【インタビュー】有村架純と石橋静河はどんな思いを抱いて抱きしめ合ったのか? “分断”の時代に大切な他者へのまなざし
「保護司」という言葉自体、この作品で初めて耳にするという人も多いだろう。保護司は、犯罪や非行を犯した人々の更生や社会復帰を支える活動に従事する人々。非常勤の国家公務員ではあるが、給与は支給されず、あくまで民間のボランティア活動である。
先日より放送・配信が始まった「WOWOWのオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」は、罪を犯した“前科者”に寄り添う保護司の姿を描くヒューマンドラマであり、2022年1月には、ドラマの“その後”を描く劇場版の公開も控える。
有村架純が演じるのは、新米の保護司・阿川佳代。彼女の保護司としての最初の保護観察対象者であり、仮釈放中の“前科者”斉藤みどりを石橋静河が演じる。
「つぐない」とは何か? 「ゆるし」とは? 罪を犯した者はもう一度、人生をやり直すことができるのか――? 1話わずか30分弱の中で、決して軽くはない、いくつもの問いかけが心を揺さぶる本作。佳代もみどりも、時に自らの弱さをさらけ出し、傷つきながら、こうした問いかけに向き合い、歩みを進めていく。
ドラマ、そして映画を通じて、保護司と前科者という関係性を越えた友情、絆を紡いでいく2人の女性を演じた有村さんと石橋さんに話を聞いた。
最初の撮影はケンカのシーン「信頼してくれているのを感じた」
――共演前は互いにどのような印象を抱いていましたか?
有村架純(以降、有村):私が一方的に作品を観ていて、一ファンだったので、みどりを石橋さんが演じると聞いて「え? やったー!」という感じで(笑)、すごく嬉しかったです。画面の中で見る石橋さんは、可憐で凛とされていて、でも自由さもあるという印象でしたが、実際にお会いしてみると、静かに自分と向き合われている女優さんだなと思いました。失礼な言い方かもしれませんが、いい意味で“普通”というか…「大丈夫だよ!」という空気をまとっていて。何て言ったらいいんだろう? 石橋さんにしかない空気感なんですよね。わかるかなぁ…(笑)? 素敵だなと思いましたし、人に対するリスペクトがすごく強い方だなと思いました。
石橋静河(以降、石橋):お会いする前は、本当にあらゆる場面で戦ってきているんだろうなと想像していて、いろんな人の思いに応えながら、でも、懐がすごく深いんだろうなと作品を観て感じていました。だから一緒にお芝居するときも、心配なく「きっとドシっと迎えてくれるから、ぶつかっていけばいいだろう」と思っていたんですが、案の定、そういう感じで、すごくかわいい人なのに「さあ来い!」という感じがあって(笑)、「行きます!」「飛び込みます!」という気持ちにさせてくれるカッコいい方でした。
――実際に共演されてみていかがでしたか?
有村:とにかく気持ちで向かってきてくださるので、自分も同じようにそれに返したいと思ったし、役を通して信頼してくれているのを感じました。相手に心を寄せてるってことだったり…、芝居がどうこうということより、石橋さんの人間性に魅力を感じて、それが役に投影されたりしてるのかなって感じました。芯の強さというか、そこが魅力的でした。
石橋:(2人での)最初の撮影が、映画版のシーンで、佳代とみどりがケンカというか、ぶつかるシーンで、それまでの関係性を見せるにはどうしたらいいんだろう? と緊張してインしたんですけど、その時、有村さんは、信頼してくれているからこそ、本気で怒りや哀しみの感情をまっすぐにぶつけてくれて、「大丈夫だ」って思えましたし、そこから安心して、みどりとして暴れることができました。有村さんが現場に入ると、男性スタッフも女性スタッフもちょっと“アガる”んですよ(笑)。それはすごく大きなことで、そういう人が真ん中に立っているって、現場としてすごく贅沢だなって肌で感じました。
――保護司、元受刑者という役柄を演じるにあたって、どのような準備をされたんでしょうか?
