るというだけでなく、映像の制作を“仕事”として請け負うことも?

そうです。当初はフリーランスで写真撮影や映像制作を手掛けることもあり、その後は映像制作会社という形で、制作の仕事を請け負っていました。国際交流基金さんの映像を制作したり、ミュージックビデオを制作したり、車のメーカーさんのPRのためのCG映像などを手掛けたりしていまして、主に企業の映像を作る機会がありました。

映画制作では、ひとつ、中野裕太さん主演の長編映画『もうしません!』をプロデュースし、ゆうばりファンタスティック国際映画祭に出品させていただき、さらに又吉直樹さん主演の短編映画『海酒』はSSFF & ASIA 2016で上映させていただきました。

――アメリカではスポーツというノンフィクションのものに携わっていらして、映画というフィクションの“物語”を制作するという点で、違いもあったかと思います。


根本にあるのは「人」だと思っていまして、人の思いを伝えるというストーリーに興味があるんですね。僕自身、過去に見たいくつもの映画が「あの映画のあのシーン…」という感じでずっと心に残っていて、元気もらったり、人生に影響を受けたりしてきました。そういうひとつひとつのストーリーに目を向けて、自分もそれを作りたいと思ったんですね。

「映画はテクノロジーや新たな手法を用いて進化」


――プロデューサーという仕事の面白さや大変さについて教えてください。

これはあくまでもソニーに入社する前の個人の活動の話ですが、プロデューサーとしてまず予算をどう集めるか?プロジェクトをどう管理するか?という部分とクリエイティブの対立があると思っていまして、監督がクリエイティブに責任を負うとすると、プロジェクトそのものに責任を持っているのがプロデューサーなんですね。

予算とスケジュールとクリエイティブのバランスを学ばせてもらい、面白くもあり難しい仕事でした。「本当はこうしたいけど、予算が…」ということもあるし、そこで「この予算でもこうしたらうまくいくんじゃないか」と考えるのは面白かったですね。

――ソニーに入社される前には、人気漫画を原作とした全国劇場公開映画のPRキャンペーンディレクターを務められたそうですね?

日本全国の劇場を回ってPRを行うという業務でした。
映画を作っても、なかなか見る人たちに触れ合う機会ってないんですけど、この時は地に足の着いた活動といいますか、まさにお客様に直に触れ合いながら全国の約100劇場を回らせていただきました。多くの劇場で配信してもらうことの大切さを学びました。

――その後、ソニーグループに入社されて、映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』などのプロモーションに関わることになったと伺いました。

ソニーの最新技術を用いつつ、それと『バイオハザード』というIP(知的財産)を掛け合わせるような企画ができないかということで関わらせてもらいました。ハプティクスベストという身体に振動を与える技術を用いて、映画の体験をよりよくしようというプロモーションで日本だけでなくアメリカ、インド、スペイン、香港などを回らせてもらいました。

――映画『スパイダーマン:ホームカミング』ではムービングプロジェクター、高速ビジョンセンサーを用いて、スパイダーマンとボルダリングを体験できるというプロモーションをハリウッドのレッドカーペットで行ったそうですね?テクノロジーを映画のプロモーションに活用するという活動ですね。

そうですね。映画で、テクノロジーをどう用いるか? というのは非常に重要だと思っています。
例えば多視点でアングルを変えることができるバレットタイム、ドリーとズームを合わせたバーティゴエフェクト、ドローンやCGはもちろん、レイトレーシングなど、映画はテクノロジーや新たな手法を用いて進化を遂げてきたとも言えます。

そういう意味で、ソニーは撮影するカメラや録音のマイク、映像を見せるテレビやヘッドフォンまで、まさに入口からエンドまでの技術を持っていますので、ありとあらゆる技術を用いてプロモーションも行うというのは、非常に面白かったですね。

スマートフォンで撮影した作品がアカデミー賞へ?


