高橋メアリージュン、難病と闘いながら演じた駒形由美とそれを支えた佐藤健の言葉「絶対治るよ。大丈夫」
佐藤健が主演を務める映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(公開中)で、駒形由美を演じた高橋メアリージュン。主人公・緋村剣心(佐藤)の宿敵である志々雄真実(藤原竜也)の愛人兼世話役で、原作でも人気のキャラクターだ。高橋はもともと原作のファン、中でも由美に心酔していたことから撮影中も"志々雄様LOVE"状態でなりきっていたという。
モデル出身の高橋は、2012年のNHK連続テレビ小説『純と愛』で女優デビューを飾り、今年に入って本作を含む3本の映画に出演。女優としてこれからという時、昨年10月に医師から「潰瘍性大腸炎」の診断を受ける。難病に指定されているこの病気は、大腸の粘膜に潰瘍などができる炎症性疾患。下痢や血便があり、重症化すると体重は減り、発熱や貧血などを伴う。
今では回復傾向にあるが、最も症状が悪化したのが本作の撮影中だった。
「降板」もよぎったという高橋。点滴を打ちながら懸命に演じ切った今、「折れそうな心が由美によって救われたんです」と晴れやかな表情を見せる。数カ月前、高橋が言い残していた「命を懸けて演じました」。その言葉の裏には病気と闘いながら懸命に由美を演じ、そしてそれを支える人々の存在があった。
――7月のプレミア試写会で「包帯ロスになった」とおっしゃっていましたが、具体的にどのような状態だったんですか?
(駒形)由美は志々雄様をすごく深く愛しているので、私もそうなるように徹しました。本当に"志々雄様LOVE"だったので、撮影が終わった時に「私はこれから誰を愛せばいいんだろう…」と。そんな思いから、イベントでの"包帯ロス"という発言につながります(笑)。
――ほとんどが藤原竜也さんとの共演シーン。
確かにそうなるのも納得できます。
藤原さんは普段、すごく気さくで優しいお兄さんなんですけど…ご本人も「不機嫌になる」とおっしゃっていましたが志々雄スーツを着ると、すごくおとなしくなるんです(笑)。本当に人形状態で、視線もどこかに行ってしまっている感じで。
――なかでも印象深いシーンは?
実は『伝説の最期編』でカットされてしまっているんですけど、キスシーンがあったんです。漫画とは違うシーンなんですが、台本には書いてないところで大友監督が「2人が愛し合っているところを見せたいからキスシーンを入れよう」と。キスシーンを経験したことがなかったんですが、ただのキスじゃなくてワインの口移し(笑)。
本番スタートの直前に志々雄様から「いっぱい口に含んだ方がいいよ」って言われて。そのシーンを言われるがままやったんですが、いっぱい口に含みすぎて全然キスが終わらないんですよ(笑)。
すごく濃厚なシーンになったんですけど…カットになってしまいました(笑)!
残念ですけど、原作から志々雄様のファンだったので、その志々雄様とキスできたことはとても幸せなことです。監督いわく「そこを答えにしたくなかった」。ラストシーンで2人の本当の愛を見せられるから必要なかったんですね。あとは艶っぽくなりすぎたと。
――そういえば以前、『闇金ウシジマくん Part2』でお話をうかがった時には、「駒形由美のことを好きすぎて演じることが難しい」とおっしゃっていましたね。
いい女すぎるんです。男女どちらからも「理想」と思われるような美しさ。だからこそ、ハードルが高い。
美しくなければならない。でも、色気も必要。説得力もないといけないし、重みも。この世にそんな人いるのかというくらい、皆さんにとっての理想の存在。それになりきることは難しいことですし、すごくプレッシャーでした。
――漫画では詳細な人物背景が描かれていますが、映画ではあまり触れられていません。どのような役作りをして挑んだのでしょうか。
花魁を演じる上で所作は何よりも大事と思いましたので、日本舞踊を2カ月ほど習いました。
まずは着物の着こなし方からはじまり、次に歩き方、座り方、お辞儀の仕方。ただ、それらは町娘に近い動き。花魁はまたちょっと違うので、花魁用の所作を教えていただきました。少し、崩している感じとでもいうのでしょうか。
私はタバコは吸わないんですけど、由美は煙管(きせる)を吸うので煙管を買って、自宅の換気扇の下で吸う練習をしました(笑)。あとは、火が怖くてもともとマッチがつけられなかったので、マッチをつける練習も。実際は使わなかったんですけどね。マッチを1本つけるたびに台所で消して、また1本つけて消して…女優って地味な作業だなと思いました(笑)。
でも、そういう細かい作業がすごく楽しい。役柄にも少なからず影響する大切なことだと思います。
