【インタビュー】岡田将生、30代半ばになって感じる変化「恋愛映画でウルッとするようになった」
年齢を重ねていく中で、人間の感性や好みは変わっていくもの。以前はおいしいと思わなかったものが好物になったり、学生の頃はさほど仲良くもなかった知人となぜか意気投合したり。
映画の見方も然り。10代の頃は見向きもしなかったジャンルの作品に惹かれたり、若い頃であれば何気なく聞き流していたかもしれないセリフが心に刺さったり…。
今年、34歳を迎える岡田将生も、そんな変化を自らの内に感じつつ、それをポジティブに捉えている。20代の頃はプライベートで恋愛映画を観ることはほとんどなかったというが、30を超えて、期せずして恋愛映画に心を揺り動かされことが増えたという。
台湾で大ヒットを記録した映画『1秒先の彼女』もそんな作品のひとつ。何をやるにも他人よりワンテンポ早いヒロインと、常にワンテンポ遅いバス運転手の恋模様を描いたこの作品に岡田さんは深く感動したという。
そして、同作を男女の設定を反転して京都を舞台にリメイクした『1秒先の彼』が制作され、岡田さんは他人より常に1秒早い郵便局員・ハジメを演じている。
岡田さんにとって本作が特別なのは、まず日本版リメイクの脚本を、映画『謝罪の王様』、ドラマ「ゆとりですがなにか」など、コメディ作品における岡田さんの新たな魅力を引き出してきた宮藤官九郎が執筆しているという点。
そしてもうひとつ、監督を務めるのが、岡田さんにとって10代で初めて映画のオーディションを経て参加した『天然コケッコー』の山下敦弘監督であるということ。実に16年ぶりとなる山下組は岡田さんに何をもたらしたのか――? 16年前の思い出と合わせてたっぷりと語ってくれた。
台湾版とは男女の設定が逆「日本的な笑いみたいな部分が含まれて」
――オリジナル版の台湾映画『1秒先の彼女』をご覧になった感想をお願いします。
感動しました。設定は奇抜なんですけど、それを映画に全て収めていて、これは脚本そのものもきっと素敵だったんだろうなということがすごく伝わってきました。
純粋に映像も美しくて、台湾に行ってみたいなと心の底から思えるような映画で、それこそロケ地巡りツアーみたいなのがあったら、回ってみたいなって思うくらい素晴らしかったですし「これをどうリメイクするんだろう?」という思いもありました。
僕は最初、男女の設定を逆にするということを聞いていなくて、男性の方を中心に見ていたので、その後に、(男女を反転させると)聞いて「そうだったんだ!」と思ってちょっとびっくりしました。
でも本当に素敵な映画でした。多分、20代のときに観ていても、いまぐらいの感動はなかった気がして、純粋にあの2人の思いに30代になってグッときてしまって。それは監督ともそういう話をして「なんかちょっとウルッときてしまったんです」と。20代のときって、なんかちょっとひねくれてて、あんまりそういう映画を観てなかったせいなのか、最近、そういう作品を観ると、また見え方が変わってきたなと思います。
――台湾版と男女の設定を逆にして、宮藤官九郎さんが執筆された『1秒先の彼』の脚本を読まれての印象は?
まず設定を京都にしたっていうのが絶妙で素晴らしいなというのがあって、ハジメくんも京都弁でやらせてもらってるんですけど、これを標準語でやるとちょっと浮いてしまう可能性があったけど、京都弁でやることによって、より一層、ハジメくんがちょっと憎たらしいけど愛せるキャラクターになっているなと思います。
それには、京都の方が聞いても違和感のないように滑らかな京都弁でやらなきゃいけないという大きな壁はあったんですが…(苦笑)。
あとはやっぱり宮藤さんの笑いというか、リメイクすることによって日本的な笑いみたいな部分がものすごく含まれてて、やっぱり宮藤さんのホンは面白いなと思いながら読ませていただきました。
映画デビュー作以来、16年ぶり山下敦弘監督作品への出演
――映画デビュー作『天然コケッコー』以来、実に16年ぶりの山下敦弘監督の作品への出演となりました。
感慨深いです。本当に感慨深くて、あんなに緊張した現場もないですけど(笑)。巡り合わせでまた、しかも宮藤さんの脚本でやれるなんて、こんなに嬉しいことはないなと思いながら、その中で、成長した姿を見せるというわけではないですけど、ひとりの俳優として監督と真摯に向き合うことで、より緊張感を増すというか…。ひとつひとつ言葉を自分の中で選択しながら、会話をしていったんですけど、やっぱりどこかで「がっかりされたくない」という思いもあって、それはすごく複雑な感じなんですけど…。でも、監督の演出の意図を感じながら映画を作るということに関しては、他の映画とは全然、思いが違うというのはありますね。
――山下監督とは今回、どんな会話をされたんでしょうか?