――映画だけでなく、SEKAI NO OWARI×リアル脱出ゲーム「INSOMNIA TRAINからの脱出」にソニーの触覚提示技術を導入するという仕事もされたそうですが、主に最新技術を活かしてプロモーションを行うという仕事を?

この脱出ゲームの中で、参加者に対してゲームのストーリーを動画にて紹介する演出がありました。ここにソニーの触覚提示技術を導入し、動画の映像と音声に合わせて床が振動するなど、触覚に訴える演出を行うことによって、全身で楽しめる臨場感と没入感のある体験を実現しました。ここはプロモーションというよりも、ソニーの技術やIPをどのように活用できるか? というのを模索する部署に2年ほど前までおりまして、その活動の一部でした。現在は、ブランド戦略部という部署で、ソニーの魅力を広く伝える活動を行わせていただいています。

――そうした活動の一環として今回、SSFF&ASIAとのコラボレーションを?

ソニーは存在意義として「クリエイティビティとテクノロジーで世界を感動に満たす」ということを掲げています。その感動を作るためにはクリエイターの存在は欠かせません。
SSFF & ASIAで「オフィシャルコンペティションsupported by Sony」という形で支援させていただいていますが、米国のアカデミー賞公認の映画祭であるということも含め、ハリウッドを本気で目指す人たちを支援したいという思いがあります。

また来年度より新設される「スマートフォン映画作品部門supported by Sony」を支援することで入口を広くしたいなと思っています。多くの人たちが気軽に作品を作ることができて、またその作品がアカデミー賞までたどり着くことができるようになったらうれしいですね。スマートフォンで撮影した作品がアカデミー賞に届くかもしれないということで、SSFF & ASIAさんと一緒にやっていけたらと考えています。

――実際にこれまでご自身で映画を作ってきた中臺さんから見て、Xperia™の機能性はいかがでしょうか?

例えば、私の過去作品『海酒』で主演の又吉直樹さんが走り、それをカメラマンがカメラを担いで追いかけながら撮影するシーンがあったんですけど、ちょうど芥川賞受賞が発表された直後で季節は夏で、暑い日だったので、又吉さんの後をカメラマン、監督、フォーカスマン、音声が追いかけていくというかなり大変なシーンになりました(苦笑)。

あの時に大きなシネマカメラで撮影したレベルの映像とそん色のない映像を、いまはスマートフォンひとつで撮影することができるんですね。それは非常に魅力的なことだと思います。

――重いカメラを担いでカメラマン、フォーカスマンらスタッフが役者を追いかけていくというのは、映画の撮影では日常的ともいえる光景ですが、それが1台のスマートフォンでできてしまうというのは、ものすごいイノベーションですね。


単に軽いというだけでなく、Xperiaを使えば狭い場所――たとえばカメラを担いで入っていくのが難しかった細い路地で撮影するなどといったこともできるんですね。しかもそれがシネマクオリティ。僕自身、カメラマンとして時には地面に這いつくばって撮影することもあったのですが、Xperiaを使うことで大きなカメラでは難しかった撮影もできるようになると思います。

――ただ軽い、コストが安いというだけでなく、シネマカメラ以上の臨場感のある映像を撮ることもできるかもしれないということですね。

そう思います。より人に近く、より人の感情を表現できるデバイスになりえると思いますし、よりダイナミックな映像という点も、スマートフォンだからこそできることがあるんじゃないかと思っています。

――ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社の取り組みとして、これから映画を作りたいという学生を支援する「Xperia Cinema Pro Students Challenge」も行っていますが、ご自身もプロデューサー、クリエイターとして映画作りをして、その苦労も知っているからこそ、こうした活動に強い思いをお持ちなのでは?
そうですね。私自身、プロデューサーとして予算集めに苦労したこともありますし、天候不良で撮影日が1日増えただけで、クルーを集め、ロケバスを手配し…と予算が一気に増えるんですね。それこそシネマカメラも1日借りるだけで10万円以上かかりますし、当然ですがカメラだけを借りても仕方ないわけで、カメラマン、フォーカスマンが必要で、モニタも用意して…と非常に大きな金額が必要となってしまうわけです。そこをスマートフォンで補うことができるというのは非常に魅力的なことだと思っています。そういう部分を含めて、最新のテクノロジーによってクリエイターの“今後”を支援していくのは非常に楽しく、素晴らしいことだなと思っています。

