ついにロールアウトされたMRJの実力とは? ANA・JALの導入路線は?--写真24枚
10月18日、三菱リージョナルジェット(MRJ)が関係者や報道陣に公開された。1962年に初飛行を行ったYS-11以来、約50年ぶりの国産旅客機ということでテレビでも大きく報道され、画面を通じてその姿を見た人も多いことだろう。来年の第二四半期にはいよいよ初飛行を迎える計画で、MRJのプロジェクトは大詰めの段階に入った。では、MRJはどういう特徴を持つ飛行機で、どこを飛ぶことになるのかなど、気になるポイントをまとめてみたい。
○世界の広大な市場に向けて開発がスタート
通常、旅客機は同じ機種でも数タイプが用意される。MRJには90(88席、普通席のみの座席クラス・シートピッチ約79cmの場合)、70(76席、同)、そして計画中の100(100席、同)の3つのタイプがある。このうち、18日時点で航空会社から発注を受けているのは90と70の2タイプで、受注機数は合計407機。同日のロールアウト(お披露目)式典で公開されたのは先に生産されているMRJ90だ。
定期便に使用される旅客機には、500席を超える大型機から100席以下の小型機まで様々なサイズがあり、MRJのように小型の短距離輸送用でターボファンエンジンを積んだ旅客機はリージョナルジェットと呼ばれる。世界規模で旅客数の伸びが続く航空業界では、今後20年間に5%近い需要増が見込まれ、三菱航空機の予測では61席~100席クラスのリージョナルジェットだけで5,300機以上が必要になるとされる。
2008年3月、ANAから25機の発注を受けて正式に事業化されたMRJは、その広がる市場に向けた旅客機として開発されてきたわけだ。
○屈む必要なく、荷物棚も最大級
MRJの特徴は大きく3つある。分かりやすいので、ライバル社であるエンブラエル(ブラジル)のE170・190、ボンバルディア社(カナダ)のCRJ700・900などの同型機と比較しながら見ていこう。
まずは客室の快適さだ。客室の天井の高さと横幅はライバル機であるエンブラエルとボンバルディアの同型機を上回る。例えば、CRJ700・900のように高さが189cmだと、長身の人は屈(かが)む必要がある。
そうでなくてもかなりの窮屈さを感じるものだが、MRJはそれを大きく解消する。客室を広くするために床下の預け荷物を積むスペースを削り、機体最後部に配置する設計を採用したのだ。
また、もっとメリットを感じるのが機内にある荷物スペースで、持ち込み可能なサイズのかなり大型のローラーバッグも収納できるという。シートもスリムにし、乗客の居住空間を広げている。
○燃費は20%向上、騒音エリアは40%削減
2つ目は優れた燃費効率。MRJが搭載するエンジン「プラット・アンド・ホイットニーPW1200G」は従来の同型機に比べ約20%もの燃費向上が可能だ。エンブラエルが20年をめどに同じプラット・アンド・ホイットニー社のエンジンを搭載した機種をローンチする計画を発表しているが、MRJのエンジン性能の良質さは変わらない。
また、このエンジンは低騒音設計で、三菱航空機の資料によるとエンブラエルE170と比較した場合、騒音エリアを40%も縮小するという。
環境への配慮が求められる旅客機開発において、より優位な性能といえる。
○安い運賃を提供しやすくする経済性
3つ目は、航空会社の経済性向上によって期待される価格設定だ。例えば2000年代半ばから、飛行機に乗ると燃油サーチャージを徴収されるようになったが、その背景にあるのは航空燃料の高騰だ。しかし、燃費が向上すれば航空会社は運航コストを抑えられる。コストが抑えられれば安い運賃を提供できるなど、旅行者にもメリットがあるといえるのだ。
●YS-11から学ぶ、MRJがこれから乗り越えなければいけない課題
○幹線だけでなく、地方区間にも就航
そんな優れた日本の旅客機なら一度は乗ってみたいと思う人は多いはずだが、MRJは航続距離が最長で1,700km足らずと大阪と北海道を結ぶほどの区間でしか運航できず、海外の航空会社が購入しても乗る機会は限られる。
しかし、心配はいらない。前述したANAが25機(うちオプション10機)、JALは32機を発注済みだ。
MRJはエンブラエルやボンバルディアのライバル機だから、現在ANAとJALがエンブラエルとボンバルディアの旅客機で運航している区間に主に就航すると考えていいだろう。
具体的には、ANAが成田~新潟、伊丹~秋田・松山、北海道内区間、JALは子会社のジェイエアが運航する区間に主に就航させる計画で、羽田~南紀白浜、伊丹~秋田、札幌~仙台、鹿児島~南西諸島などで、ボーイング787など大型の新機材が羽田と大阪や札幌、九州などを結ぶ幹線中心に就航するのに対し、MRJは小型のため地方路線の利用者も体験する機会に恵まれそうだ。順調にいけば、2017年4月~6月には第1号機がANAに引き渡され、日本の空を飛ぶことになる。
○まずは初飛行、世界に誇れる旅客機を期待
ただ、勘違いしてはいけないのは、MRJはまだ一度も空を飛んでいないということ。ロールアウト式典の際に三菱重工業の大宮英明会長が「最高レベルの経済性と快適性を兼ね備えた、世界に誇れるメイド・イン・ジャパンの製品が、ようやく夢から現実へと姿を変えようとしている」と語ったように、開発はまだ現在進行形なのだ。
設計上は理想通りに飛ぶことになっていても、実用できる旅客機として航空会社に引き渡されるまでには様々な問題や不具合が発生するものだ。中・大型機市場をエアバス社と2分するボーイング社でさえも最新鋭機787の開発途中に何度もトラブルが発生し、初飛行は予定より2年も遅れ、ロールアウトしてからも2年半近くかかった。
もし、MRJに何らかのトラブルが起き、それをカバーするために機械を追加搭載すれば、機体重量が増して燃費効率が想定を下回る。
つまり、MRJの優位性を後退させるケースがないとも限らない。
さらに、販売後の継続したサービスをしっかりと確立しなければ、YS-11が初飛行からわずか10年で生産停止となり、事業自体も廃止となった過去の旅客機事業の二の舞になる可能性もある。ただ、この点についての意識は高いようで、ロールアウト式典後のインタビューで大宮会長は、航空機の"完成"を意味する型式証明の取得と同じくらい、販売後のサービス継続は重要な点だと語っている。
スケジュールに遅れが出ないのはもちろん大切だが、一方で日本人の利用者としては安全で、かつ世界に誇れる高性能な国産のジェット機を半永久的に利用できる方がうれしい。期待して待ちたい。
※文中のサイズはすべてインチ(inch)をセンチメートル(cm)に換算
※参考文献『月刊エアライン』
○筆者プロフィール : 緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。
著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。