大規模データを扱う造船設計の構造解析を大幅にスピードアップ
さらに、この2つのCSRの技術的調和を目指した調和型共通構造規則(調和CSR)の草案が策定され、業界レビューを経た後、2013年12月にIACSにて採択された。
このような動きの中、船級協会の一つである「日本海事協会(ClassNK)」は、調和CSRに準拠した「構造解析システムの基盤となるFEM(有限要素法)構造解析ソフトウェア」としてAltairの「HyperWorks」を採用した。
新たな規則への対応を迫られた造船現場。そこにHyperWorksが採用されたことで何がもたらされたのかを、実際に船の構造解析に利用している株式会社新来島どっく 技術設計本部 造船設計部 構造計画課 池本俊史氏に伺った。
*ばら積貨物船:貨物をコンテナなどに梱包せず、そのまま船倉に積み込むタイプの貨物船のこと。
主に、鉱物や穀物などの輸送に利用される。
○大規模データの処理を求められる新規則に対応するために
「以前、私達が利用していた解析ソフトはデータ容量が大きくなると、非常に処理が重く、結果が出るまでに大変な時間が掛かっていました。画面でモデルを表示している時も、少し動かしただけで処理が重くなり、場合によってはフリーズしてしまうこともありました。」(池本氏)
新たに定められた調和CSRは2つの構造規則を統一することになるため、解析に必要となる計算も複雑になる。しかも巨大な建造物である船舶はモデルデータも大規模だ。このような大量のデータを用いて複雑な計算を行えば、処理が重くなるのは必然となる。「これ以上、構造解析の計算に時間が取られてしまっては、作業全体のスケジュールにも影響を及ぼすことになる」。そう感じていた池本氏は、HyperWorksが調和CSRに準拠する構造ソフトウェアとして採用されたと聞き、導入に賛同したという。
○計算時間が1/4に。
圧倒的に速くなった処理速度
新来島どっくでは、HyperWorksが持つ各種ソリューションの、HyperMesh(構造解析用のFEモデル作成)、OptiStruct(構造解析)、HyperView(データの可視化)を利用している。
「以前に利用していたソフトウェアと比較すると、HyperMeshで作成したモデルデータは容量が半分くらいで済みます。お陰で画面に表示する際もスムーズに動きますし、以前のようにフリーズすることもありません。ストレージ容量の点からも大変ありがたいです」(池本氏)。
さらにHyperWorksで稼動する専用のプログラムと組み合わせることにより、これまで40時間掛かっていた作業が、四分の一の10時間で完了するほど、圧倒的な処理速度の向上を実現した。
「簡単なものであれば、ちょっと席を外している間に終わってしまう。計算待ちの時間が大幅に削減されたので、非常に効率が良くなりました」(池本氏)。
○思わぬ効果を生んだ多彩な画面表示機能
処理速度のほかに、池本氏が挙げたHyperWorksの長所として「多彩な表示機能」がある。
強度や防振などの問題に対処するため、現代の船体構造は複雑なものとなる。船全体を表示すると分かり難くなるので、該当する箇所のみを表示できると便利だ。だが、池本氏がこれまでに利用していたソフトウェアでは、詳細な表示の調整は難しい部分があった。
一方、HyperWorksには多彩な表示機能があるため、表示したい箇所、逆に隠したい箇所の設定を容易に行うことができる。
「表示に関しては、やりたいと思ったことが当たり前にできてしまう。導入時点では特に注目していた機能ではないのですが、実際に利用してみると非常に便利で、今では欠かせないものとなっています」(池本氏)
○使いやすいインタフェースと柔軟なサポート体制
「HyperWorksはソフトウェアとしても優れていますが、インタフェースの面でも非常に優秀です。新たにソフトウェアを導入すると習得に時間が掛かってしまうものですが、HyperWorksはインタフェースが直感的で分かりやすいので、習得に多くの時間を必要としません。サポートも丁寧で、しかも対応が速い。
おかげさまで、よく利用させていただいています」(池本氏)。
現在、新来島どっくでは、調和CSRをはじめとする新たな船舶規則に対応するため、日本海事協会、そしてアルテアと共同でさまざまな研究を行っている。今後も、規則に則った安全な船舶の設計のため、HyperWorksによる解析が行われて行くことだろう。
「現在、私達はHyperMesh、OptiStruct、HyperViewの3つを利用しています。ですが、HyperWorksのシリーズには他にも沢山のソフトウェアがあります。その中に造船設計につながるものがあれば、是非とも使ってみたいですね」(池本氏)