一方で、それだけでなくクリエイターが活躍できる“機会”を作ることにも大きな意味があると思っていまして、Xperia Cinema Pro Students Challengeの活動やSSFF & ASIAとのコラボレーションにより、チャンスを支援していくことができればと考えております。

誰もが持っているストーリー「形にするということを恐れずに」


――これまでの経験や現在のお仕事を通じて、これからの日本の映画界にいま、何が必要だと感じてらっしゃいますか?

やはり日本ではクリエイターが限られているという現状があると思います。国が映画制作を助成するという仕組みはありますが、いつお金が支払われるのか? というタイミングやシステムとして、現状ではすでに実績のあるクリエイターの方々が映画を作って、それに対してその後、助成金が支払われるという運用の仕方になっていることが多いんですね。

僕自身の経験を踏まえて、映画制作のつらい部分は2つあると思っていて、それは「作る」過程と「見せる」過程だと思っています。たとえ映画を苦労して作ったとしても、どのようにしてお客さんに届けるか? という部分が非常に難しくて、単館系の小劇場と交渉して何とかそこで上映して…ということが多いと思いますが、一方でインターネットの技術などを介することで、多くの人に見せられるチャンスは増えてきたのかなと思います。

それによって、短編映画が長編映画の登竜門、いわゆるデモテープのような存在としてではなく、短編映画そのものがコンテンツになりうる時代になってきたのかなと個人的に思っています。どんな機材、レベルであれ、作ったものを世に出して評価を受け、時には批判もされながら、より良いものを作っていく――そうした流れが日本中で広まればいいなと思っています。

――今後、中臺さん自身は映画業界でどのようなことを実現したいと考えていらっしゃいますか?

いま、映画は2つの方向に進んでいると個人的に感じています。ひとつは、より深い体験ができるということ――画質や音響がよりよくなっていき、よりイマーシブ(没入体験的)になっていくと思います。一方で、映画自体がコンテンツの一部になっている動きがあると感じていて、ヒーロー映画をコスプレをして観に行ったり、映画そのものの前後にあるいろんなものを含めて、体験として楽しめるようになっているなと思います。

そのどちらの方向性も素晴らしいものだと思っているので、もし個人で作品を作れる機会があれば、イマーシブな映像を作ってみたいという思いもありますし、一方で映画を含めた様々な体験を含めて「映画を楽しむ」ということを提供できるものを作れたらと思っています。

――最後に映画業界を志す人たちにメッセージをお願いします。

映画って切り口はいろいろあると思いますが、でも根本にあるのはストーリーテリングにあると思っています。そして、そのストーリーテリングを支えるのが技術やテクノロジーなのではないかと。

社会問題にせよ、自分が伝えたいことにせよ、もしかしたら日常の些細な幸せにせよ、その人しか持っていないストーリーを必ず誰もが持っていると思うので、それを形にするということを恐れずに続けてほしいと思います。その人しか持っていないストーリーは、その人が自信を持って発信しない限り、一生外に出てこないので、そういうものを表現するということを続けてほしいと思います。

また、SSFF & ASIAとソニーモバイルが企画したCreators’ Junction partnered with Xperia™でも冒頭少しお話させて頂きました。河瀬直美監督と常田大希さんのトップクリエイターのトークセッションをお楽しみいただければと思います。

「Creators’ Junction partnered with XperiaTM」は9月28日(月)20時スタート予定。

(photo / text:Naoki Kurozu)

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