有村:まず原作を読ませていただいて、原作をリスペクトしながら、私なりになるべくインスピレーションを受けた新鮮な気持ちのまま近づきたいなと思っていました。いろんな資料もいただいたので、それも読みながら、実際に犯罪を犯してしまった人たちがどういう環境で育ってきたか? その人たちのパーソナルな部分も資料で読みながら知っていくと、もともとは被害者だったり、ちょっとしたことで加害者になったりしていて、誰もが被害者であり加害者であって、どうしようもない気持ちになって…。
自分がそういう気持ちになればなるほど、佳代もきっとこういう気持ちなんだろうなと、すり合わせていくことができました。
ちょうど、刑務所の受刑者たちが更生に向かうドキュメンタリー映画が上映されていて、それを観ると、(受刑者たちは)過去に人に愛されなかったり、虐待を受けていたり、環境が残酷だったりして、切ないというか悔しい――そういう気持ちを抱えて現場に入ることできました。
石橋:私は、ビジュアルも普段とかけ離れていましたし、歩き方や食べ方といったちょっとした無意識の部分でそれまでの境遇が見えてくると思って、まずその部分をどうするか考えました。
ただ、罪を犯したとしても、“前科者”というレッテルを私が張ってはいけなくて、それは社会が与えたものであり、演じるにあたっては、なぜそうなってしまったのか?その人の心に何があって、なぜ罪を犯すってことになってしまったのか?考えることが大事だと思いました。
(元犯罪者の)心の中にある「穴」と――みどりの場合「お母さんに愛されなかった」ということがすごく残っていて、そういう部分って、犯罪者であろうが、そうでなかろうが誰しもあると思うんです。子どもの頃の記憶で、親にすごく怒られたり、お兄ちゃんよりも愛されていないと感じたり、それで自分の中で時が止まったまま、歪みが生じて、大人になっても「何か欠けている」という気持ちになってしまうんだということを、すごく納得できる瞬間があって、そこで迷いがなくなったというか、確信を得て、所作や喋り方などを意識するようになりました。
良い関係性を築く上で大事なことは「知らない部分をリスペクトする」
――岸善幸監督の演出で印象的だったことや驚きを感じたことがあれば教えてください。
有村:岸さんは、すごく役者さんのことを信頼して現場にいらっしゃるんだなというのを感じました。
自分も信頼していただけているんだなと感じたし、それは同じ目線で考え、苦しんでくださったからだなと思います。現場でテストをやらないんですよ。段取りだけで、すぐに本番なんですけど、“未完成”の部分を楽しんでいらして、私もそれに影響を受けて、とても楽しく過ごすことができました。岸さんは、撮影のたびに佳代について「いまの佳代はかわいかった」「いまのは美しく、キレイだった」と「かわいい」と「キレイ」を使い分けて表現してくださるんです。岸さんの言う「美しい、キレイ」というのは、佳代の人間的な“陰”の部分が出たときのことで、それが妙に照れくさくて(笑)、印象に残ってます。
石橋:テストなしで本番にいくというのは事前に聞いていて、緊張していたんですが、それは役者を信頼してるからなんですね。偽りの信頼ではなく「100%信頼してるから」って言われると嬉しいじゃないですか?まず「ここにいていいんだ」という思いを与えられる嬉しさがあったし、それだけ信頼されているからこそ「私に何ができるのか?」というある種の怖れも感じました。そこまで託してくれるのが嬉しかったし、その結果、岸さんが「OK」ならば、私はどう映ろうが、何を言われようが何でもいいから本気でやります! という気持ちになりました。
すごく不思議な方だなと思います。もちろんフィクションだし、書かれた本をああしようこうしようと工夫して、みんなでひとつの世界を作り上げていくものだけど、岸さんにはそれが到達すべき“真実”が見えてるんだろうなって気がして、そこに向かって周りもエネルギーを注いで、巻き込まれていく、座組全体がうねりみたいになって、作りものだけど、ある苦しみを伝えるんだという意思が感じられて、すごく楽しい現場でした。
――保護司と保護観察対象者として出会った、性格もこれまで育ってきた環境も全く異なる佳代とみどりですが、ドラマを通じて互いを理解し合い、“シスターフッド”ともいえる連帯、絆を紡いでいきます。こうした関係性を築く上で大切なこと、必要なことは何だと思いますか?
有村:他人を受け入れて、どれだけ許し合えるか?どれだけ自分と違っても、その人の良いところがひとつ見つかれば「合わないな」と思うところが全部覆されると思っていて、私は人と会う時、なるべく良いところを探そうと思っています。良いも悪いも全部その人だから、なるべく全てを受け入れて関わりたいなと思います。
石橋:みどりと佳代ちゃんの場合、性格も育ってきた環境も全く違うけど、同じだけの苦しみを持っていること――それを伝え合わなくても感じられたからこそ、あそこまでぶつかり合えたし、助け合っていこうとなれたんだと思います。なかなか全ての人とそうなるのは難しいですが、例えば私はいま27歳で、新しい友達と出会っても、その人のそれまでの人生については知らないし、家族であっても、全てを知っている気になっても、自分の知らないことってたくさんあると思います。前提としてその人の全部をわかることはないと思うことは、決して突き放すってことじゃなく、良い関係性を築く上で大事なことだと思います。
知らない部分をリスペクトすることが大事だし、そうやって接していきたいですね。
――ドラマ序盤でみどりが母親に抱きしめられるシーン、打ちひしがれた佳代をみどりが優しく抱きとめるシーンなどドラマ通じて「抱擁」のシーンが非常に印象的でした。どのような思いであのシーンに臨まれたんでしょうか?