桜子役のオーディションがあって、そこに呼ばれて、ハジメくんとして相手役の方と演技する時間があったんですけど、最初の30分くらいはそこでハジメくんの演出を受けてました(笑)。
それはそれで初めての経験で山下監督に「オーディションに来てほしい」と言われて行ったものの、自分の中でまだキャラクターが固まっていなかったんですが、でも、その時間がすごくよくて、みなさんとお会いしてお芝居する時間が楽しかったですし、ハジメくんの新しい一面がどんどん出てきました。
あの時間が今回の映画で活きた気がします。
――改めて、当時10代で、映画の現場に足を踏み入れた『天然コケッコー』の現場は岡田さんにとってどういう経験だったんでしょうか?
たくさんの諸先輩方のお話を聞くと「デビューの頃の作品を超えることはできない」とみなさん、口を揃えておっしゃるんです。その意味がなんとなく、わかってきたところがあって、純粋な気持ちでカメラの前に立つことがなかなかできなくなってくるんですね。回数を重ねるたびによこしまな気持ちがわいてきて(苦笑)、見せ方とかを考えている時点で絶対的に(デビュー当時の気持ちに)勝てないんです。
僕は(『天然コケッコー』を)見返すことができてないんです。どこか構えてしまって、公開時に映画館で観て以来、観てないんです。ありがたいことに何回か、(リバイバルで)流してくださる劇場があったんですけど、行こう行こうと思いつつ、行けなかったんです。
山下監督とも「何かイベントがあればお声を掛けてほしいです」という話もしたんですけど、それくらい自分にとっては“原点”と言える作品で、ずっと超えられないもの、死ぬまで身体に残っていく作品のような気がしています。
――当時、山下監督に言われて心に残っている言葉や忘れられない思い出があれば教えてください。当時、まず“映画監督”という存在を僕は知らなかったんですが、山下監督はだいたい現場でカメラ横で、なぜか口を隠しながら芝居を見てるんですね(笑)。モニターではなく自分の目で僕らの芝居を見てくれていて、その安心感は今回の現場でも感じましたが、『天然コケッコー』の時もそうだったので、僕にとって “監督”というのは、そうやってカメラ横で見る人なんだと思っていたんですけど、他の現場に行ったら、そういう監督はあまりいなくて…(笑)。
もちろん、現場でモニターではなく、自分の目で芝居をジャッジする監督はいらっしゃいますけど。今回、この映画が始まった時、カメラ横にいる監督を見てなんだか嬉しくなりました。
当時はまだデジタルではなくフィルムだったので「お前、フィルムだぞ!」と言われても、何のことか僕はわからなくて…。「デジタルと違って何回もやり直しが利かない」という、一発、一発の重要性をあの現場で教えていただきました。
その後、デジタルが増えて「フィルムで撮ったことある?」とよくいろんなスタッフさんに聞かれるんですけど「デビュー当時に、フィルムで撮っていただきました」と言うと、みなさん「そうか、よかったな」とおっしゃってくださるんです。
そういう時代を知っていることがいまにも活きていると思います。その後も何度かフィルムで撮っていただいた作品はありましたが、やっぱり緊張感があるし「フィルムっていいなぁ」って思いますよね。
あの時は、季節が移り変わるのを待って、1か月空けて、また秋に撮影するということをやったんですけど、そういう撮影方法も、いまではいろんな事情でなかなかできないことだし、あんなに恵まれた環境で撮影をさせていただいてもらっていたことは、いまでも経験として良かったなと思いますね。
今回もやっぱり、山下監督とのお仕事は何にも替えがたいもので、やってよかったなと思いました。一瞬、迷ったんです。監督とこの作品をやること――果たしてこの作品でいいのか? この役でいいのか? など思うことがあって、でもこの作品とこの役でもう一度、山下監督と出会って、映画をつくることは、僕にとって今後に活きていく経験になったんじゃないかと思います。
歳を重ね、感じる変化「求められることのレベルも変わってきて…」
――何をするにも周りよりも“1秒早い”ハジメを演じましたが、岡田さん自身は同じようにせっかちなタイプですか? それとも“1秒遅い”レイカのようにのんびりしたタイプですか?
