2022年2月7日 17:00
稽古場からスクリーンへ~ナショナル・シアター・ライブ『ロミオとジュリエット』
のキスの場面が続き、若者たちの恋の燃え上がりと、その直後に続く悲劇のギャップが強調される。最後の霊廟の場面は花が飾られた重厚なセットで展開するが、エイドリアン・レスター演じるヴェローナ公が最後の台詞を言う中、喪に服すヴェローナの人々に囲まれた2人の遺体はいつのまにか最初の稽古場に戻っている。恋が生み出すイリュージョンは終わったのだ。
これはローレンス・オリヴィエが1944年に映画『ヘンリィ五世』で導入した、古典的かつ効果的なやり方の応用だ。『ヘンリィ五世』はシェイクスピアの時代のグローブ座の舞台という設定で芝居が始まるが、いつの間にか劇場を飛び出してセットの規模がどんどん大きくなり、華麗な戦争絵巻になる。何もない劇場で始まっても役者の力と観客の想像力でどんどん舞台が美しく見えるようになっていく…という、舞台特有のイリュージョンを映像で再現する技法である。NTLive『ロミオとジュリエット』はこの方法をうまくアップデートしていると言える。
そして本作の一番の見所は役者陣の演技だろう。バックリーとオコナーの息はぴったりで、2人が笑顔を交わすところを見るだけで優しい情熱がひしひしと観客に伝わってくる。