『イニシェリン島の精霊』リアルさとオリジナリティあふれるこだわりの衣装デザインに注目
その一言によって私は自由に独創的に衣装のことを考えられるようになった。架空の島を舞台に展開することが、私をよりクリエイティブな方向に導いてくれた」とマクドナー監督との話し合いをふり返り、「私たちは誰もが見慣れている、けれど何かがちょっとおかしい、そんな世界観を創り出そうとした」とオリジナリティあふれる衣装を追求したことを明かしている。
主人公のパードリックは、劇中ではコルムに絶交を言い渡され、弱々しく困り果てているキャラクター。当時の資料を研究するなかで、アイルランドの島の人々のズボン丈が短く、ブーツの少し上までしかないことに気がついたヴァルドウニグは、パードリックの衣装にこのデザインを採用した。
一方、コルムは劇中で唯一オーバーコートを着用しているキャラクターとなった。ヴァルドウニグは1920年代の西アイルランドの参考写真を見て全員がジャケットにズボンという装いで、誰もオーバーコートを着用していないことから、芸術家になりたいという野望を持っているコルムに相応しい衣装としてあえてオーバーコートを採用。コルムが海岸を歩いたり、壁を飛び越えたりする際のコートが風になびく様子はアメリカの西部劇のようなエッセンスを感じさせ、ほかのキャラクターとは一風変わった強いシルエットを作り出している。