僕はどちらかというとせっかちなタイプですね。仕事の時はわりとゆったりやりたいんですけど、プライベートの時はスケジュール通りに進まないとダメで(笑)、友達と待ち合わせするにも早く行ってしまいます。
――昨今、映画を早送りで視聴する人が増えたり、“タイパ(タイムパフォーマンス)重視”ということが叫ばれがちです。一方、映画の中で、登場人物のひとりが「世の中のスピードについていけなくて…」ということを言いますが、効率化の波にせきたてられて生きる中で、その言葉に共感する人も多いのではないかと思います。
そうですよね。僕自身、台本を読んで共感する部分ではありました。生活のいろんな部分で効率化によってすごく助けられているし、快適さを感じるんですけど、全てが効率化されていってしまう中で「ついていけない」と感じる部分もあります。
だからこそ「丁寧な暮らしをしよう」というのは日々の中でなるべく心がけていますね。朝食の時間、お昼の時間、掃除の時間、映画を観る時間――余裕を持って生活できるようにと心がけていますし、ちょっとアナログな生活をしてもいいんじゃないかと思いますね。
――オリジナル版を観ての感想で、もし20代の頃に観ていたら、印象が変わっていたかもということをおっしゃっていましたが、10代、20代の頃と比べて、感性や考え方の変化を感じますか?
ちょっとずつ感じるようになってきましたね。そもそも観る作品も、20代の頃はプライベートで恋愛映画を観ることがほとんどなかったんですけど最近、たまにそういう作品を観ると、人が人を想う気持ちが、より鮮明に自分の体の中に入ってくるのを感じます。
今回、台湾のオリジナル版を見ると、主人公の家族たちが父親がいない生活をしていて、前面に明るさを押し出しつつも、どこか根底に「父の不在」という哀しみを共有しているところがあって、そんな家族の姿を見ているだけでウルッと来ちゃったんですよね。
日本版でもレイカちゃんが、手紙でハジメくんに想いを伝えようとする部分でグッと来たんですけど、それは20代では感じられなかったことかもしれないなと思いますね。恋愛映画って、いろんな面が見えてくるんですよね。登場人物たちがいろんな表情を見せてくれて、それを面白いって思えるようになったのかなと思います。
――仕事面でも30代になって、変化を感じますか? 岡田さん自身ももちろん、周囲に求められることや役柄も変わってきている部分はあると思いますが…。
すごく変わったと思いますね。求められることのレベルも変わってきて、毎回「超えられるかな?」と心配になりながらやってますけど…(苦笑)。
ここ最近、関わる作品ひとつひとつに重みを感じるというか、責任という意味でもそうですし、この作品における自分の役割やポジション、任せられる幅が20代とは全然違うと思うし、単に主人公というだけでなく、物語のキーパーソンとなる役や、周りを動かす役だったり、変わってきたなと感じています。
――今回、この作品への出演を「一瞬、迷った」とおっしゃっていましたが、本作に限らず、作品への出演を決断する上でどんなことを大切にされていますか?
絶対的に大事なのは脚本のクオリティなんですけど、最近は少しずつ“人”になってきました。「誰と」という部分がすごく重要で、今回は山下監督との縁がありましたが、そういう縁は大切にしたいなと思います。
どの作品でも人との出会いがありますが、誰と一緒にやるがで、自分がどんな影響を受けるか、ということを以前よりも考えるようになったと思います。
ヘアメイク:小林麗子/スタイリスト:大石裕介
衣装クレジット:ジャケット、シャツ、パンツ、ミュール(全てNEEDLES)
(text:Naoki Kurozu/photo:Jumpei Yamada)
■関連作品:
1秒先の彼 2023年7月7日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開
©2023『1秒先の彼』製作委員会