●藤原竜也に病気を打ち明けなかった理由
――以前のインタビューで今回の撮影の話になった時、「命を懸けた」とおっしゃっていました。そのまま聞き流してしまっていたのですが、撮影中はちょうど病気(潰瘍性大腸炎)の症状が悪化している頃だったそうですね。
そうなんです。でも、由美に救われたんですよ。現場では何度もトイレに駆け込んで…。(佐藤)健くんは過酷な現場だったことに関して「無事に撮影を終えることができるのか心配だった」とおっしゃっていましたけど、私は個人的に最後までいけるのかと。
一瞬、「降板」も頭をよぎったこともありました。心の底からやりたい役だから、そんな言葉浮かぶはずないんですが、それぐらい精神的にもやられてしまっていました。でも、「ここでやめたら演じる資格はない」「絶対負けない」と心に決めて。すると、自然と体調も少しずつよくなりました。だから、折れそうな心が由美によって救われたんです。
――点滴を打つこともあったと聞きました。
はい。おかゆを持って行っても、それすら食べることができなくて。栄養摂れなくてどんどん痩せてしまうので、点滴という方法しかありませんでした。着物だからあまり目立ちませんけど、今と比べると、本当にやせています。
――昨年の10月頃に判明した潰瘍性大腸炎。高橋さんは昨年から今年にかけて出演作が急増しました。ようやく巡ってきたチャンスでその病名を言われた時、率直にどう思いましたか。
すごくショックでした。まだまだこれからやっていきたいのに、できないかもしれないなと思って。すごくショックだったんですけど…由美と出会って乗り越えることができて「やれるんだ」という自信と安心が芽生えました。その後に『キカイダー REBOOT』のお話をいただいて、普通の生活ができないのにアクションなんてできるわけがないと思ってお断りしようとしていたんですが、由美をきっかけにどんどん体調がよくなって「やります」と決意しました。なによりも、諦めないことが大切なんだと思います。
そして家族、事務所や関係者の方々…みなさん励ましてくださって。マネージャーさんも私のために、おかゆを作ってくださったり。病気のことは藤原さんには言ってなかったんですけど、健くんには言いました。健くんはいつもプラス思考で「絶対治るよ。大丈夫」と言ってくださって…。その言葉があったから、私も明るくいることができました。藤原さんに言わなかったのは…あまり心配をかけたくなかったというか。私は志々雄様にとっての由美でいたかった。原作の由美は病気ではありませんから。
――そして、苦労の末に演じきったラストシーン。今振り返ってみて何を思いますか。
私の中では撮影現場ではなかったですね。周囲の物音が聞こえなくなるくらい、「志々雄様を守りたい」という一心。そして、「志々雄様を失ってしまうかもしれない」という恐怖。カットがかかっても、しばらくしゃべることができなくなるような状態でした。しばらくして、今のは演技の世界だったんだと気づいてハッとして。お芝居をしようという気持ちは全然なくて、大切な人を守れるのは自分だけだという思い。ただそれだけでした。
――駒形由美の最期は漫画にも描かれていますが、賛否両論があるそうです。高橋さんはどう思いますか。
見方によっては悲劇かもしれませんが、私にとってはあれは幸せなんだと感じます。だから、演じるときも、幸せを感じるように心がけていました。そして、撮影を終わった時には「ありがとう」という言葉が浮かびました。
――さて最後に。Twitterやブログ、テレビなどでも病気を公表されました。そうすることによって、気づいたことはありますか。
公表することで、同じ病気の方々を励まそうと思っていたんですけど、逆に公表したことでいろんな方からメッセージをもらって。私が逆に励まされてしまいました(笑)。あとは公表したことの責任。だいぶ体調もよくなりましたけど、簡単に治る病気と誤解されてしまったら、今苦しんでいる人にも申し訳ないので、きちんと伝えていく責任感を強く持つようになりました。これからもいろんな作品に出させていただくのと並行して、病気のこともたくさんの人に伝えていけたらいいなと思います。
■プロフィール
高橋メアリージュン
1987年11月8日生まれ。滋賀県出身。2004年からファッション誌『CanCam』(小学館)の専属モデルとして活躍。2012年に同誌を卒業し、同年のNHK連続テレビ小説『純と愛』の狩野マリヤ役に抜てきされ、女優デビュー。今年の入って、『闇金ウシジマくん Part2』、『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』、『キカイダー REBOOT』の3作の映画に出演した。