ファッションから紐解く、ふたりの女性の深層心理『メイ・ディセンバー』
トッド・ヘインズ監督とスタッフはまずはふたりのルックを探り、グレイシーの見た目を決めるところから創作を始めていったという。
23年前の“メイ・ディセンバー事件”以来、他人の目や好奇な関心にさらされ続けているグレイシーは、周囲の目や軽蔑をシャットアウトし自分の世界に没頭している。
ジョージア州サバンナにある自宅で家族とバーベキューをしたり、料理に精を出したり、近所の人にハンドメイドケーキを作ったりと、自分の手の届く範囲の中で幸せを見つけながら、家族と平穏に暮らしている。
そんなグレイシーには、パステルカラーに染めた羽のようなふんわりとした髪、ラベンダー、ピンク、アイボリーといった色味のフェミニンなカラーをまとう“プリンセス”のイメージが追求された。プリンセスを取り繕うことによって、自分にとって不都合なことを排除しているかのようにも見える。一方のエリザベスは、都会からやってきた“ハリウッド王室”のイメージ。はじめは黒髪で、衣装もモノトーンで登場する。しかし、エリザベスはグレイシーを演じるために彼女に近づき、行動を共にし、周囲の証言を集める中で、次第に見た目の変化を遂げていく。
ダークな色合いの服から、次第にグレー、ラベンダー、ピンク、ベージュ…と、“グレイシー色”へと変化していくのだ。