有村:佳代にとって、みどりさんは“つっかえ棒”のような存在というか、支えだったので、もしみどりさんがいなかったら、佳代はあそこまで頑張れず、諦めていたと思います。ある意味で佳代が、人間らしさを見せられる唯一の人だったのかなと。そういう存在が佳代にできたことは、個人的にすごく嬉しかったですし、苦しみや葛藤を抱えてあの時、みどりさんだったから身を委ねることができたんだろうなって感じます。
石橋:確かに、抱きしめられたり、抱きしめるシーンは印象的なシーンが多いなっていまふり返って思いました。最初、母親と対峙して、抱きしめてもらうシーンはすごく難しくて…。抱きしめてもらう前に「お母さんに抱きしめてもらいたかった」というセリフあるんですけど、それがどういう気持ちなんだろうかっていうのがわからなくて、私は家族とすぐハグするような、いつも甘えられる環境で育ってきたけど、みどりは抱きしめられたことがなかったんだな…と。
それを頭で想像できても、体感でどういう感じなのか? すごく難しかったです。
実は、先ほど有村さんがおっしゃっていたドキュメンタリー映画を私もたまたま観たんです。監督やスタッフさんからではなく、友達から「面白いよ」と言われて観たら、まさに同じテーマを扱っていてびっくりしました。その映画の中で、まさに近い言葉をおっしゃっている方がいて、それを見て、震えたというか、自分の中で納得がいったんですね。罪を犯してしまったけど、なんでそうなってしまったのか?という根本を辿ると、子どもの頃の「愛されたかった」とか「抱きしめてほしかった」という、すごく繊細な、ある種小さなことが、どんどんねじ曲がってしまったりして、苦しみのスパイラルに入ってしまったんだということに気づいて、その映画を観た後にあのシーンの撮影があって、すごく強い気持ちで臨めました。もうひとつ、佳代ちゃんを抱きしめるシーンは、もうそれしかできないって気がしていて、言葉で何を言っても苦しみを救うことできないし、そういう時、近くにその人の肌や温もりを感じるだけで救われることってたくさんあるんだなと感じました。言葉や理屈じゃなく些細なことが大きく作用するんだというのを感じたシーンでした。
役柄を通じて感じた“社会が変わっていかなくてはいけないこと”
――ドラマの中では“前科者”が世間の厳しい目にさらされる場面や、大切な人を失った被害者遺族の消えることのない哀しみや怒りなど、様々な現実が描かれます。保護司、元受刑者という立場の役柄を演じて、元犯罪者の更生や社会復帰に必要なこと、彼らを受け入れるために社会が変わっていかなくてはいけないことなど、お2人が感じたことを教えてください。
有村:(しばらく思いを巡らせ)正義の分断が争いを起こす気がしていて、もちろん加害者を守ろうとすれば、被害者の方や遺族の方が傷つくこともあるし、人間って複雑だなと改めてこの作品を通じて感じました。いまの時代、いや、きっとずっと昔から人間は、何かしらを「裁こう」とする生き物で、自分の中の正義とは違う正義が現れると、そっちを裁きたくなってしまうものなんだと感じますし、最近は特にそうだなと思います。
でも、そういう冷たい世界じゃなく、どの人間にも生きる権利はあって、一生懸命、何かと戦ったり、向き合おうとする権利はあるし、それを他人が制止することはできないと思うんですよね。どの人も温かい“光”を感じられる世界が見れたらいいのになと思います。
石橋:本当に難しい問題ですし、どっちが正しくて、どっちが悪いということは言えないですけど、いまの社会の中で、“罪”とされていることを裁くのは法律や制度であって、決して周りにいる人々ではないというのはすごく感じました。誰も犯罪者になりたくて犯罪を犯すわけではないし、何かがあってそうした行動をしてしまうわけで、それを表面の情報だけで判断することはできないし、それは犯罪に限らず、誰かが物事の表面の上澄みだけで「こうです」と人を見てしまう世の中ってつまらないなと思います。そうじゃなくて、もっと深く、厚みのある部分――そこに気づくことにできたら、複雑だけど面白く生きていけると思うし、「正しい」「間違ってる」というジャッジをしてレッテルを貼ってしまうと、もうそれ以上は何も言えなくなってしまって、薄っぺらい世界になってしまうように感じます。
情報社会のなかで、そういうことが、よりシビアになっている気がするけど、情報やその人に貼られてるレッテルの先に何があるのか? 興味を持つことが必要だし、それは自身、を豊かにしてくれることだと思います。
毎週土曜夜10:30~放送・配信中〔第1話無料放送〕/各話放送後、WOWOWオンデマンド、Amazon Prime Videoで見逃し配信
まだ間に合う!1~4話一挙放送
12月18日(土)午前11時WOWOWプライム[第1話無料放送]
(text:Naoki Kurozu/photo:Maho Korogi)
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前科者 2022年1月28日公開
© 